昨日まで、岡山で開催されていた日本薬学会の取材に行って参りました。
 多数のランチョンセミナーなど、かつて取材した薬学会とはがらりと変わった活況を呈していました。日本の薬学研究にも再び熱気が戻ってきたのかもしれません。
 本日は手短に失礼いたしますが、個の医療です。
 薬学会で面白かったのは、今や新薬開発の前臨床試験の主役にならんとしている霊長類のゲノムやトランスクリプトーム解析が進んでおり、ヒトに近い霊長類での実験結果がどこまでヒトに外挿できるか、分子レベルで解釈が可能になりつつあることです。
 皮肉なことに、ゲノム解析の結果、フィリピンとインドネシアで繁殖しているアカゲザルが遺伝的に違うことなども分かってきました。サルの出身地が毒性試験や投与量決定のために、改めて重要であったのです。今までアカゲクイザルといった名前で得られた前臨床試験のデータも、こうした違いを頭に入れて理解しなくてはなりません。
 実は、サルにも遺伝的な個体差があることも分かって参りました。ヒトとアカゲザルの遺伝的な距離は5-7%の差ですが、アカゲザルの個体差は非常に大きく、同一地域の群れでもヒトの個体差の4から5倍も多様性があります。勿論、薬剤代謝酵素であるチトクロームにも個体差が確認されました。
 そうするとヒトに近いからといってアカゲザルのデータを活用した場合に混乱が生じる可能性があります。
 このアカゲザルは一体、どのヒトに近いのか?
 サルにも個の医療が必要となります。なにやら複雑さが2乗になる嫌な予感です。この複雑さを整理するためには、個体数を増やさなくてはなりませんが、貴重な資源である霊長類を多数犠牲とすることは、避けるべきですし、悩みはどんどん深くなるばかり。多分、実験に使用するアカゲザルのゲノムシーケンスを行って、この個体はどういうような遺伝的な背景を持っているということを、確認しながら、一頭一頭大切に、実験とデータ解釈をしなくてはならないということです。
 ヒトもサルも個を尊重しなくてはなりません。
 どうぞ皆さん、お元気で。