写真:京の紅葉。やや終盤でした。
 昨日は失礼いたしました。
 京都の免疫学会から神戸を経由し、東京で別のセミナーの取材をするというてんてこ舞いで、個の医療のメールの執筆を失念してしまいました。慌てて、今朝、このメールを書いております。師走に免じてどうぞご容赦願います。
 昨日のセミナーでも、果たしてどこまで遺伝変異が疾患の原因になりうるか、議論が分かれていましたが、単一の遺伝変異による遺伝子病から生活習慣病のように多数の遺伝変異が関与している病気まで、同じ遺伝変異といっても深刻度が違うことを認識しなくてはなりません。
 患者集団と正常集団のゲノム上のSNPを比較して疾患関連遺伝子を解析する、ゲノムワイド連鎖解析(GWAS)が発見した疾患遺伝子の疾患リスクは最も重いアポE4でも4倍、通常の場合は1.3から1.5倍に過ぎません。仮に私がそうした遺伝子を持っていても、喫煙して病気を発生するリスクの方が遥かに高いのが現実です。従って、こうした軽度のリスク遺伝子を一つ持っていたとしても、あまり深刻になる必要はないのです。今後の研究は複数のリスク遺伝子を持つ場合に加えて、悪しき生活習慣が加わった場合に、発症リスクがどうなるか?長期にわたるコホート研究(同一集団を前向きに長期観察する疫学研究)が、答えを出すまで待たなくてはなりません。
 それに比べ遺伝子病を引き起こす単一遺伝子変異は、大抵は劣性遺伝子ですが、ホモに持つ場合に疾病を起こすリスクは極めて高いものです。しかも、患者さん本人だけでなく、家族や子孫にもその遺伝子を共有されるため、遺伝子診断するだけでなく、遺伝カウンセリングを行い、患者さんや家族のケアを行うことがどうしても必要となります。
 分子生物学の発展が遺伝子病の原因遺伝変異の発見も加速しています。
 今年の日本免疫学会賞は「原発性免疫不全賞の原因・病態の解明」に対して東京医科歯科大学の峯岸克行氏に贈られました。高IgE症候群の原因が、シグナル伝達に関与するSTAT3の変異であることを突き止めたことが評価されました。
 原発性免疫不全症は単一遺伝変異によって起こる遺伝子病です。1986年にX-CGDの原因遺伝子が発見されて以来、08年までに13種の原因遺伝変異が同定されました。免疫不全症以外にも遺伝子病の原因変異がどんどん見つかっています。患者さんは極めて少数ですが、原因が分かっても深刻な問題を抱えることになります。どうしても遺伝カウンセリングを充実しなくてはなりません。
 現在、全国で168施設で遺伝カウンセリングが実施されています。臨床遺伝専門医は537人、認定遺伝カウンセラーは17人に限定されています。遺伝カウンセラー養成の大学院コースは8大学が行っており、年間30人から40人が修了しています。まだまだ、遺伝カウンセリングを行う人材の供給も十分ではありません。
 十分な収入がまだ見込めない状況では、高い志を持った遺伝カウンセラーが意欲を持って取り組む現状ではありません。
 2008年は一部の遺伝カウンセリングが我が国の健康保険に収載された画期的な年ですが、まだまだ遺伝カウンセリングの重要性に比して十分な費用が認められた状況ではありません。遺伝子病こそ社会のリスクですから、健康保険の本来の主旨に沿うため、国はもっと積極的に支援を行うべきだと思います。
 
 今週もどうぞお元気で。