昨夕、欧州から帰国しました。
 今回は夜の会食が多く、無理やり時差に対応せざるを得ず、帰りの飛行機で爆睡したにも関わらず、完全に時差調整に失敗。昨夜は午前零時半に起床する始末です。さらに悪いことに侍ジャパンのキューバ戦まで生中継しており、結局、一睡もせず、これからバイオビジネスコンペ最終審査の取材のため、大阪に向うはめに陥りました。侍ジャパンは当初の下馬評を覆し、徐々に仕上がりを見せています。楽しみですね。スコットランドでは中村俊輔のセルティクスが14度目のリーグ優勝を果たしました。決勝点のアシストまでした中村は本当に日本に帰ってこれるのでしょうか?
 今週は日中、呆ける週になりそうな予感がいたします。欠伸を目撃しても、皆さんには優しく無視していただきたいとお願いいたします。
●残席わずか●
 さて、今年最初のBTJプロフェッショナルセミナー(3月30日午後、東京品川)、お申し込みいただきましたか?お蔭様で申し込み殺到、もう直ぐ締め切りです。緊急開催のため、今回は無料で参加いただけます。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/090330/
 パネルディスカッションにはスタージェン情報解析研究所長の鎌谷直之氏の参加も決定いたしました。統合オミックスの鍵を握る情報・統計解析技術を論じていただきます。まだプログラムにも掲載していませんが、講師陣はどんどん充実しております。
 今回はオミックスの最前線を俯瞰し、技術突破として統合オミックスの可能性を皆さんと議論します。どうやらバラバラに研究を進めているオミックスには限界が見えてきました。これを突破するには、単なるデータベースではなく、オミックスデータを組み合わせた統合オミックスが必要であると考えました。医薬・診断薬、機能性食品・農産物、安全性試験、創薬支援などの関係者に是非ともご来場いただ
きたいと願っております。
 皆さんとの熱い討論を期待しております。どうぞ下記より詳細にアクセスの上、お早めにお申し込み願います。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/090330/
 3月7日に日本を発ったため、9日に米国のObama大統領がヒトES細胞に対する連邦予算投入を解禁する特別指令を出したことをきちっと解析する時間がありませんでした。フランスのLyonで開催されたVioBision2009の幹細胞のセッションでも米Geron社のヒトES細胞の米国での臨床試験認可獲得を偉大な幹細胞研究の一歩だと賞賛する声は大きかったのですが、3月9日とはいえ、欧州の時差のため、米国政府のES細胞研究の連邦予算投入解禁の話題は、「新大統領はいずれ解禁するだろう」といった折込済みの話として触れられた程度でした。さらに、米カリフォルニア州や米マサチューセッツ州などが独自にヒトES細胞の研究資金を確保し、猛烈にヒトES細胞の基礎研究を支援している状況もありました。またGeron社などの企業も旺盛に研究を進めています。Bush前大統領が禁止したにも関わらず、実は米国が世界で最もヒトES研究に投資をしてきた現実もあったのです。
 今回の大統領令によって、120日以内に米国国立衛生研究所はヒトES細胞もヒトiPS 細胞も含めたヒト幹細胞研究のガイドラインを決定することを要請されました。いずれにせよ、2001年8月9日以前に樹立したヒトES細胞を使った研究にのみ、連邦資金を投入し、新たなヒトES細胞株の樹立研究を連邦予算では支援しないという米国連邦政府の研究制限が撤廃され、ヒトES細胞研究に米国として本格的に拍車がかかることは間違いありません。
 以前、このメールでObama大統領就任によって、ヒトES細胞研究は解禁されると書いたことがありますが、就任後わずか30日で解禁するとは思いませんでした。猛烈な改革のスピードです。しかも、ヒトES細胞研究解禁を科学技術を振興し、米国を復活させる象徴として取り上げました。これは相当本気です。しかも、よくよく読むとiPS細胞を含む、幹細胞研究にてこ入れすることを、暗示しています。
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Fact-Sheet-on-Presidential-Executive-Order/
 3月9日、米国でこの特別指令に大統領がサインする式典があり、京都大学の山中伸弥教授も列席しました。日本の新聞は一行も書いていませんが、ホワイトハウスの公式発表では、Shinya Yamanaka,The Gladstone Instituteと明記されていることは忘れてはなりません。Kyoto大学の一字もありません。しかも、下記のリストの順番で座っているならば、米Geron社のThomas Okarma最高経営責任者が隣におり、何かが起こりそうな予感がいたします。
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Participants-and-Attendees-at-President-Barack-Obamas-Signing-of-Stem-Cell-Executive-Order-and-Scientific-Integrity-Presidential-Memorandum/
 我が国では世界でも稀なヒトES細胞を研究に利用する際にも国の承認が必要という、米国以上に厳しく、科学的根拠薄弱な指針「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」が存在しています。動物のES細胞では世界最高の実績を上げていますが、この指針のおかげでヒトの研究ではさっぽり業績が上げられず、折角の科学技術の進歩を患者の幸せに還元することも、産業化して雇用を確保することも阻んでいます。ヒトの胚盤胞を破壊しますから、ヒトES細胞の樹立に関しては厳重な規制が必要だと思いますが、一度樹立した細胞に人格がある訳ではなく、使用にまで科学者の職業的な倫理を超えて制限をかける根拠は、私はまったくないと思います。
 もし、そうならば患者から分離した細胞株を総てを対象に使用規制をかけなくては一貫性と整合性がありません。こうした科学とはかけ離れた規制は明日にでも改正しなくてはなりません。何もしないことが生命倫理学者の責務ではないと思います。いつも治療法がなく、苦しんでいる患者を心にかけなくてはなりません。拙速も問題ですが、何もしないことが罪となることもあるのです。少なくとも指針の改定委員には患者代表も加えなくては、無責任な議論が続くばかりです。01年に作成、07年に改訂された指針ですが、iPS細胞という技術突破が起こり、米国も動き出した今、早急に改定する必要があると確信します。できるならば、厚労省が現在改訂を検討している「ヒト幹細胞を用いる臨床研究の指針」と統合して「幹細胞研究指針」をつくるべきだと考えます。2省にまたがる指針が無理なら、調和した指針を両省が作り上げるべきだと思います。
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/32_165.pdf
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/10/dl/s1006-8e.pdf
 Obama大統領の凄みは、その迅さだけではありません。今回のヒトES細胞研究の大統領特別指令によって、Bush前大統領の大統領令(07年6月20日)と大統領声明(01年8月9日)を覆したのですが、その理由を科学的な根拠に基づかない政府命令だったとばっさりと断定したことです。おまけに一部の科学的根拠無き扇動によって政府の政策が左右されることを禁じた「科学的公正性に関する大統領覚書」も3月9日に発表しています。
 Bush前大統領のキリスト教保守主義による新たなヒトES細胞樹立を禁じた政策を、科学的な根拠のない(一部の扇動による)政策だと否定したのです。ここまで政権が変わるとやるのか、と感心することしきりです。しかし、極めて明快です。日本の場合は一部の先導者も扇動者も居らず、できれば余計な波風を立てたくないという空気の結果生まれたのが「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」であるのが情けないことに実情です。共同謀議としては、確信犯であるBush前大統領より、制定理由の明快さを欠き、責任の所在を曖昧にした点で、悪質であると思います。
 Obama大統領は、ご丁寧にも、今後、科学的に根拠の無い理由で、政府の施策が左右されることが二度とないように、統領府科学技術政策局(OSTP)に120日以内に、政府の科学・技術を含む事業で、科学的な公正性を一貫するための戦略作成を要請しました。
http://www.whitehouse.gov/the_press_office/Fact-Sheet-on-Presidential-Memorandum-on-Scientific-Integrity/
 科学技術こそが、国民の幸せと繁栄につながるというObama大統領の明確なメッセージです。それを貫徹するためには、政府の政策そのものが科学的な合理性に裏打ちされる必要があるというのですな。そもそも我が国には大統領制度もOSTPもなく、54年間に1回しか政権交代が起こらなかった停滞した政権と行政府があるのみですが、何とか科学技術の振興を図らなくては製造業モデルで国際競争できなくなった今、明日のご飯を心配する状況に追い込まれます。
 まずは行政の科学性の再点検は日本政府の試金石として重要かも知れません。さしあたってバイオでは、幹細胞に加えて、組換えDNA実験規制、組換え農産物、食の安全、食品の機能や産地表示などが喫緊の課題になりそうです。近頃、偽装事件が我が国で多発しているのも行政や施策に科学性が失われ、従って検証可能性も欠くためではないでしょうか。
 もう悪や不公正の跋扈を見過ごすことは止めましょう。それを許す行政や施策の構造を変える必要があると思います。
 しかし、海外出張から帰国したばかりというのに、取材の対象となる政府は、米国政府など海外の政府ばかり、一体、私達が税金を支払っている政府は何を国民のためにしようとしているのか?各省庁の施策の部分最適ではもう、この国のあり方を良くすることは難しいのかも知れません。全体最適化が可能なように、内閣府の機能強化が必要でしょうが、まずはそれを可能とする民意の所在を国民に問わなくてはなりません。誰が考えても、こうなりますよね。
 寒天に慈雨を待つよりは、自ら井戸を掘る。
 どうぞそのために、オミックスの最先端の渦に飛び込むBTJプロフェッショナルセミナーにご参加願います。3月30日午後、品川でお会いいたしましょう。
http://bio.nikkeibp.co.jp/bio/seminar/090330/
 今週もお元気で。