まったく上村選手は残念でした。メダルまであと一歩の4位。上位選手が4人残っている段階で2位でしたが、2人の選手が相次いで転倒、思わず「もう一人」と邪な考えで応援してしまいましたが、運命は味方しませんでした。涙が、心に刺ります。しかし、今季は不調だった上村選手。自慢のスピードが出ずタイム点で及ばず、後塵を拝しました。「なんでこんな一段一段なんだろう。..滑りには満足しているが、ちょっぴり悔しい」という泣き笑いのコメントには上村選手の今までの努力が凝縮されていました。身体的劣勢を補うカービングターンという革新技術を完成披露するのが1年間早かったのかも知れません。しかし、頂を極めたことは間違いなく、オリンピックで結実しなかったからといって上村選手の先駆的業績の価値は寸毫も低められることはないと思います。
 言葉はつくづく無力です。ただただ御苦労さま、ありがとうございました。
 これと対照だったのが、サッカー日本代表です。語るのもオゾマシイ。日韓戦は完敗でした。個々の選手の力がアジアで頭抜けているなでしこジャパンの爪の垢でも煎じて飲んで欲しいと思います。サッカーは格闘技です。組織で個人の非力を補うという幻想からそろそろ覚めなくてはなりません。まるで国際経済でどんどん没落していく日本の企業のようなサッカーでは勝てません。日本のジュニアの指導者も、自分の小手先のサッカー理論を棄てて、個人を伸びやかに育てることに徹しなくてはなりません。あの程度の服装の乱れで、入村式や開会式の参加を自粛させた日本のオリンピック選手団の幹部達も猛省すべきです。オリンピックは軍事訓練でも神事でもない。もうコマーシャリズムにどっぷり漬かったスポーツなのであります。古臭い頭で型に嵌めて勝てる時代ではもうありません。選手のモチベーションを上げるプロの指導者がどうしても必要ですね。サッカーの岡田監督の交代も勿論、議論しなくてはなりません。
 さてバイオです。
 バイオでも若手研究者が伸び伸びとその才能を発揮する環境が重要です。
 先週、大阪で開催したバイオビジネスコンペJAPANの二次審査の発表会で、本選に進出する3件を絞り込みました。いずれも質の高い研究でしたが、中でも出色だったのが、大阪バイオサイエンス研究所の若手夫婦?(苗字が同じという根拠だけで、確かめていません)のビジネスプランの発表でした。
 2次審査は口頭発表で審査を行いますが、この段階では書類審査ではうかがえない研究者個人のパーソナリティやプレゼン力、そして研究テーマやビジネスモデルに対する情熱を感じることができます。毎年恒例ですが、書類審査とは順位が激変するのです。
 今回、大阪バイオサイエンス研究所のチームは、ノックアウトマウスを使って、神経ネットワークを一部欠損させたモデル動物を作成し、先天的な情動と後天的に学習で覚えた情動を区別することに成功しました。このマウスを使って、嗅覚と情動の関係を学問的には解明している最先端の研究を行っています。
 彼らが思いついたビジネスモデルが傑作なのは、このマウスを使って先天的に刷り込まれている情動システムに働きかける商品をスクリーニングしようという点です。プレゼンで初めて知りましたが、米国では100%狼の尿が、鹿などの食害を防ぐために販売されています。肉食動物の匂いが、食物連鎖の下位にいる動物に恐怖心を植え付け、その匂いがついている場所には寄り付かないためです。実はこの商品の説明書には、断りなく彼らの研究成果が引用されていました。
 彼らはモデルマウスを使って、化学物質をスクリーニング、より強力な人工物質を突き止めました。これを使えば、鹿やウサギなどの食害による損失を間違いなく防止することが可能でしょう。「自宅の庭に侵入するイノシシは防げないのか?」という審査員の個人的な悩みはともかく、ここまでは審査員全員が納得するビジネスモデルでした。
 これ以外に、異性を引き付ける化粧品や食欲をそそる食品の開発などにも展開するというのが、彼らのビジネスモデルでしたが、これに関しては「マウスとヒトは同じか?」というどうどう巡りの議論で大いに紛糾しました。
 科学研究の質の高さもさることながら、審査員が満場一致で本選に進めようと思ったのは、ディグニティとユーモアに満ちたプレゼンにやられてしまったのではないかと、考えています。年寄りの多い審査員が未来を託したくなるような才能の煌めきと押しの強さを備えていました。「こういう奴らに勝手にどんどんバイオ産業を拡大して欲しい」という願いです。
 いずれにせよ、こんなにクレージーなアイデアを議論できる場である、大阪バイオサイエンス研究所は素晴らしい。少なくとも、橋本聖子バンクーバーオリンピック日本選手団長のような型に嵌めようという保守派は息を潜めているといってよいでしょう。他の研究所や大学ももっと自由でしかも大人の判断もできる若手研究者を育成する環境を整えるべきです。まずは皆さんが、研究を楽しむこと、自由な発想を許容する度量を身につけることです。彼らみたいな若手研究者を30人育てれば、日本のバイオは変わります。
 バイオビジネスコンペJAPANの本選会は、3月11日。最終審査会の委員の平均年齢は更に10歳ほど上がります。他の2件も極めて面白く、鍔迫り合いです。結果はまた改めて、ご報告いたしますが、どうぞご注目願います。
 どうぞお元気で。