個の医療のメールの内容を受けて、iPS細胞の臨床応用に関する安全性について、九州大学の米満先生と理研の高橋先生が素晴らしい議論をなさっています。是非とも、下記のリンクより私のブログ「Wmの憂鬱」をご覧願います。私が執筆しているメールの内容に対する質問やご意見はここで受けております。今回の議論は本当に再生医療を前に進めるものです。皆さんも、どうぞどんどん声を挙げて、議論に参加いただければ幸いです。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/2009/09/204015.html
 また、最近の2700億円プロジェクト、最先端研究開発支援プロジェクトの迷走ぶりと、政権に右顧左眄する総合科学技術会議のあり方に、実は怒っており、やや感情的な記事かもしれませんが、下記もお読み願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6159/

 本日もバイオ年鑑執筆で、東京に釘付けです。お尻がむずむずしますが、年に一回の知識の棚卸しをしなければ、次に進めません。今まで見落としてきた世の中の動きが、ほとんどノイズですが大量のデータを煮詰めることによって、見えてくることも事実です。しかし、急増するバイオ関連情報にセルバンテスのようにデータベース技術で対抗することがいつまで続けられるのか?
 Googleに早く、次のナレッジ・プラットフォームを開発していただくことを、願うばかりです。専門家の頭脳をフィルターにした情報整理の仕組みを当方は、もうすぐ完成しますが、そろそろこうした仕組み無しには、ウェブで氾濫する情報を私たちの研究や事業のために役立たせることは難しくなりそうです。
 従来の、研究→学会・セミナー→論文・報道→データベース→レビュー→単行本→講義・教育→研究 という学問のサイクルにメディアと産業化が絡まり情報は錯綜するばかりです。Google Scholarでもこれをすっきり解いて、科学的真実に迫るのは困難です。昨年お会いしたスイスのビッグファーマの研究開発のトップ、Paul Herrlingさんが創薬支援のための検索エンジンを開発中だと、真顔で言っていた意味が分かりました。今や情報戦の様相を呈してきました。
 さて、個の医療を急速に推し進める全ゲノム領域にわたるSNPs解析による疾患との連鎖解析(Genome Wide Association Study:GWAS)も、土佐清水市の人口を上回る1万2000人以上の患者を対象にして、集団での頻度の低い遺伝子だが、疾患のリスクが高い遺伝子を究明する第二世代、「Rare SNPs Common Disease」に進みました。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/2009/09/203835.html
 ここでBioJapan2009のスタージェン情報解析研究所の鎌谷先生の講演を基に集団中の疾患遺伝子の頻度と解析手段の選択を少し整理して見たいと思います。
 1つの遺伝子だけでは、それを保持していたからといって、疾患の発症リスクが1.2-1.5倍程度の疾患遺伝子は第一世代のGWASで続々と発見されています。これらの遺伝子は複数から多数組み合わされることによって、疾患のリスクを増大させます。現在のところ、例えば集団に1%しか存在しない疾患遺伝子を5つ偶然に持つ人を見つけようとすると日本国民を全部調べても見つかる可能性は極めて低いことになります。
 第一世代のGWASの問題点は複数の疾患遺伝子やライフスタイル要因を組み合わせた場合の疾患リスクのバリデーションです。ここに技術突破が起これば、ありふれた疾患遺伝子が私たちの医療を変える起爆剤に変わります。
 第二世代のGWASは集団中の頻度は極めて低いですが、疾患のリスクを増加させる遺伝子群を発見できます。疾患リスク20倍から100倍のような遺伝子も見つかる可能性があり、その患者さんの治療方針や予防方針を決定するのに極めて重要な情報となります。しかし、問題は、この研究は対象患者が多ければ多いほど良いために、1万人から10万人の患者さんを対象にしたGWASを本当にできるのか?という実行可能性にあります。
 患者数と研究費用の確保という深刻な問題を抱えています。
 さらに集団で、ここで見つかる疾患遺伝子の頻度は低いですから、このままでは社会への貢献が少ないという側面もあります。ここで見つかった遺伝子を道具に前後のパスウェイを調べ、疾患全体のメカニズムを芋づる式に解明する研究を欠いては価値が失われてしまいます。つまり大規模で異分野を集結した共同研究体制を組めるか?更に膨大なデータをどうやって解析するか?という二つの挑戦が必要になります。
 SNPs解析のコストと時間の削減も不可欠です。副作用の疾患遺伝子を探索する国際コンソーシアム、The International Serious Adverse Events Consortium(SAEC)では、次世代シーケンサを駆使してGWASを行う2つのパイロット研究を始めています。現在はゲノムワイドで次世代シーケンサーでSNPsを解析するに足る精度はありませんが、特定のゲノム領域を何回も重ねてディープシーケンスすることで、精度の問題を解決しようとしていました。
 単一遺伝子疾患のように、極めて希な疾患遺伝子の場合、第二世代のGWASよりも、疾患家系の遺伝学的な分析が決め手となります。こうした遺伝子は集団から淘汰されるため、集団での頻度は低下せざるを得ません。
 最後にでは個の医療の中核である、ファーマコゲノミックスに関連する遺伝子はどうでしょうか?
 「医薬品は人類に取って最近出現した淘汰圧力であり、進化の過程でも、今まで集団から排除されてこなかった。だから集団には頻度高く存在します。しかも副作用のリスクや効果のある患者を選別する、強い効果を持つ遺伝子でもある」と鎌谷先生は指摘しています。
 つまり、集団での存在比とリスクの強さが通常の疾患遺伝子では、逆相関するのですが、ファーマコゲノミックスに関する遺伝子は逆相関しないということです。
 第一世代のGWASでも充分、ファーマコゲノミックス関連遺伝子は発見できます。実際、C型肝炎患者でPEGインターフェロンとリバビリンが効果を決める遺伝子を我が国のグループが最近同定しました。この遺伝子の突然変異(マイナーアレル)を持つ患者さんは、野生型の患者さんよりも17倍から30倍も薬効がないことが証明されました。詳細はBTJに近いうちに掲載する予定です。
 最後に、12月21日午後、東京品川で「第二段階に入ったiPS細胞の臨床応用と創薬研究の課題」を議論するBTJプロフェッショナルセミナーを開催します。最先端の研究者と医薬品医療器機総合機構を交えて、真剣に皆さんと議論したいと思いますので、どうぞ時間を確保願います。
 今週もお元気で。