現在、凍てつく北京で第14回北京国際生物医薬産業発展会議を取材中です。長い夏でなまった身体には北京の烈風は身を切られるが如しです。
 この会議は歴史が長いのですが、今年度からオリンピック後の不景気対策に北京市政府が、バイオ医薬産業振興プログラム(Leap-Foward Developmento Program of Beijing Biopharmaceutical Industries、これを何故か、G20と省略しています)を打ち出してきたこともあり、活況を呈しています。残念ながらビッグファームはライセンス担当者を講演者に送り込んでいますが、我が国の企業関係者は講演者として皆無なのが情けない。羽田から4時間の距離なのに、北京におけるバイオ研究爆発(もう既に科学論文数では負けました)に我関せずの態度はあまりにももったいない。反日デモなどでカントリーリスクが増大したという判断も結構ですが、反米デモがない国は無い事実も直視して、世界戦略を進めなくてはなりません。今回の中国の場合は、安い労働力のみを求めて内陸へ進出した企業が、農村部や地方都市の住民の困窮によるリスクを負った可能性が濃厚です。北京市政府のお墨付きのサイエンスパークとは無縁のリスクでしょう。
 今後、中国を生産基地としてだけ考えるのではなく、委託製造や前臨床試験などアウトソーシングのパートナー、そして近年、中国の科学論文数や特許出願件数の大幅な伸びを背景として、従来の中国の研究所がビッグファーマの全世界の研究を支援する機能が中心であったのが、本当の意味で知的財産を生みだす研究機関へと変貌しつつあります。米Merck社のMervyn J. Turner最高戦略責任者は、中国のCROの売り上げは08年に2億6000万人民元(1人民元=約12円)に到達、05年の実に10倍の売り上げを記録したと、指摘しました。また、デンマークNovo Nordisk社は他のビッグファーマに先駆けて1997年に北京に研究所を設置しましたが、2010年から研究所を拡充し、支援研究所から、糖尿病研究の一翼を担う新薬開発の研究所へと一新しつつあります。12年には北京市郊外に現在の規模を10倍に拡大した新研究所を開設します。
 中国の医薬研究はいよいよ、インキュベーションの時期を脱して、本格的な新薬開発のベースとして離陸する可能性があるでしょう。特に、既に世界最大の患者を抱える糖尿病や生活習慣病、そしてアジア特異的な胃がんなどの研究拠点となるポテンシャルはあると感じました。
 さて個の医療です。
 2010年2月に米Merck社、米Eli Lilly社、米Pfizer社の3社が資金と技術提供して非営利のAsian Cancer Research Group(ACRG)を設立すると発表しました。アジア人に頻発するがんの病理サンプルの収集とDNA解析・SNPs解析を行い、世界最大のファーマコゲノミクスデータベースを構築するとぶち上げました。当面は肺がんと胃がんに焦点を当てています。発表後、しばらくまったく情報が入らなかったので、どうやらうまく行っていないのではないかという憶測も飛んでおりましたが、Turner最高戦略責任者によれば順調にプログラムは進展し、明言は避けましたが、中国にACRGは基盤を置くことを決定した模様です。
 このがんに関するPGxのデータベースや解析拠点、そしてPGxの教育拠点も、中国に設置されるようになると、我が国に研究者もここを訪れなくてはならなくなる可能性が濃厚です。我が国が地の利と今までのサンプルを活かし、アジアのがんの研究拠点となる可能性が僅かに残されています。我が国のバイオベンチャー、ファーマコプロテオスコープがパラフィン切片からのプロテオーム解析を可能としたためです。これならDNAではないので、インフォームドコンセントなどの壁は存在しません。早急に我が国ががんのプロテオーム、ペプチドーム研究を進めることによって、発展する中国と共に成長する機会を掴むべきであると、北京で寒さに震えながら、確信しました。
 どうぞ皆さん、冷え込みそうなので風邪にご注意。今週もお元気で。