現在、三重から京都に移動中ですが、ここでも日本は水浸しですね。早苗が明るい太陽を浴びてすくすく育っております。この風景は日本に住む者にとって、ほっとするものです。連作障害も発生しない田んぼという農業システムは、まったく凄いの一言です。でも、こうした毎年同じことをしていれば、食うに足りるという経験は、私たちの精神に巣食う技術革新への恐れと怠慢を生む基盤かも知れません。早苗の姿を見ると、変化に対応できない日本の社会の欠陥に思い当たります。
 欧米と中国(遊牧民の影響を強く受けています)と競合するためには、米作が生む社会の安定と、技術革新を可能とする改革という二律背反を同時に実現する離れ業を行わざるを得ないのです。厳しいですが、また知恵の絞りどころでもあります。
 変化への対応で、次世代シーケンスほど面白い課題はありません。半導体のムーアの法則以上の性能向上速度が、次々と新しい応用や発見を導いています。バイオに身を置くあなたなら、この技術革新の行く末を把握して手を打つ必要が誰にでもあると考えています。
 6月11日午後、東京品川で恒例の次世代シーケンサーのシンポジウムを開催いたします。今回は年末から来年にかけて実用化する第3世代シーケンサーの情報が開示されることが注目です。この技術革新は、一体バイオや生命科学、そして医薬やホワイトバイオ産業をどう変えるのか?オピニオンリーダーや皆さんと議論をすることを楽しみにしております。
 残席わずかとなりました、どうぞ下記より詳細にアクセスの上、お申し込みをお急ぎ願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/100611/
 さて個の医療です。
 米国人類遺伝学会が、2010年5月13日に遺伝子解析による家系検査の普及に警鐘をならしました。検査自体の意味は認めていますが、精度管理や解釈などに対してガイドラインを早急に作るべきだと声明しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2007/1037/
 日本では想像もできませんが、移民国家の米国ではベストセラー小説「ルーツ」のごとく、自分のアイデンティティを知る市場が存在しています。本当かどうか、確証を持てないのですが、米国人類遺伝学会の発表では、全世界に遺伝子解析による家系検査を40社以上が事業展開しており、50万人以上が家系分析を依頼している現実があるようです。
 問題は、家系検査の精度管理の方法が確立していないこと、またデータから家系を割り出す手法に関しても必ずしも確定していないことです。この他、データベースかした場合の取り扱いなどに関しても、合意形成がなされていないという指摘です。米国人類遺伝学会では公開の討論会を行い、市民、検査企業、遺伝学者など関係者が一堂に会して、議論すべきであると提言しています。
 家系に強い関心を持つ韓国では、政府が家系遺伝子検査を禁止する法律まで成立させています。誰でも自分のルーツには関心があるのは当然でしょう。しかし、検査結果の精度が管理されていない状況で誤った結果が流布される可能性があること、加えて、ルーツ探しが社会的な無知によって差別に転化する可能性もあること、などを考えると、遺伝学的な解析による家系分析には一定のルール化と絶えざる正しい情報提供が不可欠であると、私も考えます。日本ではまだ、肥満遺伝子などほとんど冗談のような遺伝検査が主流であるため、まだ座興に過ぎないと米国食品医薬品局と同じ態度を取ることができますが、家系検査が実用化すれば、無知による社会の分裂を招く可能性があります。早急に妥当なルールを社会に定着させる必要があるのではないでしょうか?
 日本人類遺伝学会など関係者のご奮闘を期待したいたします。
 皆さん、今週もどうぞお元気で。