40歳の伊達選手と33歳のタスナガーンの対決となったHPジャパン女子オープンテニスは、第2セットを接戦で奪ったものの、第3セットで力尽き、優勝はなりませんでした。ここで優勝すれば、ビリージン・キング選手の記録を5カ月更新する、女子プロテニス・ツアー最年長優勝の栄誉に輝くはずでした。「最初で最後のチャンスだったかもしれない」と強気の伊達選手から初めてのぼやきを聞こえてきました。しかし、彼女のブログでは、相も変わらずの負けず嫌いぶりで、準優勝で満足の一行も無いのが伊達らしい。来期もきっと、更にパワーアップして、挑戦を続けるでしょう。
http://ameblo.jp/kimiko-date/
 本日は東京のJSTで、イノベーション創出若手研究人材養成の中間評価で、終日、会議会議の連続です。しかし、仕分けを生き残ったポスドク支援プログラムですので、正当な評価をし、大学院生やポスドクを使い捨てにしてきた我が国の大学院の在り方を変える力を形成しなくてはなりません。政府自らの政策調整の失敗を償う政策を、ポスドクの失業対策費用ではないか?といった歴史認識と倫理性を欠く、仕分け人からの非難で葬り去る訳には、決して行きません。ポスドクと大学院改革は粘り強く続けなくては、若手研究者ばかりか、創造的な研究者育成の欠乏により、我が国が知識資本主義で成長する可能性を閉ざすためです。
 さて、10月15日の朝日新聞の一面をご覧になりましたか?
http://www.asahi.com/health/news/TKY201010140469.html
 「東大医科学研究所が行っているすい臓がんに対するペプチドワクチンの臨床研究で、投与した患者に消化管出血が生じたことを、共同研究した他の医療機関の研究者に伝えていなかった」という報道です。メディア関係者はすわ鎌倉と、半ばいきり立って、同日の午後、東大医科学研究所が開催した記者会見に押し寄せましたが、「消化管出血はすい臓がんなど消化器がんでは頻発するもので、ワクチン投与とは無関係。朝日新聞の記事で名指しされた中村祐輔教授とは、この臨床研究の対象となったペプチドワクチン(VEGF受容体1)が直接関係なく、研究費の一部を提供しただけ。中村教授が展開しているペプチドワクチンの国内多施設共同臨床研究とは、今回の臨床研究は異なり、東大医科学研究所による単独の臨床研究であり、他施設に報告義務はない。昨年、和歌山医科大学でペプチドワクチンの投与例で消化管出血が報告されており、多施設共同臨床研究グループの研究会では発表され、情報は共有されていた」と完膚なきまで、新聞報道を否定され、朝日新聞以外の新聞各紙は夕刊で、淡々と事実を報道しただけで、事態は収まってしまいました。ネットで見ただけですが、朝日新聞も会見に触れた報道はまだなさそうです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/4303/
 しかし、一体どうやって取材すれば、こんなに両者の言い分が異なる記事を書けるのか。消化器がんではがんの増殖によって消化管出血はかなりの頻度で起こるという医学的な常識を欠いていた、あるいは裏付けの取材を怠ったということは明白ですが、強いバイアスを特定の取材対象から与えられたか、最初からある種の思い込みで取材を進めるという過ちを犯さなかったか、検証する必要があるでしょう。一面で報道した記事ですから、朝日新聞としてもこの報道の真否は再検討する必要があると思います。
 科学報道は本当に難しい。取り扱う対象自体が複雑で、しかも研究は常に現在進行形だからです。しかも、科学的な真実は常に論争から生まれますから、批判的な研究者群は常に存在します。加えて人間的な葛藤などがあれば、悪口ばかりを聞かされることすらあります。こうした科学研究がいつも半熟な状況にあるという事実と批判勢力が常に存在するという状況は、火事や犯罪などの結果が明確で、善悪二元論で比較的整理し易い(常に例外がありますが)事象とはまったく異なるためです。
 ノーベル賞のように、確定した評価、つまり科学の化石を称える報道以外は、大新聞は科学を報道することに適していないのかも知れません。現在の真実は、科学では真実に近い仮説に過ぎない。これを粘り強く継続的に報道することで、私たちは科学者がたどる真実への道に肉薄することがようやっとできると思っています。パンと記事を書いて、それで良しという報道は、科学者が犯した犯罪行為や科学研究制度の批判だけで機能します。しかし、それでも科学や科学研究のプロセスの理解を欠くと、奇妙な記事になってしまう。難しいものです。今回の報道で、科学報道を志す若手の記者の意欲を挫けさせるようなことだけはなって欲しくないと祈るのみです。
 皆さんは、どうぞ今週もお元気で。