現在、札幌に向かう飛行機の上におります。昨日は札幌は雪の嵐でしたが、本日は一転穏やかな天候に恵まれ、飛行機も今まで全便無事に新千歳空港に着陸しています。この便も問題なく到着するとアナウンスが入りました。天候は曇り、気温は2℃。
 やはり日頃の心がけが肝心と、一人で悦に入っております。
 しかし、本当は午前中のインタビューが長引き、羽田空港を疾走するという苦行を強いられました。神や仏は試練を与えるものです。
 一つだけ皆さんに言えることは、京急羽田駅から第二エアターミナルの荷物検査場でICカードをカードリーダーにかざすまで、3分30秒あれば何とかなることです。あまり、お勧めいたしませんが、5分前に駅に着けば、地下2階から地上2階まで駆け上がる意味はあります。土日のテニス修行は無駄では無かった。昔は飛行場に連絡して、飛行機を待たすこともできましたが、SKIPサービスの導入で、15分前にチェックインできなければ、機械的に拒絶されてしまう恐れがあります。
 システムが非人間化すれば、するほど、人間は肉体を鍛えなくてはならない、まったくの矛盾ですね。
 何故、昨日は奈良で鹿と戯れていたのに、札幌に飛んでいるのか?
 昨年から消化器がんのthe Best & Brightestをネットワーク化しており、北海道大学の新進の名医にアポイントをやっと取り付けたので、駆け付けるところです。このネットワークによって、錯綜するバイオ医薬や革新的な抗がん剤や治療法に関する情報を構造化して、実際の臨床に貢献するインテリジェンスを創るシステムを開発しています。こうしたインテリジェンスは適切な医療を供給するための基盤となることに加えて、患者さんが自らの身を守り、治療に参加できる情報基盤となると見通しています。何とか実現したい。これが東奔西走南飛北跳(これは造語、真似してはいけません)の理由です。近く、皆さんにご披露いたしますので、どうぞご期待願います。個の医療もこうした情報基盤無しには、普及しないのではないでしょうか?
 さて、個の医療です。
 午前中の取材で、中外製薬の山崎専務にお会いしました。G-CSFのクローン化に始まり、アクテムラまで、我が国のバイオ医薬をリードしている人物です。日本には数少ないビジョナリストで、次のバイオの研究開発方向が見えている貴重な人材です。自分の直感や雑然とした情報に形を与えるためにも、定期的に取材すべきであると、勝手に決め付け、良く押しかけています。今回の取材も、あっという間に時間が達ち、飛行機にあわや乗り遅れるはめになりました。
 山崎専務は当然のことながら、個の医療の実現こそが、中外製薬の発展となることを認識しています。個別化が市場を縮小すると未だに良い顔をしない、我が国製薬企業のトップとは雲泥の差です。
 我が国の大部分の企業はまだ、百羽一からげのブロックバスターや抗生物質のビジネスモデルの幻想をまだ追っているのです。しかし、本当に医療現場のニーズに直面するならば、患者の多様性を理解した創薬こそが次の製薬産業の挑戦であることは即時に理解するはずです。これなしには、常に市販後の副作用の発生に怯え、効果よりも安全性ばかりを優先する対症療法のための薬剤しか開発しえない、と思います。確かに、今までの医薬開発では対症療法は極めて重要でした。今でも鎮痛剤の処方件数が断突であることはそれを示しています。
 しかし、対症療法の医薬品がほぼ出揃った今、加えて米国や中国ですら適切な医療を全国民に提供する制度改正に向かっている状況では、医療費の無限大の膨張は許されません。先進国の高齢化が更に問題を深刻化しています。限られた医療資源を活用するには、医療が雇用を生む産業化のサイクルを創ることと、対症療法から根本治療を目指し、患者を創るのではなく、患者を少なくするように医療そのものの変革が必要となってきたのです。
 つまり、今後の創薬は癒しではなく、治療や予防を目指さなくてはならないのです。極端なことを言えば、対症療法的医薬品はジェネリック化し、OTC化を進めざるを得ないということです。緩和ケアのモルヒネなど例外は勿論ありますが、大きな流れは根治であり、万人が同じ原因でかかる感染症を除き、個の医療が不可避となっています。こうした状況では、市場が小さくなるなんて文句を言う場合ではなく、個の医療を実現し、企業収益も確保するために、新しいビジネスモデルを構築することが、医薬品企業の責務になっていることを、もっと強く認識しなくてはなりません。この問題は患者数の少ないオーファン医薬の開発を嫌う我が国の企業が、革新的な新薬開発の機会を喪失しつつあることと、同じコインの裏表の関係でもあります。
 根本的な作用を持つ医薬品は、根本的な薬効を示すという山崎専務の発言はアバスチンやアムリタが個の医療でありながら、治療対症となるがん種をどんどん拡大しつつあることを根拠としています。疾病原因による疾患概念の再構築と個の医療は決して矛盾するものではありません。
 どうやらここに個の医療の成功の秘訣が潜んでいると思います。これからは新薬の認可だけでなく、適応拡大こそが医薬品の勝負となる。まさに、個の医療のさきがけであるキナーゼ阻害剤、グリベックの成功が良き実証例であります。
 そろそろ、発想を変えなくては、日本はまた取り残されてしまいます。
 今週も皆さん、お元気で。