今週も大阪に滞在しています。昨日は神戸市で先端医療センターの次の5カ年計画策定の取材をしておりましたが、今年12月から実施される公益法人制度改革が大きく我が国の研究法人を揺るがしていました。神戸市の先端医療財団や癌研究会など、バイオ関連の研究所を所有している財団法人や社団法人が新制度の下に、公益性の仕分けを受けることになります。病院収入などは収益事業として認定される場合があり、従来のように病院収入を柱として、研究所の運営などが難しくなります。単純に医療収入だから収益事業という仕分けでは、先端医療の臨床開発のプラットフォームが形成できなくなる可能性があるのです。
 確かに今まで不明瞭な社団法人や財団法人が存在し、公益性もないのに、免税の特典を享受していた不幸な歴史を、整理する必要がありますが、これも機械的な仕分けでは、科学の芽を摘むことになりかねません。制度改革には常にまつわるリスクですが、これは何とか解決しなくてはなりません。移行期間は5年間、科学の公益性を再び声を大にして叫ばなくてはならないのです。まったく、困ったものです。今後、新政権で制度改革があるたびにこんな手間暇を掛けなくてはならないのは何か変ですし、時間の無駄です。どーんと国の科学政策の基本方針を定めて、制度改革からのリスク回避を保障する仕組みや組織を創る必要があります。
 さて、個の医療です。
 第4の治療法として期待される、がん免疫療法ですが、ペプチドワクチンの副作用のメカニズムが明らかになりつつあります。現在の臨床試験で、最初の6カ月間はプラセボよりも、生存率が低下する傾向が、国際的なフェーズ3臨床試験で明かになってきましたが、その原因がつきとめられつつあるのです。
 昨年のメールで、癌特異抗原のキラーT細胞を誘導するペプチドを大量に患者に投与した場合、好ましくない免疫反応が起こることがあり、そうした好ましくない免疫応答を起こす患者さんの選択する手法を、久留米大学のグループが研究開発中であることをお伝えしました。国立がんセンターも、患者さんの間で抗体誘導反応の強弱があることを調べる臨床研究にも着手しています。これは皆さんも頷いていただけると思いますが、免疫反応には個体差があります。同じ抗原に対する強弱にも勿論差があるのです。この差を究明することが、がん免疫療法の効果を増強し、副作用を回避するための鍵を握っています。
 昨夜、三宮から梅田までのJRの車中で、三重大学の珠玖教授から、がんペプチドワクチンが投与量依存的に、マウスの腫瘍の成長を促してしまうという、動物実験の結果を教えていただきました。マウスに腫瘍を移植する前でも、後でも投与したペプチドワクチンは腫瘍を増大させてしまいます。つまり、腫瘍免疫を逆に低下させてしまったということです。ポジティブコントロールとして使ったがん抗原の全長cDNAに相当するDNAワクチンでは、まったく腫瘍増殖促進効果は見られませんでした。ヌードマウスでは、こうしたがんペプチドワクチンの腫瘍増殖促進効果は観察できず、この副作用にT細胞が関与していることが明白となっています。
 実際、増殖した腫瘍に浸潤したT細胞を調べると、がんペプチドワクチンを投与したマウスでは20%以上のT細胞がアポトーシスを起こしていました。どうやらがん抗原特異的なキラーT細胞の死滅や活性低下が腫瘍増殖を促していたのです。
 現在のペプチドワクチンは、キラーT細胞だけを刺激するエピトープを使用していますが、ヘルパーT細胞の活性化を共わないため、抗原提示細胞の成熟も不完全で、成熟したT細胞の分化を誘導しない可能性があります。珠玖教授はヘルパーT細胞を刺激するアジュバントを加えて、がんペプチドワクチンを接種したところ、腫瘍増殖を抑止することができました。
 患者の選択と適切なアジュバントやヘルパーT細胞を刺激するエピトープとの併用が、がんペプチドワクチン療法の確立にはどうやら不可欠であるようです。単純ではありません。今まで化学抗がん剤のような単純な臨床プロトコールで進んできたがんペプチドワクチンを、もう一度、見直せば、がん治療の第4の治療法として確立できる期待が膨らみます。そのためには免疫学の知識が不可欠であると思います。これも個の医療の一つの大きな流れを形成しそうです。
 今週も皆さん、お元気で。