まずは、恐縮ですが、宣伝から。
 残席僅かとなりました。是非ともこのセミナーは皆さんにご出席いただきたい。創薬や安全性研究がヒトの生物学に基づき、実施可能となった、そしてそれを実際の許認可にどう反映させていくのか?なんとか、このセミナーで道筋を明らかにしたいと希望しております。そのためには、幅広い専門家である皆さんの参画が必要です。
 9月14日に開催するBTJプロフェッショナルセミナーでは、in vitro useですが、ヒトES細胞/ヒトiPS細胞の標準化も問題も議論いたしいます。12月21日午後にはヒトES細胞/ヒトiPS細胞のin vivo useのセミナーも企画しておりますので、時間確保願います。今や幹細胞の創薬や安全性研究への応用が、実用段階に到達しつつあり、の機会をとらえ、BTJプロフェッショナル・セミナーを開催いたします。
 今回はES細胞/iPS細胞のin vitroでの産業利用に関して、大学、企業、政府、そして規制当局からキーマンを集めて、白熱の討論をいたします。
 どうぞ下記より奮ってお申し込み願います。
 皆さんの参加と発言を、心から期待しています。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/100914/
 ここまで暑いと頭も惑乱状態になりますが、米国ではヒトES細胞研究が再び禁止される仮処分差し止め命令が出るなど、大混乱状態に陥っております。
 「明日から、連邦予算で購入した培地は使えない。別の研究費で購入した培地に交換してヒトES細胞の培養をしなくてはならない」と、米Children’s Hospital Bostonのthe stem cell transplantation program部長のG.Daley氏がNew York Timesにマスコミ受けするコメントを寄せています。同氏はヒトES細胞のリーディング研究者の一人で、iPS細胞でも山中教授を急追しています。但し、研究費(使い勝手は日本よりはるかにまし)の管理が明確な米国では、確かに現場ではこうした混乱が今生じているかも知れません。昨日現地時間午後3時から、NIH所長のF.Collins氏も緊急記者会見を開催しましたが、まだ、NIHでは文書を発表していません。
http://www.nytimes.com/2010/08/24/health/policy/24stem.html?_r=1
 敢えて米国ES細胞ショックと省略させていただきますが、事件の顛末は現在のところ以下の通りです。
 米Nightlight Christian Adoptionsなどのキリスト教保守派の団体や医師らが、2009年3月9日に連邦政府予算で新たに樹立したヒトES細胞研究を行うことを解禁したObama大統領の大統領令の無効を申し立てていました。
 2010年8月23日、提訴を受けた米国Washington DC連邦地方裁判所のRoyce C. Lamberth主任判事がその訴えを認め、大統領令の執行を差し止める仮処分を出したのが、騒動の発端です。米国政府は一方でまだ、連邦政府予算でヒト胚(勿論、体外受精などの余剰卵ですが)を破壊して、ヒトES細胞を新たに樹立することを認めていません。2001年にキリスト教保守派の支持を受けていたBush前大統領は、この時点までに樹立されていたヒトES細胞を使用した研究に連邦予算を投入することは認めました。Obama大統領はその制限を外したのですが、新たなヒトES細胞の樹立研究には連邦予算を投入できないという制約までは解除していませんでした。09年3月以降、樹立されたヒトES細胞株は、カリフォルニア州政府などヒトES細胞研究を支援する自治体や民間企業、慈善団体からの研究費が投入されています。
 今回の判決はこの矛盾を突きました。「一方でヒト胚を破壊する研究に連邦政府の予算支出を禁止しておきながら、一方で樹立するにはヒト胚を破壊しなくてはならない新たに樹立したヒトES細胞株を使用する研究を認めるのは、相互矛盾である」という訳です。
 三権分立が機能している米国はうらやましいとも言えますね。米国なら小沢さんと鳩山さんの問題は司法で明快な結論がもう出ているはずです。では、これから米国のヒトES細胞研究はどうなるのか?
 一番簡単な答えは、ヒト胚を破壊する研究も解禁(勿論、制約条件付きで)すれば、主任判事が差し止め請求を行った法的な根拠が雲散霧消します。
 但し、11月に中間選挙を控え、支持率急落に悩む、Obama大統領がみすみす、保守派の票を失うような手が打てるのか?微妙な状況です。ヒトES細胞研究者にとっては迷惑な話かも知れませんが、社会がヒトの存在に触れる技術革新を正しく受け入れるには、紆余曲折と手間暇をかけることが、避けられないと腹を括るべきです。結論を得るには尚、時間がかかります。米国のヒトES細胞研究には若干ブレーキがかかるでしょう。
 しかし、むしろ、判例として社会が合意した形で決定が行われ、継承される司法システムが、先端科学やバイオ研究でも機能していることが重要です。政権が代わっても、国民に係る基本問題をぐらぐらさせなくてすむためです。
 今回の米国ES細胞ショックで、もともと、宗教において原理主義の集団も抱える米国では、新聞、TVがこぞって大騒ぎしています。背景には、最近の経済窮迫によるObama大統領の支持率急落のうっ憤もこの騒ぎには込められているかもしれません。
 翻って日本はどうか?
 ここまで無策で、急激な円高とデフレに直面している最中に、民主党代表選挙を田舎の村長と同じレベルで展開している日本です。しかも、うっ憤を晴らそうにも、ヒトES細胞など科学的と宗教・倫理観の対立が利用されない(できない)。これは喜んで良いのか?悲しんで良いのか?若干複雑な気持ちです。現実に、奇しくも今週の月曜日、ヒトES細胞とヒトiPS細胞の臨床研究の解禁が決まったばかりです。新聞などの扱いも極めて小さい。
 どうやら消費税や年金など、現世利益は政治の争点になりますが、科学や死生観は争点になり得ない。楽観的に考えれば、国論を二分するほど、これらの問題で意見が分かれていない。悲観的に考えれば、国民はこうした諸点を検討する機会もなく、気力もないのかも知れません。いずれにせよ、政府の審議会の倫理学者や官僚が懸念するほど、国論は割れていない(あるいは情報不足、判断力不足で割れるまでに至っていない)と思います。むしろ、政府の役割は今後、バイオや技術革新でそれぞれの国民が個人としてこうした問題に直面した時に判断できる力や情報を提供することが先であると、考えます。賢い国民こそが、バイオ研究の真のスポンサーなのですから。
 皆さんはいかが、お考えでしょうか?
 最後に、コンセンサスエンジンにアクセスなさいましたか?
 8月22日は弁護士も議論に参加、大腸がんの治療ガイドラインについて激論をたたかわせました。今回の議論は時間延長したほどです。
 公開は9月中旬。閲覧は医師限定ですが、どうぞ下記よりご登録願います。「コンセンサスエンジン消化器がん」というのが、現在開発中のメディアの正式名称です。
 どうぞご期待願います。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/
 暑さにもめげず、今週も世界は動いています。皆さん、お元気で。