横浜で開かれた日本分子生物学会は日本生化学会と別れ、単独開催となりました。そのために、来場者数も、展示会の企業も小粒となったのですが、合同年会は余りにマンモス学会になり過ぎたため、雑踏という印象しか残らないことを考えると、これも悪くないかも知れません。
 展示会場のレッドカーペットの場所でシンポジウムのシンポジストと参加者が巡り会う場所を設けたり、新政権の仕分けに対する政治的なシンポジウムを開催したり、なかなか野心的であったと考えています。
 来年は神戸市で日本生化学会と分子生物学会が合同年会を開催する予定ですが、来年もバイオや基礎医学に相当な政治的逆風が吹くと容易に想像できます。どうぞ今年の日本分子生物学会のような、柔軟な対応で、是非とも社会や国民にアッピールする会となることを期待しております。
 さて、バイオです。
 最先端の技術をどうやってフォローするか?
 これは守備範囲の広い記者にとっては、極めて深刻な課題です。
 NatureやScienceを読んでいるだけでは、どこかの政府のように、単なる商業雑誌である両紙の良いなりになってしまいます。また、膨大な公開前記者発表のアーカイブにもアクセス可能ですが、これもまた目前のニュースに振る舞わされて、新聞の科学欄と同じになってしまいます。インターネットが出てから、情報の欠乏より過多に悩むようになってしまいました。
 クリスマスプレゼントで一つ技を公開すると、私は各領域にいる天才に注目する手法を重視しています。天才がどう動くか?これは3年後ぐらいに意味が分かるのですが、天才の動向を頭に入れておくと、膨大な情報が織りなす縦糸を見つけることができる場合が多いのです。
 
 抗体医薬の分野では断然、英国MRCのG.Winter卿であることは間違いありません。Winter卿になるべく定期的にインタビューすべくあらゆる努力を払っております。同氏は、ヒト化抗体・ヒト抗体技術、試験管内での免疫技術であるファージ・ディスプレイ技術、低分子抗体の流れを作った部分抗体、なおを矢継ぎ早に開発、抗体医薬のプラットフォームをほとんど創り上げた天才です。しかも、ファージ抗体技術で英CAT社、部分抗体技術で英Domantis社を創設、いずれも英AstraZeneca社と英Glaxo SmithKline社に売却し、MRCに巨額なキャピタルゲインをもたらした商才にも富んでおります。CAT社だけでも250億円の利益があり、女王陛下がSirに列するのも無理はありません。
 先月、英国大使館の招きで、Winter卿が来日、久しぶりにインタビューできました。相変わらずパット見はただの変人にしか見えず、豊かさの香りもしないところが、Winter卿です。本当にこの方は抗体分子にしか興味がないのではないかと錯覚させる狸ぶりです。
 詳細は下記の記事を参照していただきたいのですが、Winter卿が現在目指していることは、抗体医薬の製造から生物学的プロセスを排除することでした。具体的には完全化学合成抗体、バイシクルペプチド抗体の開発です。既に試験管内では天然の抗体分子に匹敵するモデル抗体分子の開発に成功していました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/7423/
 マウス抗体を第一世代とすると、キメラ抗体が第二世代、ヒト化・完全ヒト抗体が第三世代、ファージ抗体が第四世代、第五世代が部分抗体となります。今回、Winter卿が挑戦しているバイシクルペプチド抗体は第六世代にあたります。 抗体医薬の開発と製造に生物学的なプロセスが関与しているため、不確実性や高コストの原因となる、全部化学合成できれば、こうした問題を解決できると、Winter卿は指摘しました。
 確かに、そう言われればそうですが....。
 こうしたクリスタル・クリアな開発戦略目標を設定し、それを実行してしまうWinter卿の天才にまったく敬服の一言しかありません。勿論、バイシクルペプチド抗体はまだ、生体内で効果があるかどうか不明ですし、勿論、このままでは血中安定性や毒性もあると思いますが、しかし、この方向に抗体医薬の明日があると、何故か確信してしまうオーラがありました。今後の取材でも完全化学合成を縦糸に抗体医薬開発の動向をまとめて見るのも、面白いと思っております。
 さて、抗体医薬の次は間違いなく細胞医薬です。
 12月21日のBTJプロフェッショナルセミナーはiPS細胞の再生医療や創薬への展開を具体的に議論します。もう満員ですが、なんとかかろうじて今ならお申し込み可能です。
どうぞ下記よりお急ぎ願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6662/
 皆さんのご参加を心待ちにしています。