サッカーのナビスコカップ決勝で、ジュビロ磐田が後半終了1分前に追いつき、延長戦で大逆転した試合をご覧になったでしょうか?何事も最後の最後の粘りが重要だ。
 実は先月、個の医療でも大逆転が起こった。
大腸がんの特効薬としてわが国でも発売されている抗上皮細胞成長因子受容体(EGFR)抗体。先行するメルクセローノとブリストル・マイヤーズスクイブを追って、今年、武田薬品も完全ヒト型の抗EGFR抗体を発売した。
 この抗EGFR抗体の添付文書を読むと、患者さんのがん遺伝子であるKRASが野生型か、突然変異を起こした変異型かを投薬前に検査することが勧奨されている。臨床試験ではわが国の大腸がん患者の約4割を占めるKRAS変異型の患者さんに抗EGFR抗体を投与すると、無増悪生存期間が逆に短縮する例も報告されている。少なくとも先月までは、KRAS遺伝子を検査して、効果のないKRAS変異型の患者さんには投薬をしないというのが、常識だった。
 しかし、先月、ベルギーとわが国の研究者から相次いで、KRAS変異型の患者の6分の1から7分の1で、抗EGFR抗体がKRAS野生型の患者さんとほぼ同じぐらい効果があることが報告されたのだ。まだ、前向きの臨床試験ではないので、確定的なエビデンスではないが、少なくともKRASに突然変異があれば、その患者に抗EGFR抗体は投与しないという常識は崩れてしまった。
 問題はKRAS遺伝子のどこに突然変異が起こったかである。KRASの突然変異はコドン12領域に約8割、コドン13領域に約2割の割合で生じる。今回、抗EGFR抗体の効果があることが判ったのはコドン13領域に起こった特定の突然変異(G13D)だ。大腸がん患者の6%から7%がG13Dを持っている。添付文書をそのまま当てはめていると、これらの患者の治療機会を奪うことになる。最終的に、前向きの臨床試験などで確認されれば、抗EGFR抗体は大腸がん患者の約7割にまで投与を拡大できるようになる。
 科学は常に進歩する。個の医療も科学進歩を柔軟に取り入れなくては、患者さんの不利益になる。それが今回の重要な教訓である。