日本のJリーグは開幕したばかりです(大宮、勝って本当に良かった)が、欧州のリーグは終盤戦を迎え、ヒートアップしております。特に、プレミアリーグとリーガエスパニョーラでは上位チームがまさに、首の皮一枚差で競う大盛りあがりです。こんな緊迫した名勝負がほぼ毎週見られるなら、サッカー場が満杯になるのも無理はありません。日本も地元の応援に加えて、少なくとも上位3チームは、アジアカップを制覇する位の実力を備えていただき、サッカー好きの非地元ファンを吸引することを実現してもらいたいと熱望しております。
 さて、バイオです。
 まずはエーザイ関連の記事を4本も先週から今週にかけて書いてしまいました。エーザイは「研究開発は当社はもうやらない。プロダクト・クリエーションを目指す」と09年7年に総ての組織を、疾患・製品別や機能別に細分化したベンチャーへと改編いたしました。同社が米Morphotek社を買収し、そのスピードと機能的な組織運営、そして従業員が生き生きと働いていることに、目から鱗を落とし同社の内藤晴夫社長の決断です。まだ半年ですが、一斉に芽吹いた雰囲気を感じました。とかく停滞している我が国の大手製薬企業の中では注目すべき存在です。しかも、買収で借金が膨らんだためもあるでしょうが、企業価値を社長自らが説明しようという強い意欲を感じられたことも好感しました。
 何かが変わりそうな気がします。どうぞ下記の記事をご覧願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9336/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9318/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9317/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/9316/
 さて、どんなことにも見落としというものがあるものです。
 今朝、科学技術振興機構(JST)で、イノベーション創出若手人材養成プログラムの審査の打ち合わせをしておりました。その折りに耳にしましたが、昨年12月30日に発表した経済成長戦略の中で、2020年までに大学院卒業者は全員が就職できるようにすると公約していたのです。これにはびっくり。
 慌てて調べてみましたが、確かに27頁目に下記のような記述がありました。
http://www.dpj.or.jp/news/files/1230sinseichousenryaku.pdf
 「これらの取組を総合的に実施することにより、2020 年までに、世界をリードするグリーン・イノベーション(環境エネルギー分野革新)やライフ・イノベーション(医療・介護分野革新)等を推進し、独自の分野で世界トップに立つ大学・研究機関の数を増やすとともに、理工系博士課程修了者の完全雇用を達成することを目指す」(経済成長戦略より抜粋)
 いやー完全雇用とは凄い約束です。今は博士課程卒業者の就職率が60数%ですから、これを完全雇用に持って行くには大変な努力や、大幅な発想の転換が不可避となります。本当にこんなに気軽に約束してしまって良い物なのか?しかし、これぐらい打ち出さないと、今急速に低落している大学院の博士課程の定員充足率を上昇させることは出来ないと、私は思います。新政権は一度約束した以上、この無茶な約束を果たしていただかなくてはなりません。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/pdf/btjjn0809.pdf
 昨年11月の事業仕分けで、大学や独立法人の科学研究費支援に関しては塩辛い評価をいただきました。「ポスドクや大学院生の生活支援じゃないか」といった、無理解と国際的な状況を知らない心ない発言も目立ち、若手研究者の意欲失墜につながりました。スウェーデンは大学院生に給料を支給していますし、欧米各国は奨学金やローンが充実しており、大学院生は親のすねを囓ったり、バイトに汲々とせずに、プロの研究者として成長することが出来ます。こうした制度があって初めて、知識資本主義で我が国が勝ち抜くための人材を養成できます。少なくとも大学院生にはもっと奨学金(貸与なんてけちなことを言わず)を増額すべきだと思います。但し、これと一緒に実施しなくてはいけないのは、大学の教官の教育評価です。奨学金だけ増額しては、結局、教授のテーマの下働きだけさせる人材供給に終わってしまいます。研究に加えて、人材育成をきっちり評価しなくてはなりません。
 「ただでさえ忙しいのにそんなことは無理」という声も聞こえますが、外部から見れば大学の事務処理や会議はまったく時代遅れで、企業が既に行った事務や管理作業の効率化に完全に出遅れています。文科省の天下りの受入数を保つためだとは思いたくありませんが、この非効率を改善する努力も、もう独立法人になったのですから、大学は自ら行うべきであります。先行する慶応義塾大学や立命館大学にアウトソーソングするということも可能でしょう。こうした努力により、学長よりも事務長の方が広い部屋を占拠しているという、腐敗した時代錯誤の組織を正すこともできるでしょう。
 今回の仕分けの背景には、どうもまだ科学研究をダーウィンの時代のように、趣味だと見なしている輩が多すぎることがあります。優秀な科学者こそが、国の成長エンジンです。どうやら近く、新政権には、科学・技術と表記する動きがあります。明治以来、科学と技術をごっちゃにして施政してきたために、日本では工学部という製造業資本主義を支えた学部が、大学で大きな発言権を持ち、改良研究や実用化研究に走ったため、科学技術の進歩を主に米国に借りて、技術開発に大学が専念したため、国際競争力を欠く結果を招きました。中ポツを入れることで、科学と技術を分離して認識しようというものです。
 現在の本質的な技術革新は、科学的な真理の発見の側で起こる必要があります。真理の発見を外国に依存していては、コストとか、計測可能な能力とか、基本特許ではなく、利用特許をとれるだけ。これではバイオの世界を勝ち抜くことは不可能です。
 やはり本質的な真理の発見と技術革新を起こすためには、大学から改良研究を企業に移管し、企業のウォンツに基づく野心的なテーマの追求を大学が行わなくてはなりません。そのためには、今までの教育では無理、今までの教官でも無理かも知れません。世界レベルで戦っている企業と大学が交流をし、それぞれが技術革新を起こすための分業を真剣に議論しなくてはなりません。何しろ、我が国では国家は国全体の研究開発費の20%しか負担しておらず、残りの80%は企業が負担しています。研究費だけ見れば、企業が主、大学が従の関係なのです。科学的真理の発見から技術革新を誘導するためには、どうしても大学は企業と連携せざるを得ません。このまま、我が国の大学に我が国の企業た提供する2倍以上の研究費を海外の大学に提供するという”科学研究費の輸出超過”を続けるとますます大学は痩せ細るばかりです。
 しかも、2000年から08年度までの科学予算の伸びを指数で見ると、日本は109、米国は185、欧州は213、韓国は289、中国は436と大きな格差が生まれています。絶対額でももう中国に抜かれた可能性すらあるのです。
 企業でもできる産学研究から大学は足を洗い、企業が出来ない研究に集中、実用化を大手企業やベンチャーに委ねる本来の産学連携体制の再構築が今、必要となっているのです。
 そのためにも、プロジェクト管理と最先端研究を遂行できる人材の育成は、どうしても必要です。2020年までにあの手、この手で理系大学院生卒業生を完全雇用を目指すことは、けっして冗談事ではないと思います。
 予算が獲得できるという思惑もあり、文科省は実践型研究リーダー育成事業を2010年度の新規事業として開始します。イノベーション創出若手人材養成プログラムのに酷似しておりますが、?小平曰く「白い猫でも黒猫でも鼠を捕るのは良い猫だ」。両プログラムの有機的な連携を前提に、この際、野暮なことは言わないでおきましょう。
 とにかく、このメールの読者のような若手研究者が、目をきらきらさせて研究に取り組める日本のしなくてはなりません。
  今週もお元気で。