先週の金曜日、涼しい仙台で遺伝子診療学会に参加していたところ、突然の訃報が届きました。独立行政法人医薬品医療器機総合機構でバイオ医薬や細胞医薬の認可のエンジンとして奮闘していた、同機構生物系審査第一部長の田中克平氏が、齢50歳という若さでお亡くなりになったのです。
 正直、呆然としております。
 同氏がバイオ医薬や細胞医薬の実用化に果たした役割は極めて大きく、ともすれば保守的に傾きがちな規制当局の中で、技術革新を支援する立場を鮮明に奮闘していました。田中さんの努力なしには、わが国のバイオ医薬や再生医療の夜明けはいまだに到来していなかったと思います。
 ジャパンティッシュエンジニアリングの自家培養皮膚細胞「ジェイス」が、昨年10月3日に認可されたのも、田中さんの安全性に対して厳格でありながら、前向きな審査がなければ実現しなかったと思います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7379/ 
http://www.jpte.co.jp/ir/press/20071003.html
 断じて申し上げますが、これは企業との癒着ではありません。田中さんが前向きに革新的な細胞医薬を応援したのも、患者さんにとって新たな治療選択が与えられるからです。「選択肢を拡げることが重要だ。勿論技術革新にはリスクが伴う、リスクも提示して患者さんと医師の選択に委ねる」と田中さんはいつもおっしゃっていました。一刻も早く、病に苦しむ患者さんを救うという思いが、田中さんの奮闘のエネルギーでありました。
 規制当局に存在する守旧派の多くは、変化を嫌います。官僚の宿痾ともいうべきものですが、こうした変化を嫌った結果、わが国は世界で今起こっている生命科学のイノベーションを取り込むことに失敗、世界で発売されている有力新薬の30%以上が使用できないというドラッグ・ラグを生じてしまいました。守旧派によるサボタージュ(いろいろもっともらしい理由はつけます)が、結局は患者さんの選択肢を狭め、他国であれば救える命も失われている現状を認識しなくてはなりません。
 エイズ薬害訴訟や最近の薬害肝炎訴訟でも、前者は当時の血液製剤課長の不作為が、後者は政府の薬害とその拡大を防止できなかった責任が問われていることを忘れてはなりません。生命科学の分野で具体的に患者を救うことができる技術革新が急速に進んでいる今、足踏みしていることは罪であることを再認識していただきたい。田中さんの死を無駄にしない一番の方策だと思います。
 「ジェイス」の正式認可を受けて、まったく同じ技術で製造した米Gemzyme社の自家培養皮膚細胞「Epicel」を、わが国に遅れること約1ヶ月の2007年10月29日に、米食品医薬品局が認可しました。このことを語る田中さんの顔の輝きは今でも思い出すことができます。わが国でも、世界をリードして生命科学の技術革新を安全性を確保しながら、前に進めることができるという確信がそこにはありました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/8013/
 厚労省も総合機構も、決して規制科学のレベルでは世界に引けを取りません。しかし、その質の高い知見を患者さんの選択肢を拡大し、国民の福祉と幸福を増大させるために善用するという哲学を欠いては、単なる衒学どころか、技術革新のブレーキとなることは自明であります。
 どうぞ良き後輩達が田中さんの哲学を受け継ぎ、わが国に僅かに灯っていた医療や医療器機の進歩を導く松明を再び高く掲げていただきたい。そう強く心の中で祈って、田中さんのご冥福を願いたいと思います。
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