toi090417.gif写真、1時間半前から始まった京都乳癌コンセンサス会議の第一回国際大会の会場でこのブログを投稿しました。乳がんの手術や抗がん剤開発でも、試行錯誤の歴史があります。あまりに革新的な技術であるsiRNA医薬にも当然こうした試行錯誤を乗り越える忍耐が要求されます。
 東京は初夏の陽気ですが、siRNA医薬開発には冬が訪れつつあります。
 但し、これは氷河期の始まりではありません。先端技術で良くある最初の試練だと思います。初期の技術的な欠陥が臨床試験などによって露わになる段階です。しかし、ここで諦めてはイノベーションなどとても無理。いかにこの苦境を踏ん張るかが勝負です。
 例えば、抗体医薬の黄金期の前には、米Centocor社の敗血症治療抗体医薬「Centoxin」のフェーズIII臨床試験の失敗もありました。同様に2010年に第二期の商業化期を迎えるアンチセンスDNAでも、多数の臨床試験が初期のオリゴDNA誘導体の毒性によって中止に追い込まれたこともありました。
 siRNAの商品化をリードし、最初のフェーズIII臨床試験の患者の登録を08年12月4日完了、いよいよ2010年にも最初のsiRNA医薬誕生かと期待させた米Opko Health社のVEGF(血管内皮細胞増殖因子)に対する天然型siRNA(Bevasiranib)の臨床開発が、09年3月6日に中断されたことが発表されました。
 同社の発表ではそのご臨床データの解析を尚進めるとありましたが、現在までに発表はなく、Bevasiranibの臨床開発は頓挫したと考えた方がよさそうです。
 同社によれば、滲出型加齢性黄斑変性症患者を対象に、米Genentech社の抗体医薬「Lucentis」と比較対象試験をフェーズIIIで行っていました。両方とも眼球注射製剤ですが、Bevasiranibの方が投与間隔を延長でき、危険な眼球注射の回数を減らせると期待されていました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8131/ 臨床試験の中止は、独立データモニタリング委員会の勧告に従ったもの。2009年1月にフェーズIII臨床試験の患者登録が完了したものの、臨床試験のデザインが臨床効果を評価するプライマリーエンドポイントを証明するのには不適であると判断されたためです。投与間隔でLucentisとBevasiranibの単剤投与同士では、Bevasiranibの有効性を示すことができなかったのではないかと推定しています。
 但し、同社の説明によれば、全身性や局所の副作用はなく、しかもLucentisと併用した場合には治療効果があったと強調していました。
 同社は、VEGF165のアイソフォームであるVEGF A165だけを抑止するより安全性の高いsiRNA製剤を09年2月に発表しており、今回の発表でもこの製剤に期待をかけていました。VEGFには7種のアイソフォームがあり、VEGFA165が加齢性黄斑変性症の原因であり、それ以外のアイソフォームは異常血管の形成に阻害的に作用するとOpko社は説明しています。
 この2月の発表は、Bevasiranibの臨床試験の失敗を予測したかに見えます。
 Bevsiranibには本当にsiRNAとして眼球注射した時に、眼球内のVEGF遺伝子の発現を抑止して異常血管形成を抑止するのか、実は疑問が呈されていました。一般的に2重鎖のRNA分子を認識するTol様受容体3(TLR3)がBevasiranibを認識し、VEGFの分泌を抑制している可能性が指摘されていたのです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2055/
 これで2010年にもsiRNA製剤の初めての実用化が実現するという楽観論は影を潜めるでしょうが、siRNA医薬全体が否定された訳ではありません。実際に患者さんに投与して初めて分かる最初の壁に直面したのです。siRNA製剤の体内での動態、siRNA製剤の免疫作用、そして加齢性黄斑変性症自体の原因の理解など、私達の知識不足が露呈したのです。今後はますます、免疫作用が少なく、疾患部位に取り込まれるsiRNA製剤とDDSの開発に拍車がかかると思います。
 09年4月3日、米Alnylam社はナノパーティクルのDDSを使ったsiRNA製剤ALN-VSPの肝臓がん患者に対するフェーズI臨床試験に着手しました。同社としては初の全身投与製剤のsiRNA医薬です。まさに捨てる神あれば、拾う神あり。今、革新的なsiRNA医薬は臨床評価という険しい壁に挑みつつあります。悲観も楽観もすべきではないと思います。
 皆さんもどうぞ、お元気で。
      Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満
Ps 上記の情報は毎月15日に送信しているBTJ/RNAi Update/Mailで逸早くお読みいただけます。無料で送信しておりますので、どうぞまだ未受信の方は下記よりお申し込み願います。
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/RNAi/index.html
ps
 このメールに対するご意見、ご質問はブログ「Webmasterの憂鬱」でお受けいたします。
どうぞ下記にお寄せ願います。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/