現在、海浜幕張に向う電車でこのメールを書いています。
 昔、千葉はサイバーパンクシティとして、欧米のオタクに注目されていました。確かに、湾岸部に展開する未来都市はバブル当時は輝きを持っていたかもしれませんが、今となっては何故か、古色蒼然。中国やドバイなどにバブリーな未来都市が継承され、ただの使い難い都市に変わり果てています。
 製造業の単純さは、環境と人間の生活を破壊するだけであることの証明でありますね。製造業の拠点としての日本が歴史的な役目を終えたことを認識させる風景です。小学校の頃、潮干狩りを楽しんだ幕張の海を取り戻し、自然からの啓発を受けて、人間の創造性を発揮させる都市へと回帰する時だと思います。
 まずはウィンブルドンです。
 「体調がよければ、決勝は必ずこの二人となることは決まっている」と解説者もお手上げのビーナス姉妹がベストフォーに残りました。私の贔屓のウォズニアッキも敗退、残りはロシアの二人の選手です。いずれにせよ米国対ロシア、かつての冷戦を復活させる戦いとなりそうです。資源を武器に、サブプライムバブルによる景気後退の米国の覇権を脅かすロシアの姿に重なります。
 さて、個の医療です。
 今回も先週、早稲田大学で開催されたオーダーメイド医療を考えるシンポジウム「個の医療における世界戦略の現在」から報告いたします。
 個の医療を実現するためのボトルネックを日米が共有していました。
 この問題の指摘があったのは、シンポジウムの締めくくりに行われたパネルディスカッションでした。参加者は、米Chicago大学がん研究センターのMark J. Ratain教授と米UCSF薬学部のKathleenM. Giacomini教授、我が国からは東京大学医科学研究所の中村祐輔教授でした。
 そこで遺伝型を計測するバイオ技術や次世代シーケンサーなども話題になりましたが、技術革新がここではしっかり起こっており、問題はやがて技術によって解決可能であると誰もが楽観していました。
 今後、続々と大規模な集団遺伝学的な研究を進め、疾患のメカニズムの解明、それに基づく新薬開発、そして個の医療を実現する病態や罹病性を示すバイオマーカーの開発が進むことは間違いありませんが、その最大のネックはカルテ情報が日米共に、まだ紙媒体で管理されていたり、各医療施設で使用されている電子カルテのソフトとフォーマットがばらばらであることでした。
 患者さんのDNAを集めるコストよりも、カルテ情報を収集し、データベースを作成するコストや時間の方が大変である、ということは日米まったく同様でした。実際、文部科学省が支援したオーダーメイド実現化プロジェクトでも、カルテ情報は、病院の電子カルテシステムを転用するのではなく、実は手入力していました。この状況は昨年から始まった第二期のオーダーメイド医療実現化プロジェクトでも改善されていません。
 個の医療の実現のためには、医療情報の電子カルテ化と少なくとも国レベルでの統一フォーマット(互換性の保証でも可)が必要です。今後、次世代シーケンサーのコストが20分の1となり、精度も向上すれば、電子カルテに患者さんのゲノムシーケンスが添付されることになります。ひょっとしたら5年以内にこれは実現されるかも知れません。次世代シーケンサーの技術開発には猛烈な勢いがあります。こうなると、臨床情報の電子化の要望は否応無く高まります。
 米国では、Obama大統領が1兆円以上投入、臨床情報や医学情報の電子化を猛烈に進めることを宣言しました。実は我が国でも2011年までに、保険医療費の請求(レセプト請求)を、インターネットで行うことを義務つける計画が進んでいます。電子カルテに対して怠惰であった我が国の病医院の経営者も、お財布を握られては一も二もありません。少なくとも2年以内に日米両国で、電子カルテか、それに準じた医療情報のプラットフォームが形成されるのです。
 電子カルテ化で先行する英国のNational Health Service(国民皆保険制度)の医療情報データベースが、英国国民のDNAを収集する大規模前向き研究、BioBank UKの価値を高める基盤を形成しています。DNAを収集するだけでなく、その臨床情報質の高さこそ、疾患関連遺伝子や病態・罹病性のバイオマーカー探索の鍵を握っています。
 我が国でも2年後には英国に追いつけるか?
 期待はしますが、楽観的ではありません。医療関係者の努力と我が国のIT企業群の努力が相当要求されます。国の調整力も必要です。そして何よりも、支払い基金などの業務が合理化されるので、そこに天下っている過去官僚の利権を取っ払わなくてはなりません。勿論、情報の非公開によって胡坐をかいていた医師達の不適切な医療行為ももっと明るみに出るでしょう。 既得権の整理こそが、電子カルテの普及の鍵を握っています。これができれば、我が国に医療の質を確保しつつ効率化が可能となると期待しています。
 これがEBM(エビデンスに基づいた医療)であり、EBMの基盤の先に個の医療が花咲くのです。皆さんも是非とも、前向きに対応していただきたいと思います。
 お蔭様で、Biotechnology Japanが支援していた塩野義製薬のオープンイノベーション、FINDSも昨日で無事終了。昨年以上の共同研究のご応募を皆さんからいただきました。ありがとうございます。
 日本も捨てたものではありません。
 今週もどうぞお元気で。