まずは注目ニュースです。
 組み換え血小板由来成長因子を添加した軟膏で、がんの死亡率が有為に上昇し、米食品医薬品局が添付文書を改訂し、リスクを警告しました。発売後11年経って副作用が明確に認識されたのです。現在、商品化もしくは臨床開発中の成長因子製剤に影響が出る可能性があります。いずれにせよ、日本が世界をリードしている市販後調査の重要性が認識されました。詳細は下記よりアクセス願います。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/3649/
 さてバイオです。
 食糧価格高騰を受けて、6月6日まで、イタリアRomaで開催されていた食糧サミットの議論の中心は2つありました。第一は食糧生産国の輸出制限の撤廃、そして第二はバイオフューエルでした。
 「国際的な食糧不足には遺伝子組み換え農産物(GMO)で対抗する」と米国農務省長官が盛んに発言を繰り返しています。先月、東京で開催されたライフサイエンスサミットでも、米国大使が「日本人はGMOに対して理解不足だ。このままでは世界から取り残されるぞ」と恫喝までは行きませんが、かなり強い口調で警告しました。これは、私の主張もまったく同じですが、他人に言われるとむっと来る、つまらぬ愛国心も残っていました。食糧価格の高騰を背景に、今後、米国がGMO攻勢に出ることは間違いないでしょう。今年、組換えナスの商業栽培を認可し、可食GMOにゴーサインを出すインド。そして、組み換えイネの商業栽培技術を完成し、アジア周辺諸国に与える影響を瀬踏みしならがら、商品化のタイミングを見計らっている中国も、組み換えイネ解禁に踏み切る可能性もあるでしょう。
 本当にこのままでは我が国の国民だけが精神的なGMO鎖国をしている状況となってしまいます。
 GMOの安全性の問題は商品化して14年経ち、あれだけ全世界で多数の人々が食経験が積まれてきました。もはや遺伝子組み換えの技術自身には問題がないと考えます。また、GMOの安全性評価の原則である、導入した遺伝子と宿主の組み合わせで安全性を評価するという考えも妥当であったと証明されたと思います。
 我が国でGMOを国民が受け入れる最大の問題は、消費者の知る権利を正当に保証することができるGMOの表示制度の導入です。現在の意図せざるGMOの混入5%未満は非表示はそろそろ再考すべき段階に来たと思います。米国の穀物の流通システムの杜撰さ(5%の混入は避けられない)と100万粒に1粒のGMOの混入も理論的には検出できるPCRの高精度の妥協の産物として、当時の農水省が米国からの強い圧力の下に樹立した表示制度が、この10年間に生んだものは結局、見かけ上GMOを私達は食べていないという思い過ごしを持った国民だけであったのです。実際には世界最大のGMO輸出国である日本の国民は自分達だけは遺伝子組み換えという技術革新に背を向けても生きていけるという幻想抱いています。海外から見ればこれは漫画に過ぎません。
 当時は、消費者も、食品加工企業も、生産者も、そして米国も、満足させる素晴らしい表示制度だと自画自賛していた農水省ですが、結局臭いものに蓋をする表示制度が生んだものは、農業の技術革新を受け入れる知恵を持たない愚民達でした。今や世界に冠たるイネ・ゲノム解析(本当は世界で3番目)の成果ですら、組み換えイネの試験栽培に反対派が押し寄せ、風評被害(これは現行の表示制度が生むものです)を恐れた新潟県が事実上の組み換え作物栽培禁止条例を制定するなど、実用化を阻む壁に取り囲まれ、自縄自縛の状態に陥っています。
 一刻も早く、表示制度の改正を行い、信頼に足る制度と国民に対する教育活動を進めなくてはなりません。また、米国ではまだ続けて居ますが、大規模にGMOを栽培した時の遺伝子拡散防止の研究など、我が国の環境でのGMOの栽培管理の研究開発も行う必要があります。
 技術革新には勿論リスクがあり、それを最小限に抑えるための制度や投資が、国民のGMOへの信頼の基盤となります。これなしに、「地球的な食糧危機だから」という感情的な理由だけで、GMOの実用化をごり押しすることは危険です。米国からの生後30ヶ月以上の牛肉を漫然と受け入れた韓国の季大統領が支持率急落で、窮地に陥っていることを教訓にしなくてはなりません。
 人間の食糧を原料とするバイオフューエルはおのずから限界があります。余剰農産物を原料にしている間はコストも抑えられますが、一度、不足感が生じたり、今回の米国サブプライムバブルの崩壊で投資先を見失った投機的資金が穀物相場に流れ込むだけで、農産物価格の暴騰を引き起こし、安定的にコストに見合うバイオフューエルを生産できなくなる危うい構造にあることを忘れてはなりません。
 人間と競合する原料を使った燃料生産はローカルエネルギーとしては成立すると思いますが、グローバルなエネルギー源としては成立しないことを認識すべきです。
 とうとうルマン24時間耐久自動車レースでも、オランダRoyal Dutch Shell社が、燃料にバイオ燃料を提供すると発表しました。インディ500に続くものです。消費者の心は既に環境に魅せられています。エコのうねりは世界中の総ての産業に波及するでしょう。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/3589/
 それだけに、非食糧(セルロースなど)を中核としたバイオフューエルの技術革新と流通技術など使用技術の革新を急がなくてはなりません。木質資源など我が国にも勝機はあると確信しています。
 先週、大阪で行われたバイオビジネスコンペJapan2008の最優秀賞受賞者は2件とも環境バイオでした。目先の利くアントレプレナー達は既に、新しいバイオの出口に殺到しております。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/3555/
 どうぞ、今週もお元気で。 
ps 塩野義のFINDSも締め切りまで21日に迫りました。是非ともご応募を願います。
http://biotech.nikkeibp.co.jp/bionewsn/detail.jsp?newsid=SPC2008060956025