日食見れましたか?
 日本列島も上海郊外も天気が不安定で、世紀の日食を見れるか見れないかは運次第でした。しかし、土砂降りの上海郊外で皆既日食になった時にあたかも暗闇に包まれ、アナウンサーが100円ショップで買ったという懐中電灯が役に立ったのには驚きました。昔の人が日食を何か世の中の変わり目を示す天変地異として捉えた気持ちも理解できました。
 今年は我が国で天下分け目の衆議院選挙も来月の末に予定されています。
 皆既日食はそれに符牒するような気もいたします。
 さて、09年6月19日に画期的な個の医療の医薬品が我が国でも発売されました。日本イーライリリーが発売した「ストラテラ」(アトモキセチン塩酸塩)がそれです。小児の注意欠陥/多動性障害(AD/HD)の治療薬です。注意が散漫で落ち着きの無い症状を持つ小児の特効薬であります。我が国ではピーク時に6.1万人の患者を対象に89億円の市場を確保する計画です。実際の薬価は25mg1カプセルで398.1円と米国より47円ほど安く日本では定められました。
 2004年に米国で発売された時に、添付文書に肝臓にある薬剤代謝酵素、チトクローム2D6(CYP2D6)の多型に応じて、投薬量を加減するように記載された、個の医療の草分け的な医薬品です。外国人の臨床試験成績では、CYP2D2の遺伝的変異のために、ストラテラを代謝し難い患者と正常の患者を比べると、投与したストラテラの約94%を遺伝的変異を持つ患者は吸収するが、正常の患者は肝臓でストラテラが代謝され、血中濃度が低下するため約63%しか吸収できないのです。このため同じ投薬量では、遺伝的変異を持つ患者には過剰投与となり副作用が生じる可能性があります。
 日本でのストラテラの添付文書は一見の価値があります。
 日本イーライリリーはある程度真面目に、日本人のストラテラの薬物動態に関して臨床データを収集、その結果を添付文書に詳細に記述しています。今後、殆どの医薬品が個の医療化すると考えると、このストラテラの添付文書は我が国の未来を示しているといえるのです。
 副作用の可能性のある遺伝型変異は日本人では幸いなことに1%以下でありました。日本人に多く存在する代謝活性がやや低下した遺伝型の患者と正常の代謝活性を持つ患者では、薬物血中濃度は1.7から2倍程度異なることも記述されています。我が国でも、CYP2D6の遺伝型を予め検査することは意味があると思います。
 是非ともウェブから、「ストラテラ 添付文書」で検索して、一読願います。
 国際共同治験や世界同時開発が急速に浸透しつつありますが、やはり人種差は医薬品ではどうしても考慮せざるを得ません。むしろ生物学的には個体差がどういう具合に国内で分布しているか、といったことが、人種というロマンチックな分類よりは有効だと思います。
 ストラテラによりまた、一歩、我が国でも個の医療の実用化が進みました。
 今週もどうぞお元気で。