昨日、東京プリンスホテルで開催されるライフサイエンスサミットに向う途中で、仙台坂の入り口で多数の警察車両と機動隊による厳重な警戒態勢が気になりました。入り口が紺一色に埋まっている感じです。現在来日中の李韓国大統領の警護であることは、坂の途中に韓国大使館があることで容易に推定できました。しかし、あまりに厳重です。
 気になって調べてみたら、なんと韓国大統領と胡錦濤中華人民共和国国家主席来日、そして洞爺湖サミットに対して、極めて厳重な警戒態勢を我が国の政府が敷いていることが明らかとなりました。しかも、バイオテロまでを想定した厳戒ぶりです。私達がお気楽に過ごしているのかもしれませんが、世界は目に見えないところで緊迫しているのです。
 バイオインダストリー協会(JBA)のホームページを見ると、警視庁警備局長の経済産業大臣に対する警備協力要請に応えて、同省製造産業局長がJBAに対して、バイオテロを警戒し、病原性微生物などの管理強化を適切に行うよう、08年4月3日と4月16日に通知していました。
http://www.jba.or.jp/top/top%20data/080414_tohyako_summit.pdf
http://www.jba.or.jp/top/top%20data/080418_korea.pdf
 こうした緊迫した雰囲気の中、神戸大学医学部での組換え大腸菌を滅菌処理せず、そのまま下水に廃棄していた事件が発生しました。世間は緊張しているのに、世間から隔絶した大学ではまったく、規律も社会的な責任も弛緩していたことが明白となってしまったのです。確かに、報道される限り、この組換え大腸菌が下水で生き残り、環境を汚染する可能性はほとんどないと思いますが、大学の常識と市民の常識の格差に愕然とします。しかも、市民に対する説明責任もせず、自分の都合を押し付けるだけの研究者は、義務を怠り、権利を主張する”モンスター研究者”に過ぎません。
 2008年4月11日に新聞報道されていますので、皆さんもご存知だと思います。神戸新聞の報道では6年も前から教授の支持で行われていたという学生のコメントまであり、呆れるばかりです。関係者に取材をお願いするメールを出しましたが、現在までになしのつぶて。よっぽど困惑しているのか、思考停止となっているのか?
http://www.kobe-np.co.jp/news/shakai/0000933092.shtml
 この結果、神戸大学全学部で遺伝子操作実験が一時停止されました。バイオ関係者は、日本の遺伝子操作実験の指針が欧米に比べて厳しすぎると不平を漏らしていますが、もしそうなら、自分達が遺伝子操作が開発されて33年も経過し、意図的な場合を除き、遺伝子操作によって想定外の生物は出現せず、安全性は使用するプラスミドと遺伝子から十分推定できると主張し、納得に値する証拠を提出して、我が国の遺伝子操作実験指針を改定すべきでしょう。今回の事件を、他人の迷惑に思いが及ばない世間知らずの神戸大学の一教授の責任(しっかり調査後、事実関係を確かめて、本人は処断すべきですが、大学のこうしたスキャンダルは人間関係のもつれによる場合もあるので、十分に調査、本人からも反駁させた後に処分すべきです)だけに終わらせる訳には行きません。
 現在の遺伝子操作を行っている研究者が、時代遅れのガイドラインに対して、改訂の声を上げる必要があるでしょう。但し、世間は現在、バイオテロで緊迫しています。つまり、皆さんのもう一つの責任は、一般市民に対して遺伝子操作とは何か?何故必要か?そしてどんなリスクがあり、それを歴史的に管理し、実際には想定外の事故が起こっていないことを説明しなくてはなりません。
 昭和電工が引き起こした組換えトリプトファン事件についても、一人ひとりの研究者が理解し、市民に説明できなくてはなりません。それがしんどいとか、無理だというなら、現在の遺伝子操作実験指針を遵守するしかないと、私は思っています。社会を教育しないと、皆さん自身の研究も窮屈になる現実を認識していただきたい。
 昨日のライフサイエンスサミットの最大の収穫は、本庶佑総合科学技術会議議員が、我が国のバイオマスエネルギーの研究には組換え植物の研究は不可欠だが、組換え食品や植物に対して高校教師(家庭科、社会科)と中学教師(技術家庭科、)の8割以上が否定的だと指摘した点です。しかも、中学の理科教師は70%、高校の生物教師も半数が否定的でした。これは全国から抽出した8000人の教師を対象にした調査で、4060人が回答、統計的に有為な調査結果です。
 良心的な東大の農学部教授が、今までの努力不足だったとがっくり肩を落としたのが印象的でした。
 「日本にはモンスターペアレントや患者のように、自分の権利だけ主張し、義務を負わない人々がいる。こうした人々に気兼ねをして科学的な正論を引っ込めるのは筋違いだ」という主張もあり、大きく組換え植物に対する社会教育をすべきという気運が盛り上がりました。
 今年になって給食費も支払わないモンスターペアレントの報道が行われた結果、学校でのトラブルは激減しています。組換え植物に対する反対派も、既に1994年から米国国民が組換え農産物を食べつつけ、世界では我が国の耕作面積の3倍も栽培されている事実を見れば「これ以上確かな組換え植物の安全性はない。我が国独自の追加実験も個人的には不要だ思う」と(本庶総合科学技術会議議員)の意見を直視すべきだと思います。勿論、技術革新に対する正当な疑義や反対は、技術革新の社会への浸透とリスクの管理を促進します。
 但し、このままいつまでも反対して、自給率40%割れの現実に目を背けていると、日本だけのために非組換えGMOを生産する農家は減少するだけです。しかも価格は高騰しつつあります。遺伝子操作という技術革新を受け入れずに、日本人をどう食わせて行くのか?モンスターGMO反対派にならないために、回答を迫られていると思います。
 生協では既に遺伝子組み換え不分別の表示をした食品が良く売れているという現実もあります。そろそろ組換え植物の社会的解禁に向けて、一歩踏み出す時期だと思います。今そこにある食糧危機と地球温暖化に備える責任があります。 (宮田満)