先週は失礼をいたしました。
 
 多分今月の半ばに発表される国家プロジェクトの審査を2日にわたり缶詰で、内閣府の会議室で行っており、残念ながら皆さんにメールを書くことができませんでした。しかし、このプロジェクトは我が国の再浮上を狙う規制緩和の提案を受ける重要なものでした。まるで平成の目安箱のように、全国各地からバイオの実用化や臨床研究に必要な規制緩和の要望が寄せられました。これを全部実現できたら、間違いなく日本は良くなります。
 三島の駅から眺める富士山はまだ綿帽子を被っていませんでした。
 
 現在、東レの研修所で開催されている「医薬品開発におけるバイオマーカーの活用~探索研究から臨床開発まで~」(ヒューマンサイエンス振興財団主催)に、参加しています。いやー面白い。我が国のバイオマーカーの研究が極めて具体的になりつつあることを実感しました。
 
 EGFRの突然変異やアルツハイマー病のバイオマーカーの研究では日本が90年代には世界の先駆けだったのですが、その後、産学官がにらめっこしている間に、米国がバイオマーカーのコンセプトを導入、NIHのロードマップやFDAのクリティカルパスとして、国家的に取り組むまだに至りました。我が国では良い萌芽的研究を取り上げ、組織化して、その成果を診断薬や医薬品として開発する構想力が、産学官とも不足しています。
 
 「臨床上有効性が認められたバイオマーカー(Validated Biomaker)にはどうしたらなるのか?
 
 巨大な臨床試験をしなくちゃならないのか?
 
 そして誰が認めるのか?」
 
 次々と最新の研究成果が開陳されるセミナーで、鋭い質問が飛びました。情けないことに、誰も答えられない。我が国の基礎研究と臨床開発、そして商業化の深い溝を見ました。たとえ私が急性腎障害のバイオマーカーを発見したとしても、それを前臨床試験や臨床試験のマーカーとして使ってもらうにはどうしたらよいのか?
 
 私でも途方にくれます。総合機構に相談に行っても「具体的な診断薬として開発するのか?
 
 それともある新薬の臨床試験評価のために使うのか?」といった質問に答えられないまま、引き下がることになります。
 
 残念ながら総合機構も、バイオマーカーの開発に関して的確なアドバイスもできるほど、経験の蓄積はないでしょう。それは米食品医薬品局も欧州医薬庁も事情は同じはずです。彼らと総合機構の差は、自ら能動的に動いて技術革新を国民に役に立てることがミッションだと考え、そうした体制を組んでいるのか?
 
 それとも技術革新の壁となり、新たな変化を起こさないことで国民の健康を守ろうという受動的な態度と体制を取るのかの差です。
 
 技術革新のスピードが遅い時代では、総合機構や厚労省の姿勢でも国民から批判を浴びることがなかったのでしょうが、今や生命科学や医学の技術革新のスピードはますます加速しており、受動的な体制では世界から技術革新の流入が止まり、あっという間にがんの治療成績などにくっきりとした格差が生じてしまう結果となります。しかも、インターネットと飛行運賃の低下で、国民は海外で先端医療を受けるまでになっているのです。
 
 総合機構と厚労省は能動的に技術革新を取り入れる体制と予算とマインドに変えなくてはなりません。審査官を3年間で倍増させますが、古い体制と思想のままではただ技術革新の壁が厚くなるだけで、国民のためにはなりません。
 
 ではどうしたらよいのか?
 
 米国国立衛生研究所は2006年からバイオマーカーコンソーシアムを立ち上げました。米食品医薬品局やメディケアやメディケイドのセンター(支払い側)も参加、患者団体や学会、それに製薬企業やベンチャー企業、合計53社が参加、規制当局と話し合いながら、しかも製薬企業の壁を越えて、共通の評価の下にバイオマーカーを開発するプラットフォームを形成しています。こうしたコンソーシアムは日本のかつてのお家芸であったはずです。同様な仕組みはアリゾナ州のCritical Path Instituteでもコンソーシアムを形成して、前臨床試験のためのバイオマーカーの開発を進めています。
 
 ここにはオブザーバーとして日本の製薬工業協会も参加しています。これが唯一の希望かも知れません。今や国内だけでのバイオマーカー開発は国際臨床開発と世界市場化を考えると意味を失います。
 
 悩む前に蛸壺を出て、国際的なコンソーシアムに参加する必要がありそうです。少なくとも総合機構は早急に対応し、国内の研究者に対してこうしたコンソーシアムの情報をフィードバックする努力をすべきです。それが「意味不明の質問」を避ける賢い方法でもあると思います。そろそろ防御だけでなく、総合機構も攻撃に移らなくては日本の臨床科学の停滞を打破することはできません。
 
 今週も皆さん、お元気で。
ps
 世界で最初に再生皮膚を医療用具として正式認可をとり実用化した、ジャパンティッシュエンジニアリングを取り上げ、再生医療の産業化を議論する今年最後のBTJプロフェッショナルセミナーを開催いたします。
 
 11月26日、品川でお会いいたしましょう。詳細は下記のリンクから、どうぞお早めにお申し込み願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/7330/