6月11日のセミナーには、個の医療の読者も多数ご来場いただきました。ありがとうございます。来年も、個の医療の新しいインフラとなる次世代シーケンスのセミナーを開催いたしますので、会場で再びお目にかかることを楽しみにしております。
 ワールドカップで寝不足なのは、きっと私だけではないはず。カメルーン戦の勝利で我が国のサッカー人気もVの字回復です。但し、このままでは、これもオランダ戦まで。超一流のチームとどうやって引き分けに持ち込むかが勝負です。前監督のトルシェは「オランダ戦は捨てる」と明言しています。今度こそ、僥倖ではなく、監督の才覚が問われます。
 個の医療でも、監督の才覚が問われます。
 米Obama大統領の保健医療改革がじわじわと進展しています。我が国では、私のメールでもそうですが、国民全体に保険医療を供給する改革であることを強調して伝えられていますが、どうやらそれだけではなさそうです。
 Obama大統領は、従来の治療行為をカバーする保険医療から、予防と治療を融合させた医療を国民に提供するという、大転換を図っていることが明確になってきました。しかも、予防医療に関しても、個別化することが前提です。つまり、個の医療から、個の医療と予防に、大きく舵を切ったのです。
 ホワイトハウスのホームページで、今回の保健医療改革に関するQ&Aを今朝読んでいたら、何とMedicareでは2011年から個人毎の予防医療サービスは無料で受けられるようになると書いて有るじゃないですか。但し、充分に予防医療の恩恵が確かめられているサービスに限定してありました。
http://www.whitehouse.gov/health-care-meeting/questions/medicare-6
 Medicareは、連邦政府が支出する高齢者と障害者向けの公的医療保険です。今回の保険医療改革では、減税を通じて、国民に民間健康保険に入ることを勧奨しています。また、中小企業向けの民間健康保険の支援・拡充などにより、国民皆保険制度を目指しています。この中に、当然、医療だけでなく、個別の予防医療も含まれることになります。
 予防医療サービスを国民に提供することによって、より健康で質の高い生活を国民に享受してもらおうという明確な意図が感じられます。しかも、ひょっとしたら、予防医療によって国民医療費の増額に歯止めをかけることができるかも知れないという期待もあるのです。
 但し、本当に予防医療が国民医療費の減額につながるかは、まだ充分な証明が成されていません。一説には、保健医療支払いのタイミングを遅らせるだけで、その個人が生涯で利用する医療費の総額は変わらないという医療経済学者も居ます。ただ、この根拠となった予防医療がまだまだ今後改善できることは確実であることと、医療費の過半を占める終末期医療に関して現在のとにかく生存させるというスパゲッティ症候群に対する反省が新しい社会合意を生むだろうという期待を合わせると、私は予防医療は我が国の高齢者の10%から15%に該当する、循環器疾患やがんなどによ要介護対象者を減少させ、ぴんぴんころりを実現する有力な手段となり、ひいては我が国財務当局の悪夢にすらなっている医療費倒産を我が国が防ぐと考えています。もし仮に医療費が変わらなくても、国民の幸福度は、生活習慣病を抑止できるだけで相当向上することは間違いないと思っています。
 6月3日、全米研究製薬工業協会は「予防医療 ~投資としての医療~」というセミナーを、東京で開催しました。来日したDr. Kenneth E. Thorpe(Partnership to Fight Chronic Disease エグゼクティブ・ディレクター、米Emory大学医療政策・マネージメント学部長)も「今や米国では予防医療と治療医療を包括的に提供する、パラダイムシフトが起こっている」と指摘しました。
 また、毎年全国から医療のキーマンを招聘して3日間缶詰にして医療政策を議論する医療セクター会議(これが米国共和党のロビーストの主催)が、先週の週末に箱根で開催されましたが、そのテーマも「予防医療」でした。
 我が国では、まだ予防は健康保険でカバーされないと門切り型で議論している厚労省関係者や政治家が多いですが、世界の医療変革をリードする米国とはまったく隔絶した石頭の議論です。
 これが世界で最も高速で老齢化する日本の官僚、学者、企業、そして政治家であるということに、今更がっかりしてもしょうがないので、早急に予防医療を健康保険でカバーするように、世論を高めなくてはなりません。
 米国など感染症のワクチンはほとんどが公費負担で無料接種しています。接種していない児童は学校にも入学できない徹底ぶりです。定期接種とそうでない任意接種など、くだらない区別は止めて、公費で接種を行うべきです。勿論、公費接種ですから、ワクチンには避けられない極めて希な副作用被害に関しても、無過失責任を充実させなくてはなりません。その意味でも、小児の感染症ワクチンの定期接種化と老人の肺炎双球菌とインフルエンザ菌のワクチンの公費負担は、火急的速やかに政治決断すべきだと思います。
 また、今後極めて重要となる生活習慣病の予防に関しても、まだ国際的に認められていないメタボ健診を再検討する必要があると思います。まずは科学的に充分根拠が認められている予防医療から普及させるべきです。日本人のデータが無いというなら、限定された地区を対象にコホートを行い、現在もっとも科学的に予防効果があるという手法を、どんどん検証して取り入れていく仕組みを作らなくてはなりません。ある特定の意図をもって予防医療の効果を検証するコホートが必要です。ただ漠然と1万人とか10万人集めたゲノムコホートでは、まったく役に立ちません。我が国の総合科学会議が提案しているゲノムコホートを本当に、国民の健康に役立て、健康保険でカバーする予防医療サービスを選別するために活用できるように、議論を煮詰める必要があると、思っております。
 米国は国民の病気に対する攻撃も防御も共に国家が行う戦術に変更しました。日本が病気に対する攻撃だけに専念し、防御を無視したら、国際的な次世代の医療サービスの戦いで、とてもではないですが、勝ち抜ける訳はないでしょう。
 参議院選挙後、菅内閣が医療の産業化を強く打ち出すことは間違いありません。その際、是非とも治療と予防を総合化して国民に提供するというビジョンを提示していただきたいと、心から祈っております。
 今週もお元気で。