現在、高松に向う機上で、この原稿を書いています。
 岡山空港は雪で天候調査中でしたが、瀬戸内海をはさんだ高松空港は曇り、気温1度、これで雨雲が生まれれば、岡山同様、雪は避けられない状況でした。本日は、午後に徳島に移動、明日は大分経由で、水曜日にはつくば市で開催される糖鎖工学の産業フォーラムを取材します。四国と九州、そして関東に渡って、一筆書きをする愚を冒すことになります。今回のテーマはバイオクラスターであります。
 さて、全豪オープンが開催されており、昨日、今回もなかなか洗練されたユニフォームで登場したシャラポアがシード選手のディメンチェーワを一蹴、更にはエナンとセレナも好調振りを示しました。男子ではキプロスのバグダディスが特徴の髭面をさっぱりとそり落とし、好青年と変貌したのは、どんな心境の変化か。サフィン、ヒューイットと大熱戦を繰り広げ、朝5時までヒューイットと競り合った後、地元の声援の差に苦渋を飲み、コートを去りました。王者フェデラーが不調を露呈しており、今年の男子シングルスは波乱を呼びそうです。オーストラリアのヒューイットが優勝する可能性を、地元紙が喧伝しているところです。確かにチャンスはある。優勝すれば、ロッドレーバー、ローズウォール以来(古すぎます)の快挙となるやも知れません。
 怪我の癒えた中村のセルティックスも今年初勝利を上げ、一安心。しかし、北京オリンピックで女子マラソンと並んで、メダルは堅いと踏んでいた、女子レスリングが、中でもこのまま絶対引退まで不敗だと信じていた吉田選手が、無名の選手に負けました。判定など問題はありますが、この負けを活かし、さらに吉田選手が強くなることを期待しています。吉田に涙はもう無用です。
 バイオに関しても、負けられない戦いはあります。
 iPS細胞の研究開発と知財確保、そしてその実用化は、再生医療が高齢化社会の解決の切り札となることを考えると、我が国としては決して負けてはいけない戦いです。現在、8000億円を越えた、我が国のバイオ医薬市場のほとんどが、外国の知財に基づき、商業化されており、膨大なロイヤルティが太平洋を越えて米国に流れ込んでいます。単純に10%としても800億円、抗体医薬などは20%に迫りますから、ざっと1000億円以上の知的財産に対する対価が海外に流出している格好です。
 これは厚労省が支出している厚生労働科学研究費の2倍に相当いたします。文部科学省の科学研究費補助金にも匹敵します。バイオ医薬開発の遅れが、いわばかなりの出血を我が国の国民に強いているのです。
 iPS細胞でも同様なことが起きたら、15年後、私達は成熟社会ではなく、ジリ貧の老齢社会を避けることはできないと懸念しています。もし、知的財産確保に成功すれば、米国と相打ちでも、無駄なロイヤルティ負担は無くなり、上手く行けば、欧州やBRICSから特許収入を確保できる可能性があります。そして知的財産権を所有している京都大学が、それを善用できれば、さらに次世代のバイオ医薬・医療の研究拠点として発展することができると確信しています。
 近く、京都大学はiPS細胞研究センターを開設します。文部科学大臣、経産大臣、厚労大臣、そして総合科学技術会議まで巻き込んで、我が国に俄かにおこったヒトiPS細胞への熱狂は、確かに国を、そして国民の心を大きく動かし、1年半遅れたとは言え、異例の速さで研究費の20億円の増額と研究組織構築がぶち上げられました。
 山中教授に対する報道は加熱し、AERAの表紙やNHKのクローズアップ現代などにも登場、1月から山中教授にメールすると、自動返信で「患者さんのために日夜努力をしております.....」という涙なくては読めないようなメッセージが返信されるほどです。きっと研究室にメールや電話が殺到しているのではないでしょうか。
 もうそろそろ国民や政治家の期待の過熱と研究者の嫉妬はおしまいにして頂きたい。1月23日に、京都大学にiPS細胞研究センターが組織として誕生します。学外のレンタルラボから手始めに、最終的には新研究棟の建設まで2年程度の期間をかける模様ですが、こうした研究の核が出来た以上、これからはブームではなく、着実にiPS細胞の研究を、基礎と臨床開発の二つのベクトルで急がなくてはなりません。下らぬコミュニケーションロスを甘受する時間はないのです。
 近くスクープいたしますが、海外でiPS細胞を実用化するベンチャー創業に拍車がかかっており、水面下ではiPS細胞を巡る知財の猛烈な争奪戦が始まっています。マウスiPS細胞開発では、間違いなく京都大学山中教授が世界の先陣を切りましたが、ヒトiPS細胞では必ずしも先陣を切ったかどうか、沈黙を守る先行特許出願を行った企業の噂もあり、全く予断を許しません。ノーベル賞は間違いないでしょうが、蓋を開けたらiPS細胞の臨床応用の特許は海外に押さえられているでは、これだけの国民的熱狂が完全に裏切られることになります。
 メディアの特性から言えば、間違いなく、自分達が無責任に持ち上げすぎたことを忘れ、iPS細胞叩きに転じかねません。前のメールでも書きましたが、知財管理や米国のベンチャーとの矢面に立つ、京都大学だけでは経験と人材不足でとても太刀打ちができません。意思決定が遅く、しかも、待遇が悪く人材を吸引できない大学では名うての米国のベンチャー企業を相手に、交渉することは夢のまた夢です。
 iPS細胞の知財争奪戦で負けない戦いを行うために、我が国でもiPS細胞の知財管理を行うベンチャー企業を創立し、有能な人材を集結したチームを迅速に編成しなくてはなりません。
 世界で最も早いスピードで高齢化が進む我が国の未来がかかる戦いです。
 iPS細胞で国民を失望させたら、ES細胞や成人性幹細胞研究も、ひいてはバイオ研究も総崩れとなることを肝に銘じて、生命研究者はオールジャパンで支援を願いたい。
 皆さん、本当に一蓮托生ですぞ。
 なんと高松に着陸したら、雪景色。
 冷え込みそうですが、ご自愛願います。