先週は土日無く、日本中を駆けめぐっていたため、なんだか編集部で久しぶりにまったりしております。中村選手が横浜マリノスに復帰したのは朗報です。スペインのリーガエスニョーラで夢破れた、中村選手がたぶん選手キャリアの後半を飾る舞台として、プライマリーから育成してもらった横浜マリノスを選んだのは正解です。
 この悔しさを、次の成長に結びつけて、ついでに浮き足立っている我が国のサッカー・ナショナルチームを、南アフリカで男にしていただきたい。
 さて、個の医療です。
 米子から深夜に寄託、くたくたになって今週の日曜日に東京六本木ミッドタウンで開催されたRare Disease Day 2010(世界稀少・難治性疾患の日)のイベントに参加しました。今回のイベントは稀少・難治性疾患をより多くの人々に知ってもらうことが目的で、世界中に同時に開催されています。日本だけでしょうが、稀少病という翻訳に重ねて難治性疾患という厚労省のネーミングが付け加えられています。稀少病や難治性疾患の患者さんを取り巻く状況は、各国の医療制度と社会状況に
よって大きく変わります。
http://www.rarediseaseday.jp/
 
 今回は厚労省の難治性疾患委員会の委員長もしていた、学術会議議長の金沢一郎氏など医療関係者に加え、ノーベルファーマ、アンジェスMG、そしてジェンザイムジャパンなどの稀少病疾患の治療薬を開発しているベンチャー企業、更に難治性疾患の患者団体が同じテーブルに着いて議論、相互に理解を深めるという試みです。
 午後2時30分までの2時間半の間に、テーブルを変えながら3セッションを議論を行いました。それだけ多くのステークスホールダー(関係者)と議論できるのです。
 一言で、勉強になりました。稀少病は重要だと報道したり、議論しながら、なかなか患者さんの声を聞くことができません。また、患者さんと医療関係者の対話を直接聞く機会も希です。
 いくつもの問題が指摘されましたが、第一は稀少・難治性疾患に対する社会的な差別の問題です。これは遺伝病に関する基本的な知識があれば、防げるものです。今回の議論で稀少病患者と私たちの間には何にも差がないことが画然としました。たまたま、遺伝子がホモに成らず、さらに発症を抑止したり、症状を軽減する遺伝子を持っているため、私たちが稀少病や難治性疾患で悩んでいないためです。自然発生的な突然変異も存在しますので、私の子孫や係累から稀少病や難病性疾患の患者が出るリスクから、私たちが完全から逃れることはできないのです。これが遺伝病の実態で私たちが社会を構成する以上、稀少病・難治性疾患患者とは常に共に生きて行かなくてはならないのです。
 こうした遺伝学(メンデル遺伝だけでなく、人類の多様性に関しても)や遺伝子病の基礎知識を初等中等教育でみっちり教えていかなくてはなりません。稀少病は希な問題ではなく、皆さんの問題、つまり一般的な問題でもあるのです。遺伝性のパーキンソン病と孤発性のパーキンソン病の最近の研究でも明らかですが、家族性疾患と一般の人々が罹患する孤発性の疾患では、共通の疾患遺伝子が存在しています。
 患者さんには叱られますが、稀少病や難治性疾患の疾患を治す努力は、患者さんが悩んでいる疾患を解決するだけでなく、私たちみんなが直面するCommon Diseasesの治療にも直結するのです。こうした新しい疾患概念を、国民が共有することで新しい稀少病・難病対策への合意が形成できると確信しています。
 スイスのビッグファーマ、Novartis社が、全世界で300人の患者がいるか、いないかの稀少病、Muckle-Wells症候群に対して、抗IL1抗体医薬「Ilaris」を開発、昨年6月に米国で販売認可を獲得しました。同社は社会正義のために開発をしただけでなく、リウマチ、COPD、自己免疫疾患など、IL1の過剰によって起こる疾患への適応拡大を狙っています。これらの疾患の適応拡大のためには、確かにIL1の過剰生産によって、この患者さんはCOPDになっているということを確かめる、個の医療は不可欠です。
 個の医療と稀少病・難治性疾患の治療薬開発は実は根は一つ。考えてみれば、どんどん個別化していけば、個の医療は稀少病疾患の治療そのものになります。今までのような安易なブロックバスターモデルでしか収益を上げられない大手製薬企業は、これでは生き残れません。Novarts社のような大胆なビジネスモデルの変更が生き残りに不可欠だと思います。
 本当に残念だったのが、今回のイベントには日本の大手製薬企業の参画や支援が無かったこと(日本製薬工業協会の協賛はありましたが、個別企業が具体的な行動を起こしていただきたい)。大手製薬企業の社員がボランティアで参加していましたが、社内で稀少病疾患の治療薬事業を立ち上げようとしても潰されると嘆いていました。
 もう一つ、重要なことは稀少病の医薬品の薬価をもっと上げて、ベンチャー企業が利益を得られるようにすることです。厚労省は国民健康保険が保険の事業と共済としての事業の二つを追求していることをまぜこぜにして、マネージメントしているために全員が不満を抱く愚策を重ねています。ここで明確にしなくてはならないのは、個人が負えないような大きなリスクは国民健康保険が保険業務として絶対負わなくては、国民の安心と安全を確保できないということです。ブロックバスターが市場としている生活習慣病の場合は、遺伝性や大きな環境リスクのある集団を除いて、これは個人がマネージメントできるリスクですし、食事や運動などライフスタイルを変えることで、みんなが幸せになるようにインセンティブを与えなくてはなりません。これを保険という概念ですべてカバーすることには反対です。
 稀少病・難治性疾患は他人の問題ではなく、自分の問題です。
 今回のRare Disease Dayのイベントが、自分の中でもやもやしていた考えに明確な形を与えてくれました。ありがとうございました。
 今週もお元気で。