写真:急成長中のジェネリック大国、インド。バイオ新薬にも果敢に挑戦中。インドやロシアやエジプトなど中進国のゲートウェイとしても重要となっている。
 バイオの世界の変遷はめまぐるしい。
 組み換えヒトインスリンの製造で1982年に、世界で初めてバイオ医薬を世に送り出した米Elli Lilly社が、組み換えインスリンと組み換え副甲状腺ホルモンの製造部門を中心にリストラを挙行することを、2008年4月17日発表した。一部研究開発部門も含み、主に製造部門のスタッフに対して500人の退職勧奨を行うことを発表しました。バイオ医薬の売上比率25%超の”25%クラブ”の優良企業でも、生産性向上とぎりぎりのコスト削減は要求されています。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/2166/
 この背景には、2006年4月に欧米で相次いで商業化が承認されたバイオジェネリック(バイオシミラーとも呼ぶ)の認可による、既に特許切れしている組み換えインスリン、成長ホルモン、インターフェロン、エリスロポエチンなど第一世代のバイオ医薬の市場縮小があるのです。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2003/6054/
 2006年以来、バイオ医薬は普通の医薬となった、ことを認識しなくてはなりません。
 「リタキサン」、「レミケード」など、時代遅れとなったキメラ抗体医薬を除き、総てのバイオ医薬にはバイオジェネリックの開発が進んでいます。そしてバイオジェネリックの主役は、インドや中国のバイオ企業となることは確実です。私が先月インドに行った訳の一つでもあります。
 わが国の企業も、米Millennium社や米GMI社の買収で、2010年問題を乗り越える手を打つことは結構ですが、買収した相手先を見ると、彼らも小さなベンチャー企業などから導入してパイプラインを集めたミニ商社的企業です。あたかも巨大商社が弱小商社を買収し、商圏を拡げたというのが、武田とエーザイの買収です。市場が急速にグローバル化し、わが国の製薬市場が縮小し、尚かつゾロ新戦略で世界市場に打って出た主力商品が2010年前後に特許切れし、米国市場の収益がほぼ雲散霧消してしまう現状では致し方ありません。しかしこれは弥縫策に過ぎないことも現実です。しかし、こうしたことを繰り返していては、利幅は低減しますし、本質的な国際競争力を失うことになります。次の10年の新薬は買収相手企業の在庫から見いだすことはそんなに容易ではないでしょう。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2004/9852/
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/1967/
 例えばMillennium社の唯一の商品である抗がん剤、プロテアソーム阻害剤、「Velcade」は、米Myogen社がProScriptという名称で創成したものでした。元米Genetics Institute社のスピンアウトが創業したMillennium社の設立は、私が実は国際的にスクープしたものです。今でも米国から直接携帯に電話がかかってきたことを懐かしく思い出します。彼らは一足先にゲノム創薬という概念を提唱し、新しい標的を多数の製薬企業から受託して提供するビジネスモデルはその当時は極めて斬新でした。しかし、創薬標的のゲノムデータベースがここまで公開が進んでくると、彼らの提唱した生物学をベースとする創薬標的の探索はそんなに独自性を確保できるものではなくなったのです。バイオの世界の進歩の早さの恐ろしさでもあります。GMI社も独創的な創薬基盤は必ずしも充実していません。
 テクノロジーでなければ、新薬をいくつも連発できる特異な才能、目利きが重要となるのですが、よほど日本企業が買収を上手くやらないと、その目利きが流出する。それが外部からはよっぽと人脈に精通しているヒトでなければ分からないことが問題でしょう。今回、わが国の製薬企業が買収した企業の成否は、ひとえに目利きを維持できるかにかかっていると思います。発表の自由、迅速な意思決定、収益の分配など、わが国の固有な伝統を押しつけると、頭脳流出が起こるでしょう。
 今回の武田、エーザイの買収で、ひょっとしたら一番期待できるのは、武田やエーザイなどの企業の統治システムの一層の国際化ではないかとすら私は思っております。
 さてもう一つ。そろそろわが国の製薬企業トップでも気がつき始めたのですが、自社が国際的な創薬を推し進めるためにも、世界で二番目という巨額な生命科学研究費を投入しているわが国の大学や研究機関からスピンアウトしたベンチャー企業の育成が、次の15年の飯の種を生むという認識です。こうしたベンチャー企業の背景にある大学や研究者とのネットワーク形成の重要性も認知されるようになりました。
 武田薬品も昨年、Canbasという静岡のベンチャー企業と共同開発を始めました。これによって創始者である名古屋市立大学の研究者を通じて、米国の最高のガン臨床研究者とネットワークを得ました。また、エーザイはエムズサイエンスと提携、最も成功した場合、400億円に迫る契約を行っています。両者の2010年問題のバタバタに目を奪われると、本当に大切な動きを見失います。
 当面の出血の手当を終わった両社が未来に向けてどんな投資や自社開発を行うか?そこにこそ注目すべきでしょう。
 明日は大阪大学の寄附講座の取材に、明明後日は熊本を訪問します。
 東京も美しい青葉の季節となりました。皆さんもどうぞ美しい初夏をご堪能願います。
 目に青葉、山ホトトギス、初がつお
         Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満
 今年も、大阪商工会議所がBIOの視察団を派遣します。  今回の目玉はアリゾナ州政府前面支援の下、FDAがアリゾナ大学と共同で創設したクリティカルパス研究所を訪問することです。臨床開発を加速するための、制度や技術的な研究の中心に直接訪問いたします。  勿論、世界のバイオを知ることができるBIOにも参加いたします。6月15日から21日、米国にご一緒いたしましょう。  詳細は下記のリンクをご覧下さい。一読の価値はあります。http://www.osaka.cci.or.jp/Seminar_Event/bio2008_mission/index.html   
 毎朝、パワーブレックファーストで、本日の見所や昨日の成果の情報交換もいたします。これはきついが、役に立ちます。一人でも多くの方のご参加をお待ちいたします。