東京は再び雨が降っております。
 どうも雨は嫌いです。自民党の選挙対策で、小泉内閣以来、毎年2200億円削減されていた医療費を含む社会保障予算の削減が、実質200億円(ジェネリック薬による薬剤費の削減で充当)にまで圧縮されました。
 サブプライムバブルの破裂後の大混乱で雇用切り捨てが現実のものとなった今当然の政策だと思います。但し、今回の措置の財源は特別保健福祉事業の廃止による1400億円と道路特定財源からの600億円です。特別保険福祉事業は、健康保険組合の財政支援を行う事業で、これが廃止されると企業の健康保険組合の財政状況が悪化、保険料の値上げに繋がります。結局は我々のポケットから出た金です。
 しかも、今年限りの埋蔵金で永続性がありません。唯一評価できるのは、「道路より医療」の主張が通った600億円です。今後、こうした持続的な財源を尚確保していく必要があります。但し、経済波及効果を考えると、医療分野の規制緩和による雇用創出と効率的な医療資源の再配置がどうしても必要です。このままでは、医療が完全なコストセンターとなり、今や国際競争力の焦点となった医療産業の創出ができなくなります。つまりは豊かで安心な老後のために、我々のポケットから更にお金が流出する最悪の事態となるのです。国民皆保険を堅持しながら、医療産業を国民の支持を受けながら成長させるか、本当の智恵の絞りどころです。
 麻生首相も地元では病院の経営者でもありました。しかも、弁舌のためか医療関係者にも評判が良かったのに、何故、今、智恵を出さないのか?どうしても分かりません。
 さて個の医療です。
 個の医療にも今までどうしても分からない謎がありました。
 乳がんの治療薬である抗体医薬ハーセプチンがその標的であるHER2を細胞表面に発現している患者(乳がん患者の20-25%)の3割程度しか効かないという謎です。最近のデータでは日本人では16%しか効かないという臨床成績も発表され、抗原と抗体医薬が1:1に対応して効くはずだという単純な“個の医療”が通用しない患者も多いのです。
 勿論、がんを増殖させるシグナル伝達パスウェイのクロストークや、HER2のシグナルを抑制すると代償的なパスウェイが発現するなど、いわゆるエスケープ現象が起こることは予想されます。
 しかし、これで全部を説明できる訳ではなく、むしろハーセプチンの耐性出現の原因ではないかと思います。そうすると問題は、HER2が何個、がん細胞表面に露出されているか?その抗原の濃度に閾値がある可能性が出て来ます。困ったことに、ハーセプチンが何故効くのかは実は分かっていないのです。抗原抗体反応の複合体が細胞表面に形成されて、それを認識した免疫細胞が細胞を障害したり、補体が障害するADCCやCDCCという作用だけでなく、HER2の増殖シグナルをブロックして、がんの増殖を抑止するなど、様々な作用の集大成で効いている可能性があります。そのために、HER2のあるがんを全部駆逐するとが出来ないのです。
 昨日、大阪のアジレント社のセミナーのために来日していた米Genentech社の研究者とインタビューをしました。同氏は次世代のハーセプチンを開発中で、現在、臨床試験フェーズ2で乳がんの奏功率40%以上の成績を教えてくれました。HER2と薬効は1:1までは行っておりませんが、標的があれば、薬効がある、個の医療の治療薬に一歩近づきました。
 原因は、ハーセプチンに微少管形成阻害剤DM1を化学的に結合させたことにあります。第二世代のハーセプチンは毒素を標識した免疫複合体でありました。HER2に結合すると、がん細胞の内部に取り込まれて、抗体ばバラバラにリソゾームで分解されますが、抗体断片ペプチドと化学的に結合したDM1が、がん細胞内に滞留し、抗がん作用を発揮するのです。
 HER2はリガンド(抗体や成長因子)が結合すると、細胞内に1時間以内に取り込む活性が強い特徴を活かしたのです。抗体はまさに薬効を期待されてはおらず、特異的にHER2を発現しているがん細胞にDM1を運搬するDDSとして機能しているのです。これなら標的:薬効が1:1を近づけられる可能性が出てきます。臨床試験は極めて順調に進んでおり、来年にはフェーズ3に進むでしょう。
 今後は薬剤だけでなく、放射性同位元素、磁性体など様々な薬効物質を抗体に結合した複合体の臨床開発が、個の医療実現の有望株と浮かび上がってきそうです。まだまだ、個の医療の発展にはやるべきことが残っております。
 
 どうぞ今週も皆さん、お元気で。