最先端研究開発支援プログラム((先端研究助成基金)が、新政権の09年度第一補正予算見直しの結果、総額2700億円から1500億円に削られた。しかも、この削減が総合科学技術会議議員の「3分の1から4分の1研究費でも可能」という発言を受けて行われたという説明が本当なら、結局、総合科学技術会議は何のビジョンもなく、旧政権の人気取りのために研究プログラムを策定し(実際は内閣府の官僚の知恵だ)、新政権におもねるために予算を削減したことになる。今回の件で、現在の総合科学技術会議は自主的な判断と倫理を欠く集団であることが、国民にも研究者にも暴露されてしまったのではないか。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/6150/
 こんな”国家的ブレイン”のために、565人の研究者が申請書類を書き、それ以上の研究者が心を煩わせ、最後には落胆を味わった。加えて、研究費を支給された研究者には専念義務があり、既存の国家研究プログラムにも混乱が起こっている。
 しかも、現在までに責任を取って辞任する総合科学技術会議議員も誰もいない。
 もっと深刻な誤りは、同時に構想されていた若手研究者の海外留学を支援する資金(研究者海外派遣基金)を、300億円から224億4000万円も削減することを認めたことである。総合科学技術会議の重要な役目である、次世代の人材開発を放棄してしまった。最近の総合科学技術会議の提言で、最も評価すべき提案であった、若手研究者の海外での武者修行を、多分次年度以降の本予算に組み込むという甘言に惑わされて、予算削減を納得させられたと考えたいが、文科省の補正予算修正の表には次年度以降の本予算に組み入れるという但し書きは外さればかりか、平成22年度以降の公募を取りやめと記載されている。若手研究者の海外武者修行は一年度限りの泡沫の夢となったのである。科学者の人の良さや世間知の無さは、総合科学技術会議議員という科学政治家にとっては罪になることをもっと認識すべきだろう。
 総合科学技術会議は、科学技術という国の未来を掛けた戦略を練るに値しない存在ではないのか。各議員の資質もあるだろうが、問題の根っこは総合科学技術会議そのものの非力にある。大学や企業から過去の栄光を背負った議員を選出しても、彼らだけでは過去を語れても、未来は語れない。最先端研究開発支援プログラムも、結局は実績でしか審査できず、「あれは賞の審査であって、研究費(グラント)の審査ではない」という石坂公成博士の指摘は核心をついている。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/5189/
 総合科学技術会議を強化するには、議員を刷新することに加えて、全世界の先端科学技術動向や科学政策の実態を収集し分析するスタッフと、国の科学研究費や科学政策を科学的に評価したり、効率的に運営する科学技術マネージメントの専門家を事務局に加えることが必要だ。いつまでも文科省や厚労省などの出向、つまり借り物のスタッフで、国家の科学政策が運営できる時代ではない。こうしたスタッフによる資料や意見を基に、経験深い議員が戦略を練り上げれば、政治家を説得、あるいは政治家に抵抗することも可能だろう。
 ここまで書いてきて、嫌な事に気がついた。10月9日、BioJapan2009のセッションで、鈴木寛文部科学省副大臣が私見だがと語った構想にそっくりではないか。私の考えは、総合科学技術会議を内閣府に置くべきなのか?国会におくべきなのか?まだ決めていない点で異なるだけ。前者なら下らぬSABC評価などを行う行政機関であり、後者なら立法機関として、科学技術基本法など根本的なビジョンを策定する機能が求められる。あるいは両方作るべきなのかも知れないと苦悶中である。
 ひょっとしたら、今回の2700億円から1200億円を削減したことが、「総合科学技術会議議員の声を反映した」と説明されているなら、新政権が密かに構想していると囁かれている総合科学技術会議の組織改編を誘導する策なのかも知れない。それにしても、その策に易々と乗せられるようでは、総合科学技術会議も情けない。やはり、総合科学技術会議も、白紙からのスタートは避けられないのではないだろうか。ただし、政治の常として政権に楯突く組織には厳しい圧力がかかるが、国民の支持があれば、今後の政権交代でもぐらつくようなことは無い。
 新政権も未来を創る科学技術政策を形成する場を、政権交代でぐらぐらするような政治の道具のような組織にだけはしないように、強く望んでいる。科学政策は長期継続性を担保しながら、大胆な刷新を取り込んでいくダイナミズムが必要で、しかもその戦略は長い時間経過によって評価されるべきものであるためだ。国民のために、もし総合科学技術会議を改編するなら、行政組織なのか?立法組織なのか?の明確化と、政権交代によってもぐらつかない仕組みを内包することを願いたい。
 皆さんのご意見を期待する。