写真:本格的な前向きの個の医療の臨床試験に邁進する大阪大学東教授。
 先週は皆さんと横浜のBioJapan2008でお目にかかることができました。
 
 ご参加大変ありがとうございました。皆さんのおかげで、来場者総数は3日間で2万3500人を突破、前年比1.5倍増となりました。不況下にもかかわらず、皆さんのバイオに対する熱い期待を実感いたしました。
 今年は夕方展示会場でハッピーアワーを開催、80以上の企業や機関の協力によって、国内外の名産を楽しみながら、バイオ関係者と仲良くなるという、誠に幸せな体験もいたしました。来年も横浜で、10月7日(水)から9日(金)まで、BioJapan2009を開催いたします。さらなる新企画で皆さんをびっくりさせようと、智恵を絞っておりますのでどうぞお楽しみに。
 
 また、皆さんのこういう企画やセミナーが欲しいという声もいただきたいと思いますので、どうぞ遠慮無く下記にご連絡願います。
 
 さて、個の医療です。
 
 今週の月曜日、一橋講堂で開催された「オミックス医療研究会シンポジウム」第1回疾患横断的オミックス定期講演会に参加いたしました。とても内容は高度なのに、観客がもう少しお出でいただいてもよかったと思います。次回はこのメールでも、案内いたしますので、どうぞご参加願います。
 
 そこで、びっくりしたのですが、大阪大学大学院薬学研究科の東純一教授が、5つものファーマコジェノミックスの臨床試験を展開していたことでした。しかも選択バイアスのかからない本格的な前向き臨床試験が多かったことにも感心させられました。
 
 第一は結核の短期強化標準化学療法における遺伝子情報を前向きに適応するランダム割付比較試験です。第二は慢性心不全治療によるβ遮断剤の投与量設定試験(J-CHF)。日本循環器病学会が推進する医師主導の臨床研究で、薬物代謝酵素CYP2D6などの多型と薬剤の標的であるβ受容体の多型を解析します。第三は抗うつ剤として近年急速に使用が増大しているSSRIとSNRIの効果の個人差と関連する遺伝型を追及する臨床研究です。国立医薬品食品衛生研究所との共同研究で25個のSNPsでゲノムワイドに探索しています。
 
 第四はワルファリンの初期投与量決定のためのアルゴリズムの検証のための、前向き研究です。ワルファリンの効果と副作用である出血傾向を決めるVKORC1とCYP2C9の遺伝型の情報を、どうやって組み合わせたら日本人の集団でもっとも有効にそして安全にワルファリンの投与量を決定できるのか?
 
 遺伝型に加えて、体重や性別など多様な医学的なパラメーターを盛り込んで、患者さん毎の初回投薬量を決定する式の正しさを検証する研究です。ファーマコゲノミックス(PGx)に関係する遺伝型が分かっても、このような現実的な臨床判断に貢献する式がなければ、個の医療は進みません。極めて重要な研究であると思います。
 
 最後の研究は、日本禁煙学会とその学会員の協力の下、合計1500症例を集める大規模臨床試験です。目的は近年実用化してきた禁煙補助薬の効果とニコチン依存を形成する遺伝型との関係を明らかにするものです。
 
 実際には、2種の禁煙補助薬、ニコチンパッチとバニクレインの効果を、ニコチンを代謝するCYP2A6の遺伝型(活性が高いほど依存性も増す)と神経伝達物資の受容体16種の遺伝子の27種以上の遺伝型との相関関係を解析する研究です。
 
 近日中にも臨床研究が始まります。これは個の医療として画期的であるばかりでなく、今までハンチングトン舞踏病のような単一遺伝子疾患を除き、全ゲノムにわたる遺伝子解析で得られたどの遺伝子や遺伝型よりも、疾患のリスクを高める喫煙を合理的に防ぎ、禁煙に導く、最も有効な慢性疾患の予防法となる意味でも重要です。
 
 問題はこうした個の医療の実現のために、ボランティアで参加していただける患者さんの数が必ずしも多くないことです。患者さんを集めるには、どのPGxの研究でも本当に頭を悩ませています。
 
 まずは市民の啓蒙から。その意味では、現在、京都大学医学部附属病院の倫理委員会が審査中の長浜市を巻き込んだPGxの臨床研究は、ゴーサインが出れば、画期的な試みとなります。何しろ、市の条例まで作ってしまいました。詳細は、次号以降にご報告いたします。
 
 日本でも新しい一歩を踏み出す人々が出てきました。
 
 今週も皆さん、お元気で。