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写真:廃校となった小蓑小中学校が、希少糖の研究センターに変貌(クリックすると拡大します)
 今朝の高松は冷え込んでいます。空港のロビーから臨む山々も白く霜をいただいています。
 昨日(2008年3月4日)、最高裁判所第二小法廷で、薬害エイズ事件で禁固1年、執行猶予2年の判決を不服として上告していた、元厚労省血液製剤課長の松村明仁氏の訴えを棄却しました。これによって、公務員の不作為による有罪が我が国で初めて確定いたしました。血液行政は厚労省の組織として取り組む課題であるが故に、たまたま担当者であった個人に責任を問うのは無理だという意見も、霞ヶ関にはあるようですが、今回の判決はこうした考えに変更を迫るものです。
 HIV1ウイルスが混入した血液製剤によって600人以上の死者を生んだ責任が問われています。1985年と86年に最高裁判所は明確な線引きを行い、科学的に非加熱血液製剤がAIDS発症の原因であることは86年に認識でき、対策を打たなかった不作為の責任を問いました。薬害エイズ事件は血液製剤メーカーだった旧ミドリ十字の経営者(1人は厚労省事務次官経験者)や当時血液製剤の臨床応用に発言力を持っていた医師(1審無罪、控訴審中に病死)、そして元厚労省の松村課長が提訴され、病死した医師を除き全員有罪が確定しました。
 80年代のバイオ研究の焦点の一つは後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因究明と診断薬や治療薬開発でありました。薬害エイズ裁判で提訴された全員に取材した経験があり、今回の判決は単なる報道以上にリアルなインパクトを私に与えています。AIDSの国内第一発症例をみすみす目前にして、今回の裁判で提訴された医師のエキセントリックな振る舞いに、その情報を判断保留にしてしまった悔いが残ります。その後の報道に関しても、患者さんの感染拡大を防ぐために、もっと効果的な取材ができなかったのか、という悔悟もあります。
 20年前の不作為がやっと司法の指弾が受けた格好ですが、確定医療崩壊による救急患者の死亡、産婦人科医や小児科医不足による患者の死亡や傷害など、医療制度の構造上の問題の根本的な解決に着手せず、ひたすらモグラタタキのように制度の漸進的手直しや診療報酬の改定で対応している現在の厚労省の姿は、なるほど不作為を問うことは困難かも知れませんが、根本的な医療制度の制度疲労を放置してきた厚労省と国会の不作為であることは明白です。現実に我が国の医療は崩壊し、国民の安全と安心、そして時には命までが失われています。現在の療報酬制度を医療の質向上に資する仕組みではないという、東京医科歯科大学大学院教授の川渕孝一氏の主張は説得力があります(日本の医療が危ない、ちくま新書)。この本は2005年に発行された本ですが、現在進行する医療崩壊を的確に予測したものです。診療報酬の漸進的改訂では医療崩壊は防げないというのです。
 組織を隠れ蓑に、自らの責任を希薄化、転嫁する仕組みとして高度に洗練されてきた我が国の官僚制度がいよいよ立ち行かなくなりました。こうした責任回避による決断の遅れが、変化に対する対応を遅滞させ、年金、医療、防衛、食糧生産、教育、地方自治、警察など、我が国を国としてならしめている制度群の機能不全を生じています。このままでは、中進国にも国としての機能で遅れを取ります。アステラス製薬がとうとう臨床開発の拠点を、4月から米国に移すことを発表しました。これで我が国の製薬企業トップ4は総て、世界の医薬市場の牽引車であり、世界市場に通用する臨床開発と許認可のシステムを国として整備した米国に軸足を移しました。ビッグファーマもアジア市場の拠点を上海やシンガポールに移しつつあります。
 我が国も早急に国家としてのたな卸しをし、既得権を外し、制度と統治原理の近代化を進めなくてはなりません。政権交代の時期かも知れません。年内に予測される衆議院選挙で国民は判断を迫られています。私はきっと混乱も、政界再編成も起こると思いますが、何もしない不作為を許すよりは変化を求めたいと思っています。
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写真:旧職員室には希少糖を精製する擬似移動相のイオン交換クロマト装置が設置されている。
 昨日、香川県三木町の廃校に誕生した希少糖を開発するベンチャー企業、希少糖生産技術研究所を取材しました。人口減少を逆手に取り、変化を決断した関係者に敬意を表したいと思います。黒板が残る教室に酵素反応で機能性希少糖であるDプシコースを製造するラインを見た衝撃は忘れえぬものです。放送室は校舎の3階には宿泊施設があり、昨年12月と今月、スーパーサイエンススクールの高校生24人以上が、ここでバイオの実験や教育を受けます。廃校には元気な声が戻ってきました。廃校を全国から若者を吸引する存在に変えたのは、変化を先取りした意思だったと思います。近く、Biotechnology_Japanで報道しますので、ご期待願います。
 国民生活に直面し、痛みを知る地方自治からこそ、国の制度改革は学ぶ必要があるのです。
 但し、自治省が握る地方交付金の算定方式は極めて複雑で誰にも分からないと自治体の関係者から聴きました。こうした国の非合理な支配が、地方自治の自由度ややる気を殺ぎ、ひいては国の未来にも陰りを生んでいることも忘れてはならないのです。
 誠に国が厄介な存在になってきました。
 天は自ら助くるものを助ける。この言葉の重みが増しています。皆さん、どうぞお元気で。
                           Biotechnology Japan Webmaster 宮田 満
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