現在、三田の共用会議所で、科学技術関係人材のキャリアパス多様化促進事業の連絡協議会に参加しています。
 ポスドク1万人計画の結果、ポスドクのキャリアパスが見えないままに、ライフサイエンス関係では不安定の雇用に悩む、優秀な人材を沢山抱えると国になってしまいました。本当に愚かな国です。しかし、折角夢と意欲を持って勉学に励み、エゴイスティックな教授の要求にもけなげにこなしてきた人材をこのまま放って置いては、我が国に未来はありません。平成18年度から始まった文部科学省のこの事業は、アカデミア以外にも打ってでることが出きる宝石のような人材を磨くためのプログラムを、ポスドクや大学院生のキャリアパスに第一の責任を持つ大学にまず考えてもらい。成功事例を全国に波及しようという事業です。
 3年前までには、ポスドクが何人いるか、把握もしていなかった大学当局が、ポスドクの実態を把握できるようになっただけでも進歩といえるでしょう。また、貴重なポスドクや博士人材を産業界との対話を通じて、少しでも世に出す努力をする大学も現れました。こうした外部世界との対話は、停滞した大学の学問にも刺激を与えるものだと思います。
 今後の課題は、ポスドク救済から、社会に役立つ人材を持続的に供給する大学院教育の確立です。もっと柔軟で頻度の高い産学の人材交流という根本的な問題にも確立しなくてはなりません。
 さて個の医療です。
 09年7月15日午前中に厚労省で開催された中央社会保険医療協議会は、わが国の個の医療実現の画期的な一歩となりました。
 薬価算定組織の加藤治文委員長(東京医科大学教授)が、個の医療を可能とする医薬品の薬価を厚遇すべきであるという主張を展開したのです。
 地獄の沙汰も金次第。表現は悪いですが、個の医療が定着するためには患者さんへのベネフィットばかりではなく、医療関係者や医薬・診断薬を開発する企業に対する実利的な支援も重要です。今回の加藤委員長の発言は、厚労省の歴史始まって以来初めて、個の医療の実現に対して薬価という伝家の宝刀で支援しようということを明言したことになります。これは決して加藤委員長の個人的な発言ではなく、我が国の薬価制度そのものを検討する組織、薬価算定組織の長としての発言であり、当然のことながら厚労省の関係課の支援を受けたものであります。
 我が国の個の医療もやっと薬価という最終局面でも動き出したといえるでしょう。
 実際に加藤委員長が提出した資料の文面の該当箇所を以下に引用いたします。
 歴史的な文章だと思います。
『1.新薬の算定について
(6)適切な患者選択により、投与対象患者を大幅に絞り込んで開発し、承認された医薬品の適切な評価について
○ファーマコジェノミクスやプロテオミクス等の活用により、対象を絞った特定の患者群において、より有効かつ安全で最適な薬物療法を行うことを可能としたものについては、薬価算定上、十分な評価を行うべきではないかとの意見があった。
 2.既収載医薬品の取り扱いについて
(2)市販後、適切な患者選択により投与対照患者数が大幅に減少した医薬品に対する評価について
○市販後に、より有効かつ安全で最適な薬物療法を行うことが可能な特定疾患群が明らかとなり、その結果、投与対象患者を、実際上、大幅に絞り込んだ医薬品については、薬価の引き上げを行ってはどうかとの意見があった。なお、その場合でも、外国価格の水準は参考にすべきとの意見も併せてあった』
 新薬ばかりでなく、市販後の医薬品でも個の医療化した場合は薬価を上げても良いというのは、極めて思い切って主張だと思います。
 一方、武田薬品など大手企業が特許切れ対策の苦肉の手として積極的に開発している合剤(既存の医薬品を配合した製剤)に関しては厳しい意見であり、1+1は2ではなく、2剤の薬価の合計の1.8倍から1.4倍にすべきだという意見も、加藤委員長から陳述されました。
 つまり、小手先ではなく、個の医療のような本質的に患者さんと国民医療費に貢献する技術革新を推進せよというのが、我が国の厚労省の姿勢だということです。従来ならもっとも保守的な判断をする薬価制度から、思わぬ個の医療への援軍が現れて、私自身も正直驚いております。
 Obama効果だけでなく、きっと先見性のある知恵者が、この判断の背景にはいるはずです。なんだか気持ちも明るくなりました。
 今週もどうぞお元気で。