写真:日本遺伝学会が開催された名古屋大学の案内表示。そうとう頭が良くなければ理解できない。これも一種の入学資格試験なのかも。
 バイオテクノロジーの基礎は言うまでも遺伝であります。9月3日から5日まで名古屋大学で開催されている日本遺伝学会に取材に行ってまいりました。果たしてわが国でもバイオの次世代の技術革新は萌芽しているのか? 言葉を変えれば、どれだけクレイジーな議論をしているのか?それを確かめるのが目的でした。さてその結果は?
 皆さん、ご安心を。日本遺伝学会は充分クレージーでした。本当に純粋な知的好奇心の量と多様性で日本もまだまだ世界と対抗できます。安心しました。
 特に今年のワークショップは秀逸でした。行動生物学、実験進化、生物時計、転移因子・RNAサイレンシング・進化、DNAトランスアクション、脳・精神文化・・ヒトと進化の係わり、植物のエピジェネティックスなど、魅力的なテーマが並んでおりました。実際、進化やRNA、行動生物学からは
遺伝学と日本遺伝学会の将来に向けてというセッションもありました。
 臨床医学系や応用生物学系の学会では海外の二番煎じが多くて、「日本は遅れている」という危機感を持つことが多いのですが、今年の日本遺伝学会は、生命の根本を突き止めようとしておりました。産学連携やトランスレーショナル研究を強調する余り、こうした純粋基礎が大学の片隅に追いやられている風潮があるのが残念です。勿論、社会なんて関係ないという世捨て人は大学にも不要ですが、純粋な好奇心を捨て、利益にだけ短絡的に走る研究者は大学には無用だと思います。大学は企業にできないことをやらないと、社会は発展いたしません。
 さて私も大学院で習った、東大植物学科の飯野徹雄名誉教授追悼ワークショップ「組み換えDNA実験の安全性を考える」も重要な試みだと思います。全国的に組み換えDNA実験のガイドラインに対する理解が希薄となり、いい加減になっている現状に危機感をもっと皆さんが持つべきだと思います。神戸大学で今年、廊下で組み換え微生物を培養していたことと、組み換え微生物を遠心分離した上澄み液を下水に無処理で捨てていたことが発覚、現在、実験停止、全学処分の決定を待つ教授がいることはご存知の通りです。また、最近、皆がガイドラインを遵守しないため、怒って学内の組み換えDNA実験の審査委員長を辞職した例もありました。
http://www.kobe-u.ac.jp/info/messages/m2008_05_10-statement.htm
 規制緩和の進んだ米国の常識と日本のガイドラインの差に余りに無頓着だったため、研究人生を棒に振るはめになった悲劇です。今回のワークショップで何が語られたか知りませんが、わが国でもこれだけ実験例を蓄積している訳ですから、積極的な規制緩和を働きかけるべきでしょう。
 もっと重要なことは、その前にわが国で遺伝子操作実験を行っている研究者に、ガイドラインがどういう歴史的な経緯で創られ、それを遵守することで、リスクと倫理的な議論がある遺伝子操作研究を社会が受け入れたのかという教育を徹底すべきだと思います。
 現在のずぼらと放埒を認めていて、ただ規制緩和だけを主張するのは、遠吠えに過ぎませんね。アイデアはクレージーで構いませんが、実験は本当に堅実に願います。
 文科省の調査でも、今年だけでも神戸大以外に、東北大、近畿大学、日大に厳重注意が行われています。しかも、組み換えHIV、組み換えワクチニアウイルス、組み換えシンドビスウイルス、そして組み換え狂犬病ウイルスと、おぞましい名前が並んでいます。元々のボタンの掛け違いは、きちっとした国のバイオハザード取り扱いガイドラインなしに、組み換えDNA実験指針(今はカルタヘナ議定書)に、危険な生物の取り扱いの責任をすべて擦り付けたことにあります。組み換えていなければ、杜撰な扱いが法律やガイドライン的には許される情況も酷いもんです。
http://www.nicer.go.jp/lom/data/contents/bgj/2008062310008.pdf
 とにかく、もう一度妥当な組み換えDNA実験のガイドラインとバイオハザードの取り扱いガイドラインの作成と、研究者に対する教育を図るシステムを早急に創り上げなくてはなりません。これはバイオ研究者の義務だと真剣に思っています。失敗すると、馬鹿げたことに外国でしか実験できなくなると思います。
 さて最後に、経産省が500億円、来年度予算にイノベーション創造機構の費用として申請することを決めました。2010年度にも500億円要求し、合計1000億円を国が支出、民間の1000億円を加えて、2000億円がわが国の先端産業と資源産業に注入されます。バイオも最低200億円の投資が行われる見込みです。今まで凍り付いていたバイオベンチャーにも温かい血流が来年には流れ込みそうです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/5707/
 どうぞ期待願います。