現在、ナノ学会を取材するため、福岡に飛んでおります。
 GWは必ずしも東京は好天に恵まれた訳ではありませんが、体の節々が痛いほど晴れの合間に運動いたしました。皆さんはいかがお過ごしでしたか?
 伊達選手の復帰がなによりも、テニスのシニア層には刺激となりました。私同様、友人達も脚を痙攣させるほど励んでいました。「いつも練習の終わりには『疲れた!!』と叫んで、伊達選手はラケットを杖代わりにコートを足を引きずりながら去っていた」と若手選手が指摘しています。こうした厳しい訓練を1年間重ね、満を持してコートに立った伊達選手の思いが、ただテニスが好きだから故であることを祈っています。
 「私を早く追い越して欲しい。日本の女子選手に刺激を与えたい」という伊達選手の主張を嫌味だという人も居ります。現役の選手にとっては対戦すること自体、必ずしも歓迎すべきことではないかも知れません。しかし、これは素直に好敵手が戻ってきたことに敬意を払うべきだと思います。そして遠慮会釈無く伊達選手を倒すことで、現在の女子テニスの停滞を破っていただきたい。現在、伊達選手は福岡で転戦中です。昨日はダブルスで一回戦敗退でした。しかし、会場は満員の観客で溢れました。
 今まではプレスに無愛想で有名だった伊達選手でしたが、最近の記者会見は別人のように爽やかで、知的でした。日本にもとうとうナブラチロワのような大人の選手が誕生したのです。世界ランキング100位以内に躍り出た錦織選手とあわせ、再びテニスにブームがやって来る予感がするではないですか。前回のブームが「テニスの王子様」という漫画がきっかけでした。
 それだけに、今回のブームはずしりと本物の手応えがします。
 さて個の医療です。
 何故、福岡に今飛んでいるのか? 言い訳に聞こえますが、これは決して、伊達選手を追っかけているためではありません。個の医療の実現のためにも、ナノバイオ発展が不可欠であるためです。奇しくも、このタイミングに日本ナノ学会が九州大学で開催されているのです。本当に。
 個の医療がナノバイオに期待する最大のものは、コストダウンと遺伝型検査の多項目化であると思います。これから医学に猛烈な技術革新が起こりますが、国民の所得はこの技術革新を補うだけ伸びないのが問題です。
 生産技術の技術革新なら、技術革新が財そのものを生み出すために、収益から再投資するポジティブフィードバックがかかるのですが、医療の技術革新は人の命や幸福の増進といった貨幣経済の外にある価値、本当はこれこそが人類最高の価値ですが、プライスレスであるために、技術革新そのものが財を直接生む関係になく、再投資もしがたい状況にあるのです。唯一、医療技術革新で財を稼ごうとすれば、国内で政府や個人が支出していた需要を振り替えるか、海外に医薬品や医療用具を輸出する以外に道はない状況です。
 ICHによって新薬の市場が先進国では統合されつつある現在、市場拡大の圧力は勢い中進国となりますが、昨年、タイがAIDSの治療薬の特許に対して強制実施権を行使し、特許を無視して人道的な立場からAIDS治療薬の供給に踏み切ったように、他の技術革新のように、「正当な価値を支払わなければ供給しないぞ」と言えないところが、バイオの技術革新の辛いところです。医療にしろ、食糧にしろ、環境にしろバイオの技術革新は、人類にとって本質的であるが故に貨幣経済のごり押しだけで市場が作れない。当たり前ですが、こうした矛盾を解決するビジネスモデルの創造も個の医療の実現でも不可欠であるのです。
 ナノバイオは、反応単位を極少に近づけるため、反応時間を短縮化し、さらに反応試薬やサンプル量なども節約できます。これは今後、遺伝型やバイオマーカーなど測定する対象数が増加すれば、するほど、コストを削減する必要もでてくることを考えると極めて重要だといえるでしょう。
 かつてのガン血清診断薬のように単一のバイオマーカーの測定で、病態や罹患可能性などを把握することは困難であることは証明済です。多数のバイオマーカーと遺伝型のプロファイルによる診断がやがて実用化するでしょう。
 将来、3分間で3000項目を測定するプロファイルなどが実用化した場合、1項目1000円でも300万円の診断料を課すことなどできる訳はないと思います。ナノテクによるコスト削減と時間削減は喫緊の課題であると思います。現在、開催中の学会でも、微小化生産技術ではバイオの遥か先を行く、半導体製造技術とバイオが融合しつつあります。こういうところこそ、我が国のお家芸かも知れません。
 松下電器はフェリチンを使った量子ドットによってシリコン基板上にトランジスタを作製することに成功しています。技術レベルから言えば、現在のシリコン半導体製造プロセスに導入できるレベルまで、たんぱく質を使った量子ドット製造技術とアドレッシングの技術は進展しています。あとは事業リスクをとれるビジネスモデルを編み出せるかの一点にかかっているところまで来ました。
 実は既にナノテクノロジーは、個の医療の実現に米国では貢献しています。
 昨年7月に米国食品医薬品局は、抗凝固剤ワルファリン「Coumadin」の初回投与量を決定するために、チトクロームP4502C9とVKERC1(ビタミンK)の遺伝型を検査することを添付文書に記載しました。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/6395/
 ワルファリンは最適投与量に個人差があり、しかも出血の副作用があるため、初回投与量を決めることが難しい医薬品である。安全性を確保しつつ、有効性も確保するために、2つの遺伝子の遺伝型を確かめることが重要となるのです。
 昨年9月に、米国で診断薬として初めて認可された、この2つの遺伝子の遺伝型判定キット「Nanosphere Verigeneワルファリン代謝核酸検査」は、その名の通り既にナノテクノロジーを活用したものでした。直径13nmの金粒子の表面に遺伝型を検出するDNAプローブを結合し、特定の遺伝型のゲノムDNA断片を検出します。実際には、特定の遺伝子DNAを細くするキャプチャーDNAプローブと金ナノ粒子DNAプローブで、患者のゲノムDNAをサンドイッチするように挟み込んで検出します。最終的には、銀イオンを金ナノ粒子に結合させて信号を増幅し、直接検出します。そのため高感度解析が可能となりました。ナノはやはり、個の医療の友です。
 詳細は米Nanosphere社のホームページと下記の記事をご覧下さい。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/7087/
 ナノバイオの実用化は既に始まっています。それは個の医療の普及のための重要な基盤となることをどうぞ認識願います。
 明日もナノ学会を取材後、東京に戻りますが、伊達選手が健闘しているはずの博多の森のテニスコートは福岡空港になんと隣接しています。果たしてまっすぐ戻れるか? それだけが心配です。
 今週もどうぞお元気で。 ps 大阪商工会議所の支援で、6月にBIO2008に参加するミッションを派遣します。今回はお隣のアリゾナ州に足を延ばし、医薬品の臨床開発を迅速化する技術やシステム開発のために米食品医薬品局も参加して創設されたCritical Path Instituteを見学するのが目玉です。どうぞご一緒いたしましょう。詳細は下記よりアクセス願います。
http://www.osaka.cci.or.jp/Seminar_Event/bio2008_mission/index.html