今、大井川を渡ったところです。昨日の雪から一転、快晴の東海道を西に進んでいます。本日の目的地は敦賀。そこで最新の抗体医薬製造医薬の技術突破の取材です。しかし、日本三大松原が敦賀にあるとは知りませんでした。静岡県静岡市の三保の松原、佐賀県唐津市の虹の松原と肩を並べる気比の松原が福井県敦賀市に存在しています。何とか時間をやりくりして、一目見ることができれば、日本三大松原を制覇したことになります。全日本空港制覇とか無駄なことを目標に精進もしていますが、昨今の自治体の空港新設ブームのおかげで、この目標達成は遠のくばかり。どうやったら茨城空港や静岡空港にたどり着けるのか?赤字を負担する県民の皆さんと共に、溜息ばかりついております。
 さて、個の医療です。
 まずは来週火曜日から東京で開催されるイスラエル大使館主催の「バイオ・メディカルテクノロジー コンファレンス」のお知らせです。3月11日までが申し込み締切ですが、これは見落とせないセミナーです。
 実はイスラエルは建国の父が、アセトンブタノール発酵の研究者であったほどで、実はバイオテクノロジーの技術蓄積があります。また、医療技術も想像以上に進んでいます。しかもイスラエルは国内市場が小さいため、どうじても海外市場を開拓せざるをえません。今年、イスラエル政府が力を入れるのが、バイオメディカル技術を日本の企業と提携して開発をスピードアップしたり、製品化を加速することです。伸び盛りのバイオベンチャー企業と巡りあうチャンスでもあります
 開催日時:2010年3月16日(火12:30-17:00
 会場:ヒルトン東京(東京都新宿区) 大和の間
 参加料は無料ですが、事前予約が必要です。
 E-Mailで、コンファレンス参加希望と記入し郵便番号、ご住所、ご氏名、会社名、 電話番号、
 メールアドレスをtokyo@israeltrade.gov.ilまで、3月11日中にご送信ください。
 どうぞ隠れたバイオ大国、イスラエルのバイオに触れてみて下さい。
 さて、エーザイがいよいよ、アルツハイマー病の治療薬として抗アミロイドβ(Aβ)抗体、BAN2401の臨床開発を始めます。現在、米Pfizer社・アイルランドElan社・米J&J社と米Eli Lilly社がそれぞれ先行し、フェーズ3臨床試験に入っていますが、エーザイは何故か、自信満々です。
 BAN2401は先行する2つのグループが開発した抗Aβ抗体と一味違うためです。現在までの臨床試験で、抗Aβ抗体やAβワクチンは確かにアルツハイマー病患者さんの脳内に蓄積し老人斑を形成するAβを引き抜き、脳内の蓄積を減少したり、時には完全に消滅させることができることは分かって来ました。しかし、Aβの脳内の蓄積量の減少と、患者さんの認知能力の改善、つまり老人性痴呆の改善は必ずしもリンクしていないという問題も浮き彫りにしました。しかも、血管にも沈着するAβを抗体が認識するため、脳血管出血や血管炎という副作用もあることも明確になってきたのです。いわばアルツハイマー病の原因として提唱されたβアミロイド仮説の行き詰まりともいえるでしょう。
 しかし、奇妙なことに米Genentech社・中外製薬、そしてエーザイも昨年から今年にかけて、新たな抗Aβ抗体の臨床試験を着手しました。これが何故なのか、頭を悩ませておりましたが、エーザイの取材をして見て氷解しました。
 先行した2グループの抗Aβ抗体はAβの凝集した分子を抗原として開発された抗体です。そのため、現在、アルツハイマー病の神経毒性の原因と目されるようになった可溶性のオリゴAβ分子、エーザイはAβプロフィブリルと呼んでいますが、には結合しない欠点があります。これでは神経毒性を中和することができず、血管炎ばかりを生じる可能性があります。
 エーザイはスウェーデンのベンチャー企業、BioArctic Neuroscience社と共同研究し、プロフィブリルに特異的な抗Aβ抗体の開発に成功しました。安全性と治療効果を増強した第2世代の抗Aβ抗体ともいうべき分子です。Genentech社・中外製薬の抗Aβ抗体の抗原は確認していませんが、抗体医薬の日米の巨人がタッグを組んで開発した抗Aβ抗体ですから、当然、第2世代であろうと推察しています。
http://www.bioarctic.com/index.asp
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9318/
その他のエーザイ関連記事(これも面白い)
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9336/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9317/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9316/
 臨床試験の挫折を乗り越えた第2世代の抗Aβ抗体の開発が成功するかどうか?
 その鍵を握るのは、バイオマーカーでした。エーザイの第2世代の抗Aβ抗体の商品化は2015年が現実的な数字です。それまで皆さんも耐えなくてはなりません。しかし、エーザイの内藤社長は「あくまでも2013年以降としか承知していない」と、臨床開発の前倒しを叱咤激励しています。
 そのためには、問診だけに依存している現在のアルツハイマー病の診断方法を、病態を明確に示すバイオマーカーに置き換える必要があるのです。エーザイは、我が国の製薬企業でプロテオーム研究を取り入れたパイオニアである小田氏を、アルツハイマー病のバイオマーカー研究の総責任者に指名、米国の東海岸に研究拠点を昨年7月から設け、猛烈な勢いで探索を始めています。2010年11月に米国でコリン仮説に基ずいて開発した同社の売上No1医薬であるアリセプトの特許が満了します。これを受けて1000億円以上の売り上げ減が見込まれます。同社からは、アルツハイマー病の病態マーカーを開発し、フェーズ3臨床試験に入ってから2-3年は最低でも臨床評価に必要なアルツハイマー病治療薬の開発期間をなんとしても短縮したいという強い危機感を感じます。
 エーザイはAβの生成を抑止するβとγセクレターゼの修飾剤や阻害剤の臨床開発も進めています。個の医療を支えるバイオマーカー研究が、エーザイの危機を、複数の作用機構を持つβアミロイド仮説の新薬を3種も市場に送り込めるという勝機に転換できる可能性もあるのです。
 いずれにせよ、今後の精神神経疾患の新薬開発のためには、問診ではなく、バイオマーカーによる病態把握は不可欠です。これによって誤診の防止や早期発見にも繋がると大きく期待しています。
 関ヶ原にももう雪は残っていません。昨夜の雪が冬の終わりかもしれません。
 今週も皆さん、お元気で。