東京は働いているのが、まるで愚行にしか感じられない五月晴れです。
 既に、ゴールデンウィークに入っているためか、他府県ナンバーの車が往来しています。この不況の影響もあって、工場が早めに休業している効果が、空気の味に現れています。皆さんも、このメールを海辺でお読みかもしれませんね。
 しかし、私はカレンダー通りの勤務です。同類は霞ヶ関にも多く、取材のアポがこの時期は、スパッスパッと入るのが気持ちが良くて止められません。やや自虐的になっているのかも。皆さんがうらやましい。
 個の医療ですが、今回は皆さんに関係する豚インフルエンザの話です。
 豚インフルエンザが大騒ぎになってきました。昨日、豚インフルエンザをWHOがインフルエンザ感染のレベル5に引き上げ、最高の警戒レベルであるレベル6(世界的流行)寸前まで迫っております。当社でも海外渡航をなるべく控えるようにとの決定が行われました。しかし、危険な場所に出向かうのが記者という職業であることを考えると、極めて苦吟するところです。
http://www.who.int/csr/don/2009_04_29/en/index.html
 今回の豚インフルエンザの感染性は相当強そうです。今回、レベル5に警戒レベルをWHOが上げたのも、New Yorkの高校で、メキシコで感染した患者からの二次感染が認められたことが大きな理由となっています。08/09年のインフルエンザワクチンでは、現在問題となっている豚インフルエンザウイルスと血清型が同じ、A型インフルエンザ、ブリスベン/59/2007(H1N1)株が使用されました。
http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/pr3421.html
 但し、血清型が同じだからといっても安心はできません。ワクチンで感染を阻止することは難しいでしょうが、このワクチンによって体内で形成された免疫によって、豚インフルエンザの症状が軽減されるかはまだ分からないためです。どれくらい交差免疫性があり、感染阻止に有効かどうか?是非とも早く確かめていただきたい。
 わが国のインフルエンザワクチンの製造能力は、ウイルスを増殖させる培地となる、無菌の鶏の受精卵の供給が握っています。舛添厚生労働大臣の説明では、豚インフルエンザに対するワクチンも製造すると言いますが、一方でわが国でも感染してお年寄りが死亡する例がある通常の季節性インフルエンザにも備えなくてはなりません。限界ある製造能力をどう振り分けるか?豚インフルエンザと今年のA型インフルエンザのワクチン株で交差免疫性があり、劇症化が防げるか?今後の研究の焦点となるでしょう。
 この意味で重要なのは、豚インフルエンザウイルスのゲノム情報です。勿論、免疫性を示すたんぱく質の情報ではないので交差免疫を完全には推定できませんが、少なくともインフルエンザの抗原性の類似性は推定できます。SARSウイルス感染の時にも速やかにゲノムが公開されましたが、今や当時より1万倍以上DNAシーケンス能力が高まっているため、小さなゲノムしかない、豚インフルエンザゲノムの解析は本当に朝飯前に終わってしまいました。09年4月29日までに20株の豚インフルエンザウイルスの分離株がGenBankで公開されています。今後、続々とDNA配列情報とウイルスの病理学的性質が蓄積・公開されると思います。診断薬やワクチン・治療薬の開発、喫緊の問題である交差免疫性や毒性を推定することにも貢献すると確信しています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genomes/FLU/SwineFlu.html
 ゲノム情報を有効に活用するためには、分離されたインフルエンザゲノムとその病理学的な情報の蓄積が不可欠です。実はインフルエンザのゲノム配列解析研究は、米国で2005年から米国国立衛生研究所国立アレルギー感染症研究所が資金を提供し、多数のインフルエンザ株のシーケンスが開始されています。現在までに、GenBankで約8万株のインフルエンザゲノムが公開されています。その半分が、米国のインフルエンザゲノム・シーケンシングプロジェクトの成果です。わが国でも製品評価センターと国立感染症研究所が、インフルエンザのゲノム解析に邁進しています。今回、こうした蓄積がどう生かされるのか、私は注目しています。ゲノム研究の社会への貢献が問われていると感じています。是非とも奮闘していただきたい。
http://msc.jcvi.org/influenza/index.shtml
http://www3.niaid.nih.gov/LabsAndResources/resources/mscs/Influenza/overview.htm
http://www.bio.nite.go.jp/ngac/project_flu.html
 問題は本当に毒性が高病原性鳥インフルエンザのように高いのか?この一点に尽きます。昨日、米国でメキシコから避難してきた赤ちゃんが死亡したと報道されましたが、死者がメキシコだけに限定されているのが、どうも不思議です。タミフル(ノイラミニダーゼ阻害剤)やリレンザ(ノイラミニダーゼ阻害剤)が有効であると09年4月27日に発表されているのも心強い。何故か、アマンタジンとリマンタジンという2種の抗インフルエンザ薬は効かないらしい。これらはウイルスの膜上にあるM2たんぱく質(イオンチャンネル)を標的としており、今回の豚インフルエンザでは治療効果はあまり期待できないと発表されています。
http://www.cdc.gov/swineflu/antiviral_swine.htm
 終わってみれば季節性のインフルエンザと大差がなかったというハッピーエンドも想定はできますが、この毒性の問題が見えてこない限り、やはり最大限の警戒はした方が良いと思います。
 連休ごろ寝派の理論的根拠ともなりそうです。
 皆さん、どうぞ良きゴールデンウィークをお過ごし願います。