写真:先週、名古屋国際会議場には2000人以上の研究者や企業関係者が押し寄せた。第7回再生医療学会の目玉は、iPS細胞の発見者、京都大学iPS細胞研究センター長の山中伸弥教授。この他、2つの会場にTV中継され、いずれもほぼ満員盛況でありました。再生医療に再び熱気が戻ってきました。
 iPS細胞(Induced Pluripotent Stem Cell)の正式な日本語名称はご存知でしょうか?
 どうやら最近、変更されたらしく、日経バイオテクの編集部では大騒ぎとなっています。しかし、学術用語をこんなに簡単に、しかも根拠も薄弱に変えて良いのか?日本政府やメディアはやり過ぎであると私は思います。大衆迎合も良いところです。もし学問に敬意を払うなら、愛称の変更に止める節度を保つべきであると私は思います。皆さんはどう思いますか?

写真:講演後、しばし楽屋裏の山中教授。少し痩せた印象です。このインタビューの詳細は、Biotechnology JapanのホットニュースサイトとBTJアカデミックで報道いたします。こうご期待。力みましたが、少し掲載まで時間をいただきます。
 さて、最近変更を迫られた、iPS細胞の和名は、人工多能性幹細胞でした。山中教授に伺いましたが、どうやら、誘導多能性幹細胞という日本語は、「分かり辛いと言われた」というのですな。教授の表情にやや困惑が浮かんでいたのが印象的でした。「じゃ、英文はaPS細胞ですか?」というぶしつけな質問に、「いやいや英文は今のままiPS Cellです」と山中教授は釈明しました。
 新しい彗星を発見した研究者やアマチュア天文学者にはその名前とつける名誉が与えられます。生物学や医学でも新しい細胞や疾病を発見した研究者に命名権が認められます。当然、それぞれの研究者は、長考した後に思い入れや学問的に意味のある名前を付けます。iPS細胞に関しても、成人の分化した細胞から、人為的に誘導して、多能性を回復した幹細胞という意味がありました。学者のこの思いを私は尊重すべきであると思います。総ての原因は解明できた訳ではないが、人為的に誘導することが可能であったという、生命現象に対して謙虚な態度が誘導多能性幹細胞の名前には込められています。さらに、情報の連続性を維持するためにも、途中で名前を変えることはなるべく避けるべきであると考えます。
 誘導でも人工でも良いじゃないか?分かりやすさが重要だという雑な議論も可能かも知れませんが?人工というならば、総ての因子を網羅できて自在に操作し、しかも体内の多能性幹細胞と同じ細胞を創り上げるという大げさな意味であるとも解釈できます。上位概念を命名するとは、少し課題な期待が込められなお且つ傲慢な臭いがします。誰に分かりやすいかを隠した議論は、大衆迎合に陥ります。
 「iPS細胞は報告した4因子だけで誘導できるかどうかはまだ分かりません。米Wisconsin大学のグループが4因子の内、2つを他の2因子で置き換えて誘導できたと報告していますし、米Goldstone研究所がklf4ではなくても、類似したklfファミリーで代替可能だと発表しています」と中山氏は指摘しています。まだ、本当に人工多能性幹細胞を作るところまで私たちの知識は十分ではないと思います。
 iPS細胞は人工多能性幹細胞のサブクラスとなる可能性があるでしょう。誰が、名前を変えることを迫ったかは、教えてもらえませんでしたが?文部科学省やJSTだったら本来科学を擁護すべき機関として、節度を超えた行為だと思います。「わかりにくいぞ」と政治家から圧力がかかってもきちっと説明する責任があります。もし、メディアであるとするならば、私たちにも責任があります。余りにも大衆迎合ではないか。誘導性多能性幹細胞の研究がまだ端緒を切ったばかりで、今後、大きく変容するであろうことを見通しておりません。真実はディテールに宿ることをもっとジャーナリストは認識しなくてはなりません。
現状の多能性幹細胞研究の俯瞰
 多能性幹細胞   ES細胞         内部細胞塊由来
                          その他の細胞由来           
             人工多能性幹細胞  iPS細胞
                          その他の手法で誘導した細胞
 勿論、今後こうした分類も変更を余儀なくされると思いますが、頭の整理にはなるでしょう。
 今週もどうぞお元気で。まずは怒りから始まってしまいました。
     Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満