本日は珍しく東京の編集部に居ります。夕方の会食以外は原稿執筆と溜まったメールへの応答であっという間に時間がすり減っていきます。
 まずは宣伝を一つ。
 昨夜も名古屋で心筋再生に関する座談会に出席して参りましたが、再生医療はともかく、創薬や安全性研究にヒトES細胞やヒトiPS細胞が今や活躍する時代となって参りました。商業化、実用化の始まりです。
 ヒトの多分化能の細胞を駆使して、よりヒトに近いアッセイ系で医薬品化合物の薬効や安全性を評価することが現実となりました。また、2012年から欧州市場では動物愛護運動の結果、動物実験で安全性を検討した化粧品の販売が禁止されます。
 肝臓毒性で50%、皮膚では20%程度の安全性データしか、マウスからヒトに外挿できないことから、動物実験の意味が問い直されています。
 では、どこまでヒトES細胞やヒトiPS細胞が、そしてあるいはマウスの万能細胞を使いこなせば、よりヒトに外挿できるデータが取れるのか?そしてその限界は?
 内外の最先端の専門家を一堂に集めて議論いたします。我が国の企業の代表として、マウスES細胞やヒトiPS細胞の創薬支援研究で先行する武田薬品工業からも、講演をいただきます。
 恒例のパネルディスカッションには、万能細胞を使って得られたデータを吟味する医薬品医療機器総合機構や医薬食品研究所の専門家にも、ご参加いただき、実用化の関門とその対策を討議します。できるだけ具体的に、皆さんの疑問にもお答えしたいと思います。どうぞ奮ってご参加願います。詳細は下記をご参照の上、お早目にお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/100914
 さて、個の医療です。
 厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会、第二部会は、7月29日に、抗体医薬品2品目を希少疾病医薬品として指定しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/2771/
 見落としてしまいそうな地味な記事ですが、これはビッグファーマの偉大な戦略転換を示す記事なのです。今回、オーファンドラッグとして指定された「Iralis」(canakinumab)は、我が国で患者数30人の超希少病の治療薬です。スイスNovatis社が、昨年、米国で販売認可を得た、ヒト抗インターロイキン1β抗体であります。対象疾患であるクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)は、全世界でも患者数は300人に満たず、Novartis社は血迷ったのか?と当初は疑われたものです。
 現在、我が国でも19人の患者を対象にフェーズIII臨床試験が進行中で、来年にも認可が見込めます。
 しかし、何故、こんなにも市場の少ない医薬品をビッグファーマが開発するのか?勿論、アンメットニーズを満たすという人道的な大義名分はあります。しかし、開発費用や、まして製造コストの高い抗体医薬が、たった300人の市場で投資を回収できる訳はありません。
 それでも尚、Novartis社が挑戦している理由は、米国での臨床試験のデータベースwww.clincaltrial.gov で、canakinumabを検索して見れば、一目にして判明いたします。現在、24種類の臨床試験が登録されており、痛風からI型、II型糖尿病、遺伝性周期性発熱症候群、若年性特発性関節炎、そして動脈硬化まで、適応拡大の臨床試験を展開しています。COPDで現在フェースIという報道もあります。
 結局、Novartis社はインターロイキン1β過剰症候群という疾病概念を打ち立てて、「Iralis」をブロックバスターに育てる戦略をとっているのです。希少病薬として、商品化を先行したのは、「Iralis」の効能を最も迅速に証明できるからでありました。実際、CAPsの患者はほぼ全例で治療効果を示しています。希少病でPOCと安全性を確認し、よりありふれた疾患群の中から、インターロイキン1βをバイオマーカーとして、対象のサブ患者群を選抜する戦略です。
 まさに、「Iralis」は、第二世代の個の医療の開発戦略を明示する商品なのです。
 これが当たれば、個の医療は市場が小さくなるからバカバカしいという、製薬企業の視野狭窄を治療することもできるでしょう。是非とも注目願います。
 さて、コンセンサスエンジンにアクセスなさいましたか?
 当面は医師限定ですが、7月21日からこのバーチャルな議論を公開します。公開後1週間は質問も受け付けておりますので、医師の方はどうぞ下記よりご登録願います。「コンセンサスエンジン消化器がん」というのが、現在開発中のメディアの正式名称です。
https://bioce.nikkeibp.co.jp/consensusengine/
 今週も世界は動いています。皆さん、お元気で。