tsuruoka080307.jpg写真:昨日の鶴岡の夕暮れ、この時に直径5mmの雹が降っていました。しかし、雲間の切れ目の夕陽は、さながらターナーの絵画の様でした。
 高松から羽田を経由して、鶴岡のメタボロームキャンパスを訪問しています。
 ベンチャーとアグリバイオの取材を行っているところです。新しいインキュベータの建物の大きな窓越しに、白い雪が積もる中庭が陽の光を反射して輝いています。最先端のバイオ研究と美しい風景が、鶴岡では融合しつつあります。
 さて、個の医療です。
 我が国でも、がんワクチンのフェーズIII臨床試験を、今年の夏にもグラクソスミスクライン(GSK)が開始することがほぼ確実となってきました。グリーンペプチドやイミュノフロンティアなどの大学発ベンチャー企業が、臨床試験に入っております。手術、抗がん剤に加えて、第3のがん治療手段として、臨床評価に耐えられるワクチンが登場しつつあるといえるでしょう。
 問題は、がんワクチンは個の医療化せざるを得ないことです。
 抗原を認識するHLA(組織適合抗原)の分子型が個人毎に異なるため、がんワクチンに使用するがん精巣特異抗原のエピトープを患者のHLAの型に応じて選択する必要があるのです。現在、臨床試験中のがん精巣特異抗原のエピトープは対象となる地域に集団の主要な型のHLAが認識するエピトープを複数使用することで対応しています。
 次の問題は、がんワクチンがアジュバントにもよりますが、がんに対する攻撃力(細胞障害性)が必ずしも十分確保できないという現実です。現在、フェーズIIIを全世界で臨床試験を計画しているGSKのワクチンではがん抑止傾向はありましたが、統計学的に有意な結果は得られていません。
 抗がん効果を増大するために、患者から分離した抗原提示細胞をがん精巣抗原で刺激活性化、増殖して、再び患者さんに戻す細胞治療の臨床試験も進んでいます。この分野のパイオニアは米Dendreon社であり、患者特異的な前立腺がんの能動的細胞免疫医薬である「PROVENGE」(sipuleucel-T)の実用化を、米国食品医薬品局(FDA)に申請中です。無症候の転移性アンドロゲン非依存性前立腺がんの治療薬として発売する予定です。
 世界初の抗がん・細胞治療製剤となると期待されています。
 但し、実用化にはもう一つ関門がありました。患者から分離した抗原提示細胞をがん精巣抗原で刺激するのですが、抗原提示細胞は個人毎に活性化の程度、つまりPROVENGEの抗がん作用に強弱があり、それが患者にPROVENGEを注入してみないと効果が予測できないという大問題が残っていました。FDAは、PROVENGEの承認には有効性を示す評価指標が必要と宿題を課していました。
 Dendreon社が苦闘の末たどり着いたのはCD54でした。CD54を高発現している抗原提示細胞は活性が高く、抗がん効果も高いことを突き止めました。詳細は、Cancer Immunology, Immunotherapy誌電子版に2008年2月23日に報告されました。これによって、がん精巣特異抗原で処理した抗原提示細胞の活性化を事前に測定することが可能となりました。FDAに課された宿題を解くメドが立ち、販売認可に一歩近づいたといえるでしょう。
 気付いてみれば当たり前ですが、CD54はICAM-1という膜貫通型の糖蛋白異質でT細胞と抗原提示細胞の接着を促す分子でした。活性化した抗原提示細胞がT細胞にがん精巣抗原、実際には前立腺がんに高度に発現されるヒト前立腺酸性ホスファターゼ(PAP)のエピトープを提示し、この抗原を特異的に認識する細胞障害性T細胞に分化することによって、PROVENGEの抗がん効果は発揮されます。T細胞に抗原提示細胞が接着すればする程、抗がん効果は期待できるはずです。CD54は現在の免疫学の理論からも、抗原提示細胞の活性化のマーカーとして合理的に説明可能です。
 詳細は日経バイオテクオンラインの記事を下記でご参照願います。 
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0981/
 話は変わりますが、昨日から満を持してブログ「Webmasterの憂鬱」を公開いたしました。写真ともう少しカジュアルな意見を皆さんと交換したいと思います。是非とも下記から毎日お越し願います。
http://blog.nikkeibp.co.jp/bio/miyata/
 今週もどうぞお元気で。