写真:神戸には神戸には涼しげな水遊びの場所が多い。新神戸の駅裏の川の畔。しかし、こうした自然にはリスクがある。
 神戸大学100年記念館で、この原稿を書いております(関連記事)。
 一昨日、鉄砲水で子供が4人犠牲となった都賀川の上流にあたる六甲川の近くです。神戸大学は斜面に建つ大学で、六甲川はまるで階段のように水が小さな滝を形成しつつまっすぐ流れています。これでは上流を豪雨が襲ったら、もう一本の川と合流し、都賀川に一挙に流れ込むはずです。
 洪水を防ぐ河川の整備が、鉄砲水の原因になったことは誠に不幸な結果です。しかし、こうした構造を持つ河川の下流に親水公園を作った以上は、神戸市や河川を整備した機関は、住民に鉄砲水のリスクを広報しなくてはならなかったと思います。きっと子供達も親も鉄砲水という言葉すら知らなかったのでしょう。自然のエネルギーレベルは、ヒトを圧倒する大きさです。私達は自然を畏れる知恵が必要です。
 個の医療でもリスク開示は重要です。
 日経バイオテクオンラインで、このところ大腸がんの抗体医薬「アービタックス」の使用対象を、K-ras遺伝子の野生型の患者に限定すべきであると主張しております。実は、K-ras遺伝子の突然変異を持つ患者にこの抗体医薬を投薬すると、治療効果がないだけではなく、生存期間が短縮してしまうというリスクがあるためです。これは国際共同治験「CRYSTAL試験」でそのリスクが明らかになりました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/3572/
 従来の「ハーセプチン」などの投薬しても効果が無い患者を選別する個の医療とはおもむきが異なります。「アービタックス」も効果がある、つまり抗体医薬の標的分子である上皮細胞成長因子受容体陽性患者に使用が限定されています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/4766/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/4690/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/4223/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/4094/
 問題は、こうした事実がありながら、我が国では厚労省は08年7月16日に、K-ras遺伝子の変異型にまったく言及せずに、「アービタックス」を認可してしまった点です。米国とまったく同じ適応条件ですが、米国では2006年3月1日に認可しており、この段階ではK-ras遺伝子変異と効能効果やリスクに関する研究成果は皆無でありました。
 まったく対照的に、欧州医薬品庁は1週間後の7月23日に、K-ras遺伝子の野生型患者に限定して、販売認可を与えました。
 急速に進展する個の医療では、タイムリーな情報共有が重要となります。
 集中豪雨という緊急事態に対応できなかった神戸と同じ体質を日本の厚労省や医薬品機構などが持っているとしたら、今後も我が国の国民に大きな犠牲を強いることになります。国も製薬企業も、ここは時差を埋める努力をしなくては、大きなしっぺ返しをくらうことになるぞ、と警告させていただきます。
 神戸も暑い。まったく汗だくになりそうですが、どうぞ皆さん、お元気で。