サッカーに天才はつきものですが、現在、世界最強のマンチェスターユナイテッドに17歳の天才が現れ、4月5日のデビュー戦でいきなり胸トラップから電光石火に振り向きざまのシュートをゴールネットに突き刺し、鮮烈な印象を与えました。
 おじさんと呼んでも許されるほど、大人顔のフェデリコ・マケドはまるでゲアハルト・ミューラー(古すぎるか?)のようなフォワードに成長する予感がいたします。とにかく得点する嗅覚と膂力に満ちています。しかし、16歳の時にセリエAのラツィオのジュニアチームにいたマケドを見い出し、イングランドで育てました。ルーニー、Cロナウド、テベスの天才に揉まれて、急速に才能を開花させることは間違いないと思います。わが国のナショナルチームにもストライカーの天才が現れることを心から渇望しております。あと1枚あれば.......。
 さてバイオです。天才に頼れないなら、チームで行こう。ただし、その戦略的な目標には世界の誰もが思いつかない先進性が必要です。
 全ゲノムにわたって一塩基多型(SNPs)を解析し、疾患に強く連鎖しているSNPを手がかりに、疾患遺伝子や副作用に関連する遺伝子やDNAマーカーを発見するというコンセプト(Genome Wide Association Study:GWAS)は、今では当たり前のことになり、07年から欧米でも盛んに行われ疾患関連遺伝子が論文発表されるまでになりましたが、03年に文部科学省が「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」第一期を着手した時には、このプロジェクトの関係者以外はほとんど信じていなかったというのが現状でした。
 「そんなことをしても無駄」と批判されたこともありました。しかし、08年にはプロジェクトの第二期が始まり、現在までに200億円以上の研究費が投入された結果、今、本当に個の医療の実用化が見えて参りました。欧米と対等以上に渡り合った創造的な研究チームに敬意を表しますが、彼らを支えて雑音を物ともせずに、支えきった文科省や大学・研究協力機関の力には感心いたしました。
http://www.biobankjp.org/plan/object.html
 これから本格的な実用化です。今までの成果を広く、社会に使ってもらうために、更に公明正大に努力していただきたいと思います。事業化が見えてくると、欲に負けて内輪もめというのは良くあるパターンです。利益相反に気をつけて、完走いたしましょう。
 昨日(09年4月7日)に、東京品川で開催された理研ゲノム医科学研究センターと「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」の合同シンポでは、医薬品の副作用や心筋梗塞、川崎病、関節リウマチ、変形性関節症、気管支喘息、2型糖尿病、C型肝炎のインターフェロン感受性、大腸がん、B型慢性肝炎などの疾患関連遺伝子やSNPsが続々と発表されました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/1245/
 5年前にはSNPsの密度も低く、実験デザインの問題もあり、GWASの結果はなかなか再現性のあるデータが取れなかったのですが、今回発表された成果は、リスクの強弱に人種差はあるものの、国際的に独立した集団で追試が効く、確かなデータであると考えて良いと思います。つまり、GWASの技術・研究基盤の整備が今や進んだのです。50万のSNPsを鑑別するプローブを搭載したDNAチップの発売によって、今や適切な集団を選択し、患者さんの同意を得て、DNAと医療情報を入手できれば、疾患関連遺伝子を見いだすことは難しくない状況に至ったのです。
 今後は複数の疾患リスクDNAマーカや別のオミックスデータなどと合わせて、疾患の病態や疾患罹患リスクを推測するアルゴリズムの開発、つまり統合オミックスが重要となります。実用化に伴い、DNA多型マーカと既存の診断情報との統合や摺り合わせが不可欠となると思います。最終的には前向きのコホート試験で、発見したDNA多型マーカーの臨床上の有用性を確認しなくてはなりません。
 今回のシンポでも、今年1月から理研のグループがタイの研究機関と共同で、AIDS治療薬ネビラピンの深刻な副作用であるスティーブンジョンソン症候群の発症を予測するDNA多型マーカーの、前向きの臨床試験をタイで着手したことを発表しました。
 この副作用は死に至る深刻なもので治療法も現在では確立していません。悲惨な副作用を回避することから、まずは個の医療が実用化するシナリオも見えてきました。わが国でも先月から積水メディカルが3月24日に抗がん剤イリノテカンの副作用リスクを判別する診断薬をようやく発売しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2006/0869/
 最も心が痛み、無駄な医療費である副作用を個の医療で抑止する時代となったのです。
 問題は保険診療報酬で、こうした個の医療の診断は一律2000点という低い評価に止まっていることです。生活習慣病の薬剤が急速にジェネリック化しつつある今こそ、疾患の精密診断と治療選択に貢献する個の医療の診断を高く評価することが、わが国の患者のQOLと満足度、そして医療費のコストパフォーマンスを改善する肝であると私は信じています。硬直的な保険診療報酬の査定を廃して、個の医療の実用化を国として誘導する、つまり本来の価値に応じた診療報酬を算定すべきだと思います。そうでないと、わが国では誰も本気で個の医療の実用化に取り組まず、気がついてみたら心臓のペースメーカーと同じく、市場の大半を外国製品が占拠し、わが国の医療器機業界は開発余力を失うという愚を、厚労省は再び犯すことになります。
 来週にはPGx検査に関するガイドラインも発表されます。技術が離陸しつつある今、制度とビジネスの枠組みの革新も不可欠です。滅多に褒めませんが、厚労省も文科省の先進性を学ぶべきでしょう。
 今週もどうぞお元気で。