現在、那覇に飛行中です。朝一番で沖縄のバイオベンチャー企業の審査をしなくてはなりません。資金不足で汲々としている日本のバイオベンチャーにとって、継続的に資金援助を行っている沖縄には足を向けて眠れない。罰が当たります。微妙な資金ですが、内閣府の沖縄振興の資金を、真の意味で沖縄の産業振興と雇用拡大につなげるためにも、バイオベンチャーは鍵を握っています。おまけに、那覇から東京までの距離内に台北、ソウル、上海が入る、北東アジアのハブとしての地政上の利点もあります。歴史的な経緯から保税ゾーンもあり、ここで生産したバイオ製品やその原料には関税がかかりません。
 明日でオリンピックは終了、パラリンピックが始まります。
 女子スケートのパーシュートは本当に惜しかった。しかし、1周で1秒以上追い上げたドイツの強さも認めなくてはなりません。出場機会のなかった天才少女高木美帆の「先輩はすごい。私は今メダルを取れなくてよかった。この思いを抱いて、ソチでメダルを目指す」というコメントも良かった。何よりも先輩の惜敗が、天才の心に火をつけました。橋本、岡崎という猛烈な練習の末に銅メダルを取った姿を間近に見た選手が、銀メダルの原動力となりました。こうした伝統の上に栄光が輝くことは間違いありません。ただ、伝統は常なる革新によって初めて維持できることを同時に忘れてはなりません。天才が発火したら、先輩は古い技法を押し付けるのではなく、大らかに支援する度量も必要です。
 高橋選手や短距離スケートで男子もメダルを取りましたが、上村選手、真央ちゃん、そして女子パーシュートと、バンクバーのオリンピックは女子選手の活躍が目立ちました。金がないのも当然だ。とくだらない生物学的冗談はともかく。皆さん、御苦労さまでした。ソチでは金を夢見ましょう。
 昨夜、インターネット上で消化器がんの専門医が議論し、あふれる情報を構造化し、今最も妥当であると考えられる治療方針をまとめる、「コンセンサスエンジン消化器がん」の第二回本番を行いました。奇しくも、キムヨナのエクスビションの再放送と重なってしまいましたが、日曜日の午後8時から2時間、300コメントを超過する書きこみの白熱の議論が展開されました。オキサリプラチンという日本発の大腸がんの新薬は本当に大腸がんの治療に不可欠なのか?日本では手術成績が良いという神話があり、副作用がある化学療法との併用を嫌う傾向があります。今回は外科と腫瘍内科のバリバリのオピニオンリーダーが、10人も全国からネット上に参加、我が国では必ずしも対話の機会が多くない、外科医と内科医が忌憚ない論争を行い、現状ではこうした治療法として利用すべきというコンセンサスを形成しました。議論は更に発展し、医師主導の臨床試験で、日本人でのエビデンスを形成しようということにまで盛り上がりました。
 思えば当然のことでありますが、コンセンサスが形成できれば、次は共有した問題点を解決する行動に繋がります。Beyond Consensus。ウェブ上で専門家を結集してタイムリーに、問題を整理し、現状での最善の策を提示するというコンセンサスエンジンの機能は、情報の整理に留まらない。現状を善導するエンジンにもなる可能性があります。この6月にも第二の抗体医薬、パニツマブが我が国でも発売され、バイオによる急速な技術革新が進む消化器がんの標準医療の定着を目指していますが、コンセンサスエンジンは技術革新がもっと急速に進むバイオテクノロジーでも有効です。近い将来、バイオのオピニオンリーダーによるコンセンサスエンジンも構想したいと思っています。
 コンセンサスエンジン大腸がんは現在のところ、医師限定でアクセスを許諾する計画です。近く公開いたしますので、お楽しみに。下記のリンクですが、今のところ中には入れません。また、一般市民や患者さん向けにもこの議論をなんとか公開する工夫を重ねています。当然、皆さんも医師と共に病気と闘う同志であります。専門的な議論をどうやれば誤解無く、スムースに皆さんにお伝えできるか?患者団体の方々のご参画をいただき、追求中です。もう暫く、お待ち願いたい。
 先週は土日なく働いておりました。
 日曜日には、国際希少疾患デイの催し物にお招きいただき、患者団体や医療関係者と議論させていただきました。学術会議議長で厚労省の難病委員会の委員長でもあった金沢さんも一緒に議論の輪に加わっていました。こうした機会はめったになく、とても勉強になりました。また、患者さんのお話から変な話ですが、生きる力をいただきました。勿論、ここでもBeyond Consensus。難病患者や難病の研究者が置かれている状況を打破しなくてはなりません。
 水曜日の個の医療メールで詳報いたします。まだ受信していない読者は下記より、早急にお申し込み願います。
 土曜日には、米子で「とっとりバイオフロンティア」の第一回シンポジウムに参加していました。大学当局もびっくりするほど、会場は満員の熱気に溢れ、主要バイオ支援企業や製薬企業が押しかけました。とっとりバイオフロンティアは、鳥取大学の押村教授の独走技術であるヒト人工染色体技術(HAC)を活用した産学連携活動を行う拠点であります。JSTの資金を獲得したものの、事業仕分けの影響で建物の費用が減額され、立ち往生していたところを知事の一声で4億円投入が決まり、2011年4月には建物も完成します。
 HACは協和発酵キリンの完全ヒト抗体の開発技術として既に商業化されています。100万塩基以上の大きなゲノムを細胞に導入でき、細胞質内で人工の染色体として安定に維持できるのが特徴です。HACを使えば、大きなゲノム断片上にある遺伝子クラスターを遺伝子組み換えできるのです。HACはヒト細胞ばかりでなく、広範な哺乳類細胞にも遺伝子導入可能であります。
 当面は既に完成しているチトクロームP450(CYP)3A4のゲノム断片を導入し、ヒト型のCYP3A4を肝臓で生産しているマウスやラットを、医薬品の毒性試験や代謝試験などの前臨床試験に利用することが、現実的なプログラムとなっています。CYP3A4は現在市販されている医薬品の過半を代謝する薬物代謝酵素です。このヒト型CYP3A4 マウスを活用できれば、薬物代謝のプロファイルや薬物の相互作用などを、ヒトの肝臓のミクロソームを使用しなくても推定できます。また、通常使用されているラットの肝臓のミクロソームなどで生じる、CYP3A4の活性がヒトと異なる種の壁も突破できそうです。鳥取大学が開発したHACマウスは、マウスのCYP3A4をノックアウトしており、ヒト型のCYP3A4だけが肝臓で生産されているのも重要な特徴です。既に大鵬製薬など数社が、ヒト型CYP3A4マウスが前臨床試験で使用できるか、評価研究を始めています。
 とっとりバイオフロンティアプログラムの成果が、医薬品や化粧品、化学物質、そして食品の安全性や機能評価に技術革新をもたらすことは間違いありません。
 勿論、まだ薬剤の受容体、トランスポーター、残りのCYPの導入などが必要ですが、HAC技術でこれを実現できることは見えています。将来はこれらのゲノムクラスターを導入したHACマウスの交配で、さまざまな薬剤代謝関連分子を持ったヒト型モデル動物が自在に育種、供給されるようになるでしょう。
 この他、押村教授はHACで京都大学の山中教授と共同でどうやらiPS細胞の樹立にも成功している模様、これが可能なら、共に細胞質で遺伝子発言し、ゲノムに挿入しない安全な樹立法として、センダイウイルス・ベクターの強力なライバルとなる可能性もあります。
 近く日経バイオテクの記事にしますので、乞うご期待です。とっとりバイオフロンティアは参加・支援企業を募っております。是非ともHACを活用した斬新なアイデアを鳥取大学までご連絡願います。米子にはカニも皆生温泉もあることを、末尾ながら添えさせていただきます。
 東京より、バイオの技術突破には好適な環境かも知れません。
 今週も、どうぞお元気で。