12月7日から8日まで、大阪で開催された日本糖鎖科学コンソーシアムは大変興味深い集まりとなりました。まさに我が国の純粋基礎研究ともいえる糖鎖研究がやっとたんぱく質医薬の品質管理やバイオ後続薬開発に、貢献する絵が見えてきたためです。エリスロポイエチンのバイオ後続薬の認可が今月中(21日頃か)にも行われる見込みです。今年6月の組み換え成長ホルモンに続く、2番目のバイオ後続薬ですが、糖鎖が結合している糖タンパク質としては初となります。
 現在爆発的に市場が拡大している抗体医薬も米国では2014年に「レミケード」の物資特許が失効することを始まりに、15年には「リタキサン」、「ハーセプチン」などが続々と特許切れ、つまりバイオ後続薬の対象になります。バイオ後続薬は極めて有望な市場ですし、血中半減期の延長や、抗原性の減少など付加価値をつければ、バイオベターとして、新薬開発の道も拓かれます。あんまり私は好きではありませんが、日本の製薬企業の得意技、ゾロ新、もう少し格好良く言うとthe Bset in Class のバイオ医薬の開発競争が始まったと言えるでしょう。このためにも、糖鎖の解析技術の開発はマストです。
 理化学研究所システム糖鎖生物学研究グループの谷口直之グループ・ディレクターは「N型糖鎖の分析や今やサンプル量さえ確保できれば世界中で解析可能となった。但し、O型糖鎖はまだ我が国の特定の研究室しか解析可能ではない」と指摘しています。日本のこの国際的なリードを我が国のバイオベターの開発になんとしても結びつけなくてはならないと、思います。こうした技術開発が加速すれば、患者さんの個人毎の糖鎖プロファイルを把握することが可能となり、がんの病態や転移のリスクを評価できるようになりかも知れません。いずれにせよ糖鎖の分離法と質量分析機の進展を大いに期待しています。
 さて個の医療です。
 多分私の不勉強でしょうが、11月30日のがん研究戦略作業部会で、京都大学放射線腫瘍学・画像応用治療学の平岡教授の発表には目から鱗が落ちました。
 複数のビームで患者さんのがんの立体的な形に合わせて、放射線を照射するIMRT (強度変調放射線治療)が急速に進展しています。
 従来の放射線療法は線源が一つで、二次元的にがんの形に最適化して照射していました。しかし、これでは当然の事ながらもともと三次元の腫瘍に効率良く、放射線を照射することはできないばかりか、正常な組織にも不必要な障害を与えてしまいます。こうした問題を解決、複数のビームをコンピュータ制御によって、腫瘍部に照射、がんの立体的な形に放射線を集中照射する技術がIMRTです。勿論、正常部分への障害を完全に防ぐことも出来ませんし、照射のためには高額な装置が必要ですが、今までの放射線療法を患者毎に個別化する画期的な技術開発であることは間違いないでしょう。
 唯一の被爆国である日本は放射線療法が欧米と比べて普及していません。放射線障害に過敏とならざるを得ない風土であるためです。2005年で我が国のがん患者の25%が放射線療法を受けていますが、米国では66%、同じ第二次世界大戦の敗戦国であるドイツでも60%が放射線療法を受療しています。少しでも、放射線障害のリスクを低減することが、手術と並んで、がんの完治を期待できる放射線療法が我が国で普及する鍵を握っています。腫瘍の影である二次元の腫瘍の形の照射から、腫瘍の実物である三次元の照射がIMRTによって可能になった今、放射線療法の再認識が必要だと考えています。
 問題は、0.5mmの精度でIMRTでは照射が可能ですが、呼吸などにより患者の身体が1cmほど動くことです。より安全で効果が高い放射線療法を目指し、体動をモニタリングしながら、放射線ビームを照射する四次元照射技術の開発が始まっています。今後、放射線療法の増感剤(標的医薬の一部、例えばPARP-1阻害剤なども含まれます)と、分子イメージング技術の開発も合わせれば、重い副作用や脱毛など悪いイメージの方が私の心の中でも勝っている放射線治療に対する、見方も変わろうというものです。
 本当に世の中は急速に動いています。
 最後に、お願いです。12月21日午後、東京品川で今年最後のBTJプロフェッショナルセミナー「第二段階に入ったiPS細胞の臨床応用と創薬研究の課題」を開催いたします。もうこのメールを受信した時点で満員となってしまっているかも知れませんが、どうぞご容赦願います。
 今ならまだ間に合うかも知れません。下記からどうぞお早めに。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/091221/
 今年、第二段階に入ったiPS細胞研究の2010年の展望を、真剣に皆さんと議論したいと思っています。品川で皆さんとお会いすることを心待ちにしております。
 冷え込んでまいりました。今週もお元気で。