今週は国立がんセンター国際交流会館にこもりきりで、厚労科学研究費の研究成果発表会を集中取材しています。いずれの研究成果発表でも、臨床研究と患者さんに対する成果還元を強く意識されていました。5年前とは隔世の観があります。
 産学官患の4社の共同研究体制が整備されつつあるといってよいでしょう。今後、臨床研究や医師主導の臨床研究が増えるでしょうが、患者さんの保護のためにも、臨床研究に対する保険のカバーは是非とも厚労省が頑張って、頑迷な保険会社を説得して実施していただきたいと思います。
 薬物動態に関わる遺伝変異をマーカとする第一世代の個の医療は順調に実用化を進めていますが、創薬標的の遺伝変異をマーカーとする第二世代の個の医療の新薬開発も、続々と臨床研究が始まりました。
 米Plexxikon社は2008年2月19日、同社が開発したB-Rafキナーゼ阻害剤がB-Raf 遺伝子変異を含む腫瘍細胞を極めて選択的に破壊するとの研究結果を発表しました。米Wistar Instituteとの共同研究です。Proceedings of the National Academy of Sciences誌の08年2月19日号早版と2月26日号に掲載される予定です。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0684/
 B-Raf変異は腫瘍細胞にのみ発生し、大部分のメラノーマ、甲状腺腫瘍、結腸直腸がんやそのほかの多数のがんにも存在します。特にB-Raf変異を持つ腫瘍は悪性で生存率が低くなる場合が多いのです。選択的B-Raf阻害剤はこれらのがん患者に福音をもたらす可能性があります。
 今回、Plexxikon社と米Wistar Instituteが行った研究では、さまざまながん細胞において、同社が同定したB-Raf阻害剤はB-Raf陽性細胞の細胞周期停止や細胞死(アポトーシス)を増大し、健康な細胞にはダメージを与えないことを示しました。
 現在、同社はスイスRoche社と共同で、同社の選択的B-Raf阻害剤「PLX4032」のフェーズI試験を実施しています。対象患者の選択に、米Roche Molecular Diagnostics社と共同でB-Raf変異を持つ患者を同定する遺伝子診断テストも開発しています。Roche社はAbbott社と並び、診断薬と新薬開発部門を持つ珍しいビッグファーマです。他のビッグファーマは新薬開発に資源を集中し、見かけ上の一株当たりの収益性を追ってしまいました。我が国でも第一三共誕生後に、第一化学薬品を積水化学に売却するなど、同様な傾向が起こりました。
 その意味では、Roche社とAbbott社が最も個の医療の開発基盤を持つ製薬企業といえると思います。
 今回の画期的な変異型B-Raf阻害剤を個の医療として、最初から開発する基盤をRoche社が提供すると期待しています。「PLX4032」のフェーズI試験は、用量増加フェーズのがん患者登録を完了しており、次フェーズとしてB-Raf変異を持つメラノーマ患者を対象に抗がん活性を検討する計画です。患者の選別にはRoche Molecular Diagnostics社がPlexxikon社の協力の下、今回の試験のために開発した治験診断テストが用いられる。同フェーズの患者登録は08年末までに完了すると見込まれています。これまでの結果では、「PLX4032」は最大用量においても安全で良好な忍容性を示しています。
 「PLX4032」は次世代の個の医療の注目株といえるでしょう。皆さんもどうぞご注目願います。
 今週もどうぞお元気で。