今日の郡山は冷え込んでおります。梅は満開ですが、桜の蕾はまだ固い。
 昨日、郡山では文科省の都市エリア事業の最終報告会が開催されました。実に16もの医療機器関連商品が事業化、もしくは事業化寸前になっており、産学官連携事業の最も成功したケースとして”福島モデル”と取り上げられるまでに成長いたしました。6年前にも郡山に産学官連携の会議を取材したことがあり、正に隔世の感です。この背景には、外資系であるJ&Jから招かれた事業統括の奮闘と福島県の担当者の奮闘がありました。福島モデルの肝は、産学官連携を産業界がリードした、そしてそれを官も学も理解し、協力したということに尽きます。
 士農工商の気風を残した他地域で産学官連携がばらばらに、それぞれの思惑に従って形だけ行われ、尚且つ、それを成功と報道されていることとは、まったく違う状況が郡山には出現しています。
 行政がプロであったことも重要でした。医療機器に異業種が参入する最大の壁である薬事(許認可)の相談を、福島県は無料で行っています。そんな県を私は聞いたことはありません(読者からの情報提供で、滋賀県も薬事相談無料サービスを行っていました)。医薬品・医療機器総合機構で薬事相談を行えば、数十万円から数百万円はかかります。異業種が直接総合機構を尋ねても、まとに質問すらできません。その意味では福島県の支援は大きく、3年間で9社の異業種が、医薬品製造業の認定を受けるまでになりました。懇親会でも、地元の中小企業の経営者が「来月には認定を受ける」といった会話が交わされているほどです。本当にびっくりしました。
 我が国でもクラスターが形成できる。国の予算を目当てにした単なる寄せ集めのごった煮に終わらない地域が存在することに、大いなる自信を深めました。
 お蔭様で今年最初のBTJプロフェッショナルセミナー(3月30日午後、東京品川)は満員札止めとなりました。「統合オミックス」について、皆さんと議論するのが楽しみです。満杯の会場ですので、どうぞ譲り合って着席願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/090330/
 さて、個の医療です。
 皆さんはお酒を飲むと、顔が赤くなりませんか?
 もしそうだとすると、花見のシーズンから酒量を控えめにすることをお勧めいたします。今週発表された論文で、食道がんを発生するリスクが、通常のヒトの6-10倍高くなることが、米国立衛生研究所アルコール耽溺症・アルコール依存症研究所(NIAAA)と我が国の久里浜アルコール症センター http://www.kurihama-alcoholism-center.jp/ の共同研究で明らかになりました。こうしたヒトに無理して、米国人並みにお酒を飲ませると、食道がんのリスクはなんと80倍以上になることが疫学的な研究で証明されました。
 アルコールで顔が赤らむのは、アルデハイド脱水素酵素2(ALDH2)の変異型(Lys487)を1コピーもっているためです。この変異型ALDH2は酵素活性が極めて低く、アルコールが肝臓で分解され生じるアセトアルデヒドを無害の酢酸に変えることが遅くなります。体内をアセトアルデヒドが循環し、細胞のDNAに損傷を与えなど、発がんを促します。皮肉なことに、両親から変異型を共に遺伝されたヒトでは、お酒がまったく飲めないため、食道がんのリスクを排除できるのです。中途半端に酒に強いということが、災いになります。
 今回の研究は遺伝子解析と疫学研究を組み合わせた成果で、変異と疾患のリスクの関係を定量的に判定できる根拠を与えるものです。今後、こうした遺伝子解析と疫学研究を組み合わせ、実際の医療行為を変える根拠を与える研究が続々と発表されることを期待しています。単なる変異の発見だけでは十分ではありません。国民の集団でこうした遺伝変異がどんなリスクをもたらし、どう介入(治療や予防)すればそのリスクを低減できるか、提案できるような疫学研究こそが必要なのです。
 もう一つ米国立衛生研究所のこれに関する記者発表にも明記されていましたが、今回の研究で、いちいち患者のDNAを解析する必要はなく、患者に「お酒を飲むと顔が赤くなりますか?」と尋ねるだけで、食道がんのリスクをほぼ判定できることも証明されました。個の医療というと、やら遺伝子シーケンスやDNAチップなど、ハイテク、高コストばかり、私も報道しておりますが、研究が進めば進むほど、遺伝子変異とそれによって生じる症状の関連が明確になればなるほど、問診や触診・聴診、そして患者さんを見ることがさらに重要となっていることも、確認しなくてはなりません。まさに温故知新です。
 食道がんの5年生存率は12%から30%と低く、生存してもQOLが下がる深刻ながんです。
「お酒を飲んで顔が赤くなりますか?」この質問で、主にアジア人に多いALDH2の変異型を持つ、5億8000万人の食道がんのリスクを低減できるのです。なんとも素晴らしい、
研究成果だと思います。
 下記の論文は是非ともご一読願います。顔が赤くなっている写真まで添付されています。日本人では日常良くみるのでしょうが、白人では珍しいため、論文掲載の価値ありということでしょう。
http://www.plos.org/press/plme-06-03-brooks.pdf
 今週の週末から関東ではお花見シーズンに突入します。
 花の下にて酒の無理強いは、野暮を通り過ぎて、犯罪に近づいたことを腹に収めて、さあ、楽しくやりましょう。
 皆さん、今週もどうぞお元気で。