連休でへとへとに疲れた身体を飛行機の座席にすっかりあずけて、福岡に飛んでいます。
 困ったことにさっきから、中洲のうどん屋に駆け込むことばかり思い浮かべております。高松のうどんは有名ですが、博多のうどんも決して軽んずることができません。熱々の汁から立ち上る湯気に、ばさっとかけた花鰹がまるで生き物のようにゆらゆらと踊るイメージまで、眼前に浮かんでおります。まさに、心神耗弱の証です。日本の男子柔道のようでもあります。
 それはさておき、本体の目的は、バイオベンチャーと九州大学がグローバルCOEとして取り組んでいる疫学研究、福岡コホートの取材です。
 福岡県が音頭を取り営々と続けてきた、フクオカベンチャーマーケットも、今日で第100回を迎えます。ベンチャーと企業の商談の場として、名ではなく実を取る逞しいインフラを形成したと言えるでしょう。バイオはまだ決して多くはありませんが、半導体、ITCや食品、環境に続き、バイオも立ち上がる兆しがあります。これを取材しない訳にはまいりません。
 医療産業都市構想を掲げ、巨額な国家投資を背景にいわば正攻法で研究機関と医療機関、さらには京速スパコンまで誘致、圧倒的な頭脳の集積を背景に、ベンチャーを誘引する神戸市とは対極的に福岡の戦略は位置していると思います。
 まず、商売ありき、商談ありき、コミュニティありき、の戦略であります。
 博多商人の逞しい伝統です。江戸時代、世界最大の銀の生産地であった我が国の主要銀山であり、今では世界遺産にまで零落れた石見銀山まで所有し、戦国時代から江戸時代にかけて、アジアでの(密)貿易すら行っていた博多商人の伝統が今や鮮やかに蘇ろうとしています。
 実は調べてびっくりですが、明治時代に九州大学を誘致したのも博多商人達でした。随分前に神戸市が今いそしんでいる知的コアの誘致は済ませていたのです。福岡市箱崎にある大学の敷地をそっくり政府に寄付、有力候補であった熊本から九州大学を奪取いたしました。旧制高校は熊本に設置されており、旧制高校と旧7帝国大学が分かれているのは九州大学だけであることが、その事実を物語っています。
 さらに、福岡を中心に円を描くと、上海などの中国の都市と東京がほぼ等距離圏に入る地政学的優位を活かし、アジアのハブとしてアジア諸国の急成長の波に乗る戦略も功を奏し始めました。既に福岡県のバイオクラスターの中心である、久留米リサーチセンターは韓国のバイオリサーチパークと姉妹関係を結んでいます。100回目の福岡ベンチャーマーケットにもITCですが、インド企業2社がプレゼンをしています。
 今ではJRの駅で珍しくなくなった韓国語や中国語の表示も、福岡駅で最初に目にしたと記憶しています。今朝のTV番組の受け売りですが、最新の貿易統計では、米国との貿易額は我が国の総貿易額の17%(本当でしょうか?)と縮小しており、今や貿易立国の我が国を支えるのはアジア諸国との貿易であることを直視しなくてはならないでしょう。今はちょうど中国のお正月にあたる春節ですが、箱根の大涌谷でTV番組の担当者がカウントしたところ、3割の観光客が中国から来日した観光客でした(これもTV番組の受け売り)。今朝はちょっとした衝撃を受けています。アジアの成長の波動にどう同調し、取り込み、そして後の先を打つか? 欧米だけを見ていた我が国のバイオ振興政策も再考すべき時が来たのかも知れません。
 今週の木曜日にはバイオベンチャーに対する投資関係者とライセンス担当者の教育プログラム、バイオファイナンスギルドのセミナー(非公開)を密かに開催します。今回のテーマは「遺伝子治療の復権」です。タカラバイオ、ジーンメディシン、ディナベックの遺伝子治療ベンチャーが揃い踏みしますが、よくよく考えてみると、3社とも、わが国に先行して、中国や韓国で遺伝子治療の臨床試験に着手しています。既に、これらの企業はアジアの成長の波動を掴んでいるといっても良いでしょう。
 勿論、その背景には、遺伝子治療などとんでもないと進歩を敵視する我が国の既得権の塊、厚労省、総合機構、製薬企業、一般の医師、そして情報を十分与えられていない患者や市民、など、わが国の成長を阻む壁が存在しています。
 しかし、こんなことでよいのですか? 先週のG8(蔵相会議)にタイミングに合わせて、欧米は大胆な公定歩合の引き下げを行いました。その時に円は本来なら暴騰するはず(金利差が縮小したから)ですが、一時、109円台まで値が下がったのには驚きました。今は106円に復帰しましたが、この一時的な円安は、欧米の政府や金融担当者が世界景気の後退を食い止めようと必死の努力をしている最中、まったく無策、徒手傍観する我が国の政府と日銀への最後のサインだったのかも知れません。我が国ではこうした最中、次期日銀総裁人事だけが話題に上っています。しかも、民間や日銀出身ではなく、どうやら財務省元次官に決定との報道です。既得権の壁は、福田内閣になってから、ますます高く強固になりつつあるのです。冬来たりならば、春遠からじ。夜明け前に深まる闇であることを祈っております。
 もう一つ、日本沈下の証拠を。
 先週、武田薬品が米Amgen社の日本法人を買収したニュースが伝わったところ、米Amgen社の株価はNY市場で18セント下落しました。NYタイムズが9億ドル以上の契約だと見出しでもて囃したのにもかかわらずです。同紙の記事もよく読むと、米Amgen 社が先に第一三共にライセンスした抗RANKL抗体、デスノマブがブロックバスターであり、武田薬品の今回のディールは1種類の低分子の標的医薬を除き、日本国内だけの権利に止まったこともあり、世界レベルでの影響は少ないとの判断でした。
https://bio.nikkeibp.co.jp/article/oc/2005/0205/
 特に米Amgen社のESA(赤血球増加薬、エリスロポエチンやアラネスプなど)のがん患者に対する使用制限に、メディケア・メディケイドが積極的な支持を仄めかしているなど、Amgen社の利益の源泉であったESA市場がまだまだ縮小する可能性に対して、武田薬品から得た資金ではいかんともし難いという判断です。日本では成功物語のように喧伝している今回のディールですが、米国での反響は極めて小さいさざ波に止まっています。
 武田薬品も日本でこそ一挙に10数個の抗がん剤のパイプラインを導入できましたが、国内販売だけで、尚且つ米Amgen社が我が国での共同販売権もまだ保持しているディールです。これで満足しては20年前の海外からのライセンスモデルに先祖がえりしてしまいます。両者にとって今回のディールはなんだったのか? 10年後に検証が必要だと思います。
 さて、07年2月21日終日、東京の品川で開催するBTJプロフェッショナルセミナーWITH KOBEも、残り本当に僅かとなってまいりました。今日明日にも員札止めとせざるを得ない可能性があります。お申し込みまだの方は、下記よりお早めにお申し込み願います。
http://ac.nikkeibp.co.jp/bio/kobe/
 会場でお会いいたいましょう。
 最後に第7期のバイオファイナンスギルドも、08年7月から開始することが決まりました。150万円と高額の教育プログラムですが、実はあります。バイオベンチャーやバイオの政策決定者、バイオ投資家など、バイオのキーマンとのネットワークを形成する機会に溢れております。最近では製薬企業のライセンス担当者の参加も増えております。是非とも読者の中で志のある方は、予算化を願います。詳細資料は、miyata@nikkeibp.co.jpまでご請求願います。
 今週も元気で参りましょう。