皆さん、もう次の2つの無料ダウンロードはなさいましたか?もう直ぐ締め切りです。お急ぎ願います。
 第一は、昨年末に開催されたJCA2008、BMB2008ベリタスランチョンセミナーの発表資料のダウンロードです。革新的なバイオ技術の発表に加え、Harvard大学の研究者が発表した急性骨髄性白血病の診断法のスライドは見逃せません。どうぞ下記からアクセス願います。
https://inq.nikkeibp.co.jp/inq/QuestionnaireWhprMainForm.do?itemid=A_00000563
 第二は、BTJジャーナル09年1月号です。1月25日にダウンロードを開始しました。ゲノムネットワークの最新研究と寄稿「ノーベル賞のとなり」が目玉です。寄稿は、下村名誉教授のノーベル賞受賞の背景となった、がん細胞をGFPで標識し、生体内でがんの転移を観察することに賭けた若手研究者の海外留学奮闘記です。
 今回はノーベル賞を逸してしまった皆さんに贈ります。名誉のためだけでなく、真実に迫る科学研究の醍醐味と辛酸を味わえます。これから海外留学しようという若手研究者にも大いに参考となるはずです。どうぞ下記より、アクセス願います。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/index.html#btjj0901
 先週は星雲状態となったと表現した、全豪オープンテニスですが、終わって見れば、女子はセレナ・ウイリアムズ、男子はラファエロ・ナダルが優勝しました。まったく妥当な結末です。強いものが結局は勝つ。テニスの嫌なところです。
 サッカーのような運不運に左右される甘さの残る競技とは全く性格が違うスポーツです。表彰式で敗れたロジャー・フェデラーは涙で言葉が詰まり、スピーチを中断せざるを得ませんでした。2強時代が終わり、主役交代を実感したのだと、思います。準決勝のフェルナンド・ベルダスコとナダルの二人のスペイン人の試合は、今年の全豪で最高の試合で、フルセット5時間を超える死闘を繰り広げました。スピード、強靭さ、威力、読み、粘り、勝とうという意欲、その総てが決勝戦よりも上回っていました。
 テニスではスイスの覇権が終わり、大航海時代さながらのスペインの覇権が始まりました。奇妙なことに、経済で覇権(サブプライムで不調ですが)を唱えている米国はサンプラス以降、不調に陥っており、ロシア、フランス、スペインの後塵を拝しています。女子では、米国のビーナス姉妹を除けば、ロシア、セルビアが台頭しています。全豪のミックスダブルスでインドペアが優勝したことも注目に値します。テニスでは米国一極集中の時代などとうに終わっているのです。
 さてバイオです。本日は朝5時に起床、新幹線で東の空に赤い日の出を拝みながら、大阪に急いでおります。皆さんから多数、ご応募をいただいたバイオビジネスコンペの第二次審査の取材です。今年はどんなビジネスプランが大賞候補となるのか?眠気を我慢しても西に急がなくてはなりません。もっとも、払暁まで勉強している受験生の皆さんに比べれば、大した苦労ではありません。
 1月29日午後1時10分から東京地方裁判所で、東京大学工学部の多比良教授(裁判中なので元教授とは表現しません)が懲戒解雇を不当として訴えた裁判の判決を傍聴しました。
 RNA学会のその当時の会長らの訴え(理事会などで正式に決定された訳ではありません)により、東京大学が同教授の研究室の川崎元助手が筆頭著者、同教授が責任著者であった4つの論文の再現性が2006年の段階で確認できず、川崎元助手を、また監督責任を問い多比良教授もそれぞれ、06年12月27日に懲戒解雇したものです。論文を捏造したと目されている川崎元助手が捏造を否定しているため、東京大学の調査でも論文は捏造されたとは断定せず、再現性が確かめられなかったと発表しています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/1131/
 多比良教授はこれを不服として、提訴しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/2437/
 判決はわずか3分程度で終わりました。裁判長はぼそぼそと判決と判決理由を述べて、さっと引っ込んでしまいました。判決は4つの論文で川崎助手が捏造を行ったと断定、複数の人から指摘を受けたにも関わらず、責任著者として捏造を確かめず、論文を発表したことをもって、懲戒解雇は妥当だとしました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9225/
 しかし、逃げるように判決を言い捨てて去っていた裁判長の背中を見ると、この判決はよっぽど自信がなかったのではという疑いを持ちました。事実、東京地裁は東大と多比良教授に08年8月に和解を勧告しています。判例として残したくなかったのではないでしょうか?
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5461/
 まず、この裁判では東大ですら捏造を最終的には認定できなかった、つまり再現性が調査の時点で4つの論文で認められなかったという調査結果にも関わらず、川崎元助手が捏造したと断定していることに問題があります。再現性がない=捏造という認定を今後も東京地方裁判所が行うとなると、追試やそれに類する実験のみが蔓延り、創造的な研究が根絶やしになるかも知れません。論文に微妙な条件を記述しないのは、研究者では良くあること。発表と自分の研究のリードに頭を悩ませる研究者は軒並み、捏造ということで、悪意のある第三者の告発の餌食となる可能性をこの判決は生みました。日本人は真面目ですから、全部記載することも厭わないでしょうが、欧米では細かい条件の記載漏れはよくあること。東京地裁と東大は国際的な科学研究競争で我が国の研究者に建前を要求することで、ハンデを与えました。
 上記の話は灰色ですが、論文の著者ですら知らなかった条件が実験の再現には必要だったことが後で分かることもよくあります。イオン濃度や試薬のロット、使っている細胞株が実は変異していたなどなど、再現性に関与する因子で著者すらも気がつかなかった事例は多数あります。
 特に生物学では、材料が重要で本人であっても適切な材料が無い場合には、再現が困難という事情もあります。出来うる限り記述や材料の保存の努力をしても、創造的な研究は、最初は大抵は追試に難渋するという歴史的な事実を裁判所は知る必要があるでしょう。
 科学的な真実は初めて追試によって確かめられるという建前がありますが、一流雑誌に発表された論文もわずか30%程度しかその後引用されない、つまり追試される論文が少ないことを裁判所も東大も知らないということになります。7割の論文はまだ仮設に過ぎないのです。再現性欠如=捏造という短絡的な図式では、とても危なくて責任著者などはやってられないということになります。論文に関係する材料やノートを永久保存することは勿論、論文に関係した研究者の素行に目を配ることが必要です。ひょっとしたら今回は捏造していませんという覚書にサインを求める愚行すら真剣に検討しなくてはならないでしょう。創造的な研究の萎縮です。
 多比良教授の事件の取材で多くの研究者に会いましたが、「意図的な捏造を見破ることは難しい。しかも学生ではなく、助手は一人前の研究者、生データを見せろなどというと人間関係も壊れる」という意見が大勢でした。これもおかしな話ですが、責任著者がどこまで監督できるか?実態を知れば知るほど、建前通りには行かないと思います。実際、皮肉なことに今回多比良教授を告発したRNA学会の複数の関係者も、論文を取り下げている有様です。善意の誤謬と悪意の捏造を見分けることは論文の編集部の職責の外にありますが、取り下げの前に大学に告発されていたらどうなったのでしょうか?
 少なくとも東大は再現性欠如=捏造の疑いで、東京地裁は再現性欠如=捏造という図式で裁くことになるのでしょうか。
 当たり前のことですが、捏造は科学に対する信頼を揺らがせる大罪です。
 私もこのメールで捏造をお勧めするつもりは全くありません。
 しかし、厳罰と切り捨てによって研究を萎縮させるだけが解決ではありません。捏造の先進国である欧米と大阪大学などでは比較的に寛容な措置と、欧米では再教育による再発防止が図られています。勿論、捏造した研究者は公的な研究資金を数年間以上得られなくなるため、事実上の追放となりますが、責任著者が懲戒解雇された例を不明にして知りません。
 大阪大学では学生による捏造が疑われた論文の責任著者の下村伊一郎教授は停職14日間でした。もっとも下村教授はその後も、別の論文を取り下げを行っており、この処分の軽重は議論の余地はあるでしょう。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/4843/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7858/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7982/
 科学研究の最先端のどろどろした状況に目を背け、あたかも聖人が科学研究を行い名誉欲や物欲を捨て真実に迫るという建前主義、科学原理主義は学界の実態から最も遠いものです。こうした建前主義を採る以上、少なくとも東大が科学競争を勝ち抜き、世界を制覇することは難しい。建前上、追試が出来ない研究論文はあってはならないという金科玉条により研究者を切り捨てるだけでは、いずれ生身の中身のある研究者からも見放されることは必定です。
 東京地裁も科学原理主義の幻想を捨て、科学者も普通の人間であることを前提に東大と多比良教授の裁判を執り行うべきでした。実に人間臭い事情が背景にあることまで、見通さなくては、公正な裁きとはいえないと思います。
 今週もどうぞ皆さん、お元気で。
            Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満@札幌
PS
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http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/