型に嵌められたスポーツは大嫌いなので、姑息なスクイズなど、サインにがんじがらめされている高校野球を見ることはないのですが、今年は違いました。TVに釘付けです。打撃戦が多く、ファーストストライクからがんがん打っていくチームの活躍に吸いつけられました。興南、東海大、成田など、いやー素晴らしかった。高校野球は、ただでさえ生きていることだけで楽しい若者のスポーツです。辛気臭いカウント稼ぎやくだらない戦略などを排し、ただただ白球を打ちぬく、この精神こそと重要です。興南が凱旋した夜の那覇空港に4000人の市民が押しかけた気持ちも、この清々しさに打たれたためではないでしょうか?
 但し、春夏全国大会制覇に悪乗りした沖縄県庁が、スポーツで県の産業振興を来年打ちだそうとしていますが、これは単なる悪乗りであると私は思います。島袋投手という天才が去った後でも、沖縄が勝ち続けるためには、まだまだ知恵と地域スポーツのシステムを構築する努力をまずやらなくてはなりません。看板効果だけでは、2年も持たないでしょう。
 さて、バイオです。
 9月14日の民主党の代表選挙の結果とその後の推移次第では、政権や現在の政界の再編成が起こる可能性があり、誰もが固唾をのんで見守っております。バイオの世界でも、厚労省系の医療研究機関、ナショナルセンターの独立法人化と経営陣の入れ替えが、民主党政権を背景に進められています。その一番バッターは国立がん研究センター(旧国立がんセンター)。山形大学の医学部長嘉山氏を、理事長兼国立がん研究センター中央病院長に抜擢、理事を嘉山氏と同じ脳外科出身者で固める布陣を敷き、「がん難民救済」を旗頭に変革を進めつつあります。
 そして8月11日、今や我が国の抗がん剤の国際共同臨床試験の橋頭保となった観のある国立がん研究センター東病院の院長が突然降板させられました。外部から人材を登用するという噂も流れています。変化は何事も良いことであると、私は思いますが、変化を善用するためには、人材が必要です。今回の突然の人事の波紋は大きく、国立がん研究センター東病院から人材を遠ざける可能性があります。過去5年、我が国は政府を挙げてドラッグラグの問題に取り組み、なんとか国際共同治験に対等なパートナーとして初期臨床試験から参加できる人材や拠点形成が実現しつつあるところまで到達したところです。ここで彼らの士気を挫かないためにも、がん難民の最大の問題はドラッグラグであり、国立がん研究センターは総力を挙げて、この問題に今まで通り挑戦しつづけるというメッセージとそれを具現化する人事が必要であると、心から望んでおります。今、我が国のがん臨床研究は累卵の危うきにあると、心配しています。
 本日は実は頭を、ふり絞らなくてはならないことばかりです。
 夕方開催される厚生労働科学技術会議技術部会で、ヒト幹細胞臨床指針の改定案が正式決定される見込みです。これによって、ヒトES細胞とヒトiPS細胞を使った臨床研究にゴーサインが出ます。我が国にとって歴史的な日となると思います。
 米国では7月末に米Geron社がヒトES細胞由来のオリゴデンドロサイト前駆細胞を使った脊椎損傷治療のフェーズ?臨床試験が、2度の臨床試験差し止めを乗り越えて、臨床試験のゴーサインを米食品医薬品局から得たところです。片や細胞医薬品開発とステージは進んでおりますが、我が国でもやっと万能細胞の臨床研究が可能なインフラが整うことになります。ただし、ヒトES細胞の臨床研究に関しては、別途議論されているヒト胚の臨床利用に関する基準が定められるまでは、我が国では事実上禁止が維持されます。従って、我が国の注目はヒトiPS細胞の臨床研究に当面は絞られることになりました。
 本当は前回の技術部会でヒト幹細胞指針の改定案は承認されるはずでした。しかし、一部の委員から「他家移植は慎重に、まず自家細胞移植から臨床研究を認めるべき」という声が上がったために本日まで決定がずれ込みました。
 今までの細胞医療の常識では、この意見は至極常識的です。未知の病原体や遺伝子変異の影響を考えれば、最初の安全性確認の臨床試験は自分の細胞を使うべきであるという訳です。実際、今までの細胞医薬や再生医療の研究は、自己の細胞では治療が期待できない、骨髄移植や角膜移植などを除き、自分の細胞、つまり自家細胞を使って始まりました。間葉性幹細胞研究でも自家細胞が先行、現在、日本ケミカルリサーチが臨床試験中の他家の間葉系幹細胞(免疫抑止作用)が着手されました。
 しかし、ヒトiPS細胞にまず自家から安全性の確認という制約をかけるべきなのか?ヒトiPS細胞は当初の新聞報道などでは「免疫拒絶が起こらない自己の万能細胞ができる」と報道されました。私も書いた記憶がありますが、2007年11月の段階と今では研究が大きく進みました。その結果、ヒトiPS細胞はオーダーメイドで個人ごとに作成するよりは、HLAタイプを網羅したボランティアから樹立したヒトiPS細胞バンクを樹立した方が、治療を考えると得策であるという結論に、iPS細胞の専門家がまとまりつつあります。実は、実際に今回の改定案を作成するワーキンググループでも、再生医療の常識に拘る厚労省と猛烈な議論があったと漏れてきました。
 なぜヒトiPS細胞はバンクがより実用的なのか?
 第一は、いちいち個人ごとにヒトiPS細胞を作成していてはコストも膨大にかかり、しかも樹立までに時間がかかり、急性疾患である脊椎損傷などには対応できないこと。第二はヒトiPS細胞は同じ個人の皮膚由来の線維芽細胞から作成しても、多種多様なiPS細胞が樹立されてしまうという点です。皮膚細胞に分化した際にゲノムに起こったエピジェネティックスの変化を完全に現在の手法では初期化できないためです。消えのこったエピジェネティックスのパターンは千変万化で、一回に1000個程度樹立できるヒトiPS細胞で、最も安全で治療効果のある細胞を選抜することも大変な手間がかかります。
 そうであるならば、50人の異なるHLAホモのボランティアからヒトiPS細胞を樹立し、手間暇かけて安全で均一で、臨床効果も期待できる細胞を選抜しバンキングすべきだという主張です。現在のPCRなどの技術を持ってすれば、少なくとも既知の病原体の感染を検出、排除することも可能です。
 他家iPS細胞バンクか?自家iPS細胞か?
 この悩ましい選択は、安全性の担保に限って見れば、未知の病原体と免疫拒絶の懸念か?iPS細胞の多様性によるリスクか?のどちらを取るかの選択となります。本当のことを言えば、こればっかりはやって見ないと分からないと思っておりますが、少なくともこうしたリスクのバランスを考えなくてはならないという認識を持ち、まずは自家でないと駄目という歴史的頸木からガイドラインを解き放つべきであると思っております。どうなるかはもう4時間たってみなくてはなりませんが、技術革新に応じて新しい常識を今までの常識にどう盛り込んでいくか、大いなる議論を期待しています。
 さてもう一つご案内です、
 とうとうGE社が、ヒトES細胞の実用化に参入いたしました。幹細胞の創薬や安全性研究への応用が、実用段階に到達しつつあるのです。この機会をとらえ、BTJプロフェッショナル・セミナーを開催いたします。今回はES細胞/iPS細胞のin vitroでの産業利用に関して、大学、企業、政府、そして規制当局からキーマンを集めて、白熱の討論をいたします。どうぞ下記より奮ってお申し込み願います。皆さんの参加と発言を、心から期待しています。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/100914/
 残暑厳しき折、どうぞご自愛願います。