写真:98年に米国留学中に開発されたばかりのヒトES細胞の研究の機会を得た熊本大学粂教授。この幸運がアフリカツメガエルの発生学の研究者を、ヒトやマウスのES細胞研究の最前線に押し出しました。
 皆さん、おはようございます。本日の午後3時から開催される厚労科学技術会議技術部会で、厚生労働科学研究費に関する利益相反指針が決まります。本会議で承認されれば、08年4月から施行されます。利益相反とは耳慣れない言葉ですが、この管理体制如何で皆さんの研究が活きるも死ぬも決まるほどの重大事であると私は思っています。
 生命科学やバイオテクノロジーの発展によって、医学や創薬研究が高度化するにつれ、大学や研究機関、病院が大企業やベンチャー企業との共同研究によって、新しい医療技術や新薬を開発する産学連携がどうしても必要となります。従来、我が国は産学連携の門戸を閉ざしていたため、出口の無い研究、つまり純粋基礎研究に終始していたため、構造的に膨大な国家による研究投資が、国税を支払っている患者さんのために役に立たないという矛盾がありました。
 2000年から始まったミレニアム計画でも、確かに動物実験の成果に関する基礎論文では日本人研究者の貢献割合が増加していましたが、臨床研究での貢献は振るわない、つまりあんまり役に立たないことが露呈してしまったのです。
 そこで第三次科学基本計画では、産学連携による実用化が強調されることになったのです。医学は応用ヒト生物学ですから、患者さんの幸福に繋がってこそ、存在価値があります。どうしても企業との協力体制が不可欠です。
 ところがここに大いなる疑惑が生じました。大学や病院での研究開発が企業からの利益誘導によってゆがめられることはないのか?という点です。
 メディアは疑り深いですし、変化には敏感です。また、日本の研究者や研究機関が不慣れなこともあって、タミフル問題などの事件が報道されました。かつてアンジェスMG未公開株疑惑のように第二のリクルート事件と新聞で花火のように報道され、実は誤報であったという混乱もあります。
 産学連携には、利益相反(Conflict of Interest,、COI)は避けられません。利益相反という漢字のイメージが強く、あたかも悪いことのような印象をほとんどの皆さんが持ちます。厚労科学技術会議技術部会の議論でもほとんどの委員は当初、こうした理解だったと思います。結局、利益相反は状態を示す言葉で、善悪の判断を含まないという合意に至ったのですが、結局、実態を表す訳語がなくCOIという表記を今回制定される指針でも公式な言葉として使用せざるを得なかったのです。
 COIは大学の研究者が大学や公的研究機関と企業と両方のために活動するために生じる状態です。COIを管理するとは、企業による利益誘導によって大学や公的研究機関の研究者が影響されていない、あるいは影響されていると社会から見なされないために、行う管理です。基本的には産学連携をバリバリ進めながら、大学や公的研究機関の公共性を維持し、研究者が誤解を受けることを避けるための方策であり、社会に大学や公的機関が責任を持って産学連携を適切に進めていることを説明する責任を果たすことです。
 具体的には、研究者と近親が企業からの受けている資金や資産(研究機器の無償提供など)、株式などの金融資産などを予め大学や研究機関のCOI管理委員会やそれに相当する組織に届け出る必要が出てきます。いかにプライバシーを護りながら、研究者の協力を得て、適切に管理するか、大学や研究機関のマネージメント能力が問われます。具体的にCOI管理委員会などを新たに発足する必要もあります(暫定措置として国が肩代わりする用意も提案されるはずです)。
 また面倒なことが増えると思われる方も多いでしょうが、皆さんが誤解を受けることを避けるためには是非とも必要です。産学連携に深く関与すればするぼど、一種の保険として活用していただきたい。「あいつは学問をないがしろにして、儲けに走っている」というくだらない学内の嫉妬に対する保険にも長期的にはなると確信しています。
 今まで大学の利益相反管理体制整備は、文部科学省が一種のお願いベースで大学や公的研究機関に促してきましたが、管理体制整備は必ずしも順調に進んでおりませんでした。今回の厚労科学研究費のCOI管理指針の画期的なことは、2年間の猶予期間を設定していますが、管理体制整備なき機関には研究費を支出しないことを盛り込んだことです。私はNEDOやJSTなど他の国家研究費の交付機関も早急にCOI管理体制整備を、資金供与の条件にすべきだと考えています。
 やっと我が国でも米国国立衛生研究所や米国国立科学財団の研究費配布と同じ土俵に立つことができました。今までの阿吽の呼吸の曖昧さによる放埓な産学連携関係と産学連携の遅滞が混在する状態を整理し、国民の支持を受ける生命科学や医学研究に向うことができるのではないでしょうか?
 皆さんはどう思われますか?
 指針の詳細は日経バイオテクオンラインとBTJアカデミックで報道いたします。
   Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満
ps
 バイオ関係者の8割が受信しているメールニュース、BTJ/HEADLINE/NEWSはもうご登録いただいていますか?まだの方はどうぞ、下記よりご登録願います。毎週、月、水、金送信。
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/btjh/index.html
 テイラーメイド医療、オーダーメイド医療に関する週1回のメールニュース「個の医療」もどうぞご登録願います。最先端の個の医療の動きを把握できます。毎週水曜日送信。
http://passport.nikkeibp.co.jp/bizmail/p-med/index.html