まずは、大塚製薬を擁する大塚ホールディングスが、2010年12月15日に東京証券取引所で上場することが決まりました。これは低迷する我が国のバイオを変える可能性がある、桁はずれの資金を大塚製薬が手にすることを意味しています。是非とも、臨床開発だけでなく、我が国のバイオ研究のシーズやベンチャー企業を支援する本格的なベンチャーキャピタルの創成を期待したいと思います。今、1000億円を我が国と世界に投資すれば、極めて投資効率が高く、しかも、自社の新薬パイプラインを将来にわたって増強する基盤を形成できます。
 昨夜の女子バレーは圧巻でした。監督がiPAD?のようなタブレットPCを片手に、相手の戦術を分析して、支持を出していたのが印象的です。タブレットPCの本場の米国チームの監督は紙を握りしめていました。この差で勝ったとは寸毫も思っておりませんが、イノベーションを導入しようという意欲が、銅メダルに繋がったことは確実です。準決勝で2セット先取しながら、ひっくり返されていましたので、今回もプロテオームの調査をしながら視聴しておりましたが、第5セットで先行するや、仕事どころではなくなりました。木村選手の天才も挨拶で際立ちました。その他、若い伸び盛りの選手がどんどん出てきているのも、頼もしい。日本の復活に自信を与えてくれました。ありがとう。
 ところで、ゲノム研究の方は日本の存在感がどんどん世界で失われています。このままではアジアのゲノム研究は量的に中国のBGIに負け続ける可能性が濃厚です。GDPでも我が国を抜き去った中国は米国と競合していただき、我が国は量的拡大ではない、英国のゲノム研究の道を模索しなくてはならないのかも知れません。智恵の絞りどころです。もう足の引っ張り合いは止めて、日本のゲノム研究者を集結したネットワークを形成、早急に研究のビジョンを提示する必要があると思います。財務省がいうほどではないですが、我が国の今の国力と借金では投入できる資金にも限度があるというのは真実でしょう。
 2003年4月にヒトゲノム計画が完了しました。米国、英国に次いでヒトゲノム解読に貢献した日本だが、その後の研究開発の展開は欧米と日本では大きく袂を分かつ結果となりました。
 ヒトゲノム計画完了後、米国はヒトゲノム計画を米国の国民の健康維持と増進に貢献させるべく、ヒトの多様性を解析するハップマップ計画、エンコード計画、1000人ゲノム計画、がんゲノムプロジェクト(米国では先行し、がんゲノムアトラス計画)、そして今年から1000エピゲノム計画を開始しました。更に、ヒトゲノム解析の大衆化、医療技術化を加速するために、大幅な解析コストダウンを目指した1000ドルゲノム計画を、2004年から始動したのです。その結果、次世代シーケンサー、次次世代シーケンサーの実用化が急速に始まり、ヒト全ゲノムの解析コストは数年以内に30万円を切るところまで到達しました。
 しかも、第三世代シーケンサーは1分子シーケンスを可能とし、PCRの前処理を省けるため、試料入手から3時間でゲノム配列を解読することが可能となったのです。つまり、これは病院や診療所で活用できるPOCが可能な医療機器へと変貌することを約束します。今や第三世代DNAシーケンサーを開発しているメーカーは研究支援機器から医療機器へと商業化を目指すことを続々と宣言しています。2010年6月には米国食品医薬品局(FDA)が23ANDME社のパーソナルゲノム解析サービスを診断薬・機器として認定、製造承認の対象となると通告、パーソナルゲノムサービスの商業化促進に転じました。
 英国はWellcome Trustを中心に、大規模DNAシーケンス施設を整備、米国と共に国際的なゲノム関連プロジェクトに参加、プロジェクトを牽引しました。加えて、遺伝子機能の解析研究に注力し、巨大なノックアウトマウス施設を運営しています。更に、オーダーメイド医療実がん化研究プロジェクトで我が国の理化学研究所と東大が実証したゲノムワイド連鎖不平衡解析(GWAS)を大規模に展開、疾患関連遺伝子の探索を急速に進めています。加えて、2006年から世界最大のゲノムコホート研究、UK BIOBANKを開始、現在、40歳から69歳までの50万3316人の市民を登録することに成功しています。英国の国民皆保険サービス(NHS)の電子カルテ情報も統合し、前向きの疾患遺伝子探索研究を展開しているのです。GWASで発見した疾患関連遺伝子の臨床評価に必要なプラットフォームを構築しました。
 我が国では、ヒトゲノム計画完了でゲノム研究は終わったという政府や学会の誤った判断により、ゲノム関連の国際プロジェクトでの存在感はハップマップ計画をピークとして、どんどん薄まっています。1000人ゲノム計画にはとうとう未参加に終わり、アジアの代表は中国BGI(世界最大のゲノム解析能力を持つ研究機関・会社)にとって代わられた。がんゲノム計画でもGDPに比べると限定的な参加となっています。しかも、21世紀のゲノム医療の中核となる1000エピゲノム計画の参加も躊躇している有様です。環境によるゲノム情報の変化を網羅的に研究するエピゲノムは、遺伝と環境という生物を規定する二大要因であり、ここで我が国の存在感が消失するダメージは極めて大きいでしょう。現在、我が国の政府が提唱しているゲノムコホート研究も、疾患関連遺伝子の臨床的な価値を究明し、社会に還元するためには不可欠であるが、電子カルテとネットワーク化や個人情報の保護などの総合的な技術・システム開発を追求しなくてはならないのです。また、ゲノムと臨床情報の経済的な利用のルールや市民の教育なども展開する必要があります。
 我が国のゲノム科学の問題をまとめると、1)学際で、総合的な科学的視点を提唱できる研究者や行政官の不足、2)政府資金の不足と科学研究の政府資金依存体質、3)大規模シーケンス解析施設が存在していないこと、4)ゲノム解析技術開発企業とゲノム解析サービス企業の未発達、5)製薬企業と厚労省のイニシアチブ不足によるビジネスモデルの不確実性、6)医療関係者と市民の遺伝学への認識不足、7)世の中の変化への対応が遅い生命倫理学者など、問題は山積みです。
 しかし、唯一希望があるのは、遺伝的均一性が極めて高く、臨床医の診断能力が高く、そして市民の知識レベルがまだ高いことであります。こうした基盤に、地域の支援を受けながら、最先端のゲノム科学研究を我が国が展開できる可能性は残っていると思います。このためには借金だらけの国にただ頼るのではなく、地方自治体(こちらも財政的には厳しい)、地域社会、市民団体、企業など、複数の研究資金源を確保する努力が必要です。財務省がやるべきは、研究開発に対する強力な減税措置です。
 賢明なアメリカは、今年、バイオベンチャーに対する研究投資に1000億円の減税を認めています。日本の政府も、事業仕分けなどより、歳入を減税によって削減すれば、仕事も当然削減されるはず。但し、今の政府ではリストラできず、国債を増発するという悪の選択もしかねないので、監視しなくてはなりません。
 皆さんはどう思われますか?
 どうぞ今週もお元気で。