七草がゆだというのに、まだ、どうもお正月気分が抜けません。
 皆さんは、年始年末をいかがお過ごしでしたか?
 今年は経済再建と衆議院選挙による政治再編という大波の年となりそうですが、慌てふためく必要はありません。節約や経費削減だけで、この苦境は乗り切れません。技術革新と発展途上国の成長、わが国も含めた先進国の成熟(生活の質を改善する国内需要喚起)に、貢献するための努力を粛々と重ねれば、必ず未来は来るのです。
 技術革新による医療費の高騰を、健康知識の普及、予防と健康増進、そして個の医療(初期投資はかかりますが)と個の健康増進が、解決し、最適な医療・健康を最適な患者・個人に、最適のコストとタイミングで提供したり、選択したりする時代を創り上げなくてはなりません。規制緩和と適切な教育支援を組み合わせれば、あらたな雇用をこうした新しい医療と健康分野で拡大し、健全な資金循環によって内需の拡大にも繋がると思います。
 サブプライム・バブル破綻によって明らかとなったのは、自由競争による市場主義には効率性もありますが、必ず破綻のリスクもあるということです。市場と国家や地域による規制のバランスが、人々の安寧に繋がるのです。
 現在、中核病院の勤務医は死ぬほど働いていますが、これは民間病院や開業医も含めた、地域の医療資源の配分が上手くいっていないことにも問題があります。日本の医療は極めて社会主義的な国民皆保険制度を維持しながら、民間病院や開業医に関しては国家資格で保護しつつも、大幅な営業の自由を与えています。
 しかも、誰が地域の医療に責任を持つのか?極めて不明確な無責任体制です。
 自治体病院には権限があっても、医師会や民間病院には地方自治体の首長の権限が実質的には及ばない。大学病院と厚労省の管轄下の病院群やナショナルセンターは、地域医療とは隔絶した存在として君臨しています。こうした体制が世界に誇るべきと医療関係者が主張する国民皆保険制度下の医療崩壊を招いてしまったのではないでしょうか。少なくとも住民のライフラインである医療を、地域で確保する責任者は、住民の選挙で選出される地方自治体の首長であることを明確にした上で、医療経営が分かる専門家に支援させる体制を早急に整えるべきだと思います。
 今年必ず行われる衆議院選挙の争点の一つに取り上げて欲しいと心から望んでいます。
 さて個の医療です。
 昨年の12月25日に、ドイツBayer Schering Pharmaceuticals社のヒトiPS細胞の特許(特開2008-307007)が公開されました。今は閉鎖されてしまった神戸市にあった日本シェーリングの研究所の成果です。昨年、「ヒトiPS細胞樹立では、こちらが先」という新聞報道で世間を騒がせた特許です。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8668/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2008/
 「出生後のヒト組織由来未分化幹細胞から誘導したヒト多能性幹細胞」という発明の名称です。特許を良く読むと、京都大学iPS細胞研究センターの山中教授がマウスとヒトiPS細胞を樹立するために使った、Oct3/4、Sox2、Klf4、c-Mycを導入しており、仮にヒトiPS細胞樹立のタイミングが京大より早かったとしても、08年9月に成立した京都大のiPS細胞樹立法の特許の利用特許であることは免れないことを確認いたしました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5913/
 もう一つこの特許を読んで奇妙に思ったことは、この特許がiPS細胞が出来るのは、4つの遺伝子(山中カクテル)が、成人の細胞群の中の未分化な幹細胞様細胞に導入されてできるという仮説に基づいて書かれていることでした。「ヒト組織に存在するTert、Nanog、Oct3/4及びSox2の各遺伝子が後生的な不活性化を受けていない未分化な幹細胞に」遺伝子を導入することを特許の請求範囲にしています。これは当初、山中カクテルでは0.1%程度しかiPS細胞を樹立できなかったことを背景にしていると推測しますが、今では6歳の子供から、80歳の老人まで年齢に関わりなくiPS細胞が同じ確率で生成することが知られており(つまり年齢によって組織中の幹細胞の比率は下がる可能性があるにもかかわらず樹立効率は大きく変化しなかった)、また、p53のノックアウトやノックダウンでiPS細胞の樹立効率が50倍以上増加することなどを考えると、単純に幹細胞入ったからiPS細胞になるという静的なモデルは適用できないのでは無いかと思います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/8228/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7422/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/6894/
 更に、山中教授らは肝臓細胞から樹立したiPS細胞株が、かつてアルブミンを生産した履歴を持つ細胞由来であることを証明しており、幹細胞様細胞から由来したヒトiPS細胞樹立を請求したBayer社の特許の有効性には大きな疑問符がついたと思います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0498/
 しかし、究極の個の医療であるiPS細胞研究の焦点の一つが、樹立効率の向上にあることは間違いなく、何故、成人の組織の細胞群には個性があるのか?という疑問も解くことになります。究極の個の医療の研究が、細胞の個性を解明することにも繋がる訳です。
 集団の中の個という問題は、やはりライフサイエンスの根本的な問題であると思います。
 どうぞ皆さん、今年も宜しく願います。