全豪オープンテニスは若手の台頭で、女子はランキング1位のヤンケビッチが敗退、ビーナスやイバノビッチも敗退、星雲状態となっています。男子もマレーの躍進で、フェデラー、ナダルを脅かすと噂されています。混戦です。
 iPS細胞も実は混戦時代に入ってまいりました。
 山中カクテルと名づけられたSox2、Oct3/4、Klf4、c-Mycの導入により成人の細胞を初期化し、極めて胚性幹細胞に近いiPS細胞を樹立する原理そのものに変更はびくともありませんが、その手法を巡って星雲状態の競争が繰り広げられています。
 先週の土曜日に東大安田講堂であったICORP器官再生プロジェクト/CREST iPS細胞研究領域合同シンポジウムには、1000人以上の聴衆が詰め掛けました。安田講堂がほぼ満席になったのを見たのはこれが初めてです。
 その理由は明快です。京都大学の山中伸弥教授の強力なライバルである米Harvard大学のiPS細胞の主力研究者が勢ぞろいしたためです。まああの陣営と競わなくてはならない山中伸弥教授には同情を申し上げるしかありません。長老から若手研究者までトビキリ優秀な研究者に、十分な施設とふんだんな資金を投入、おまけに全世界から才能を集めて研究しています。しかも、日本ですと幹細胞研究者やせいぜい発生・分化研究者と臨床研究者が共同研究体制を組むだけですが、米国ではこうした狭い範囲だけではなく、インフォマティックスや創薬研究者、ナノテクノロジーなど、極めて広い分野の研究者を一挙に投入して問題を解決しています。日本でもそれぞれの分野では世界に競争できる技術者や研究者は揃っているのに、こうした才能が結合できない。国を挙げてのプロジェクト研究といっても、親類縁者にお金を配るだけという状況です。この状況を打破しないと、今や技術融合がイノベーションのエンジンの時代では世界に対応できません。
 今回のシンポでも、Harvard大学のKevin Eggan博士らが示した低分子化合物によるiPS細胞の樹立研究は、まさに日本の弱い学際的な研究の成果として誕生したものです。スクリーニング系の原理は山中伸弥教授が4つの因子を発見したものを転用しています。だから我が国でも当然できたはずのことですが、何故か研究が遅れてしまっています。
 皆さんは「RepSox」という言葉をご存知ですか?
 ボストンの野球チーム、レッドソックスのファンであるEggan博士の駄洒落です。彼らはSox2を代替する化合物群を本気でRepSoxと命名してしまいました。
 山中伸弥カクテルを構成するがん遺伝子c-Myc(後にiPSの樹立効率を向上するが、初期化には不要とされた)を除く、3つの転写因子、Sox2、Oct3/4、Klf4に対して、それぞれ代替する特異的な化合物を、3種、3種、6種ずつ、たった800種の生物学活性を確認した800種の化合物をスクリーニングするだけで発見することができました。
 詳細は下記の記事でご覧下さい。ちょっと力を入れて書きましたのでどうぞ、アクセス願います。アカデミック研究者と公的な機関の研究者なら、BTJアカデミックで毎月500円で読み放題です。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9110/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/9109/
●BTJアカデミック
http://biotech.nikkeibp.co.jp/senmonn/btj_aca.jsp
 まさにこうした化合物の性質を調べることで、初期化や再分化のメカニズムに肉薄しています。ケミカルゲノミックスの成果です。我が国ではケミカルゲノミックスは極少数の研究者しかおこなっていませんが、米国ではNIHが国を挙げてケミカルゲノミックスのデータベースを構築するため、自らロボットを投入、24時間スクリーニングに奔走しています。iPS細胞研究も裾野を広げないと、我が国における研究の進化は止まってしまうのではないでしょうか?
 一度、無関係と思われるような分野を含めた研究者や企業を集めて、学際的なiPS細胞研究促進のためのシンポジウムを早急に開催しなくてはならないと思います。
 さて、最後にこれも私が編集した記事ですが、GFPのノーベル化学賞授賞の陰で奮闘した若手研究者の投稿、「ノーベル賞のとなり」は必見です。GFPで初めてがん細胞株を標識し、転移を生体内で世界で初めて観察した研究者の汗と涙の物語を、昨年もノーベル賞受賞を逃した皆さんに贈ります。どうぞ下記からBTJジャーナル2009年1月号をダウンロード願います(無料)。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/btjjn/
 今週も皆さんお元気に。札幌の雪景色は素晴らしいですよ。